マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国の利上げとQT(量的引き締め)について解説していただきます。


米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は5月3-4日に開催するFOMC(連邦公開市場委員会)で、0.5%の利上げとQT(量的引き締め)の開始を決定する可能性が高そうです。

QE終了後すぐにQT開始へ?

QTとは、QE(量的緩和)を通じてFRBが保有するに至った国債などの債券の残高を縮小させることを指します。FRBは昨年11月に開始したテーパリング(QEを段階的に縮小・終了すること)を3月に完了したばかりです。それでも、6日に公表された前回3月のFOMC議事録によれば、すでにその時点で「早ければ5月から開始することに合意した」とのことです。

ハト派理事のタカ派発言の背景

5日にはFRBのブレイナード理事が講演で、「一連の利上げと、急速なバランスシートの縮小(QTのこと)を通じて、整然と金融引き締めを続けていく」と述べて、金融市場を驚かせました。副議長に指名されて議会の承認を待つブレイナード理事は、経済成長や雇用創出を重視して金融緩和のバイアスがかかりやすい、いわゆるハト派と目されていました。それが物価安定(インフレ抑制)を重視するタカ派的な発言をしたのです。ただ、これはブレイナード理事がタカ派に転向したというより、ハト派でさえも足もとの高インフレの抑制を最優先に考えざるを得ない状況だということでしょう。

複数回の0.5%利上げも!?

FRBは3月15—16日のFOMCで0.25%の利上げを実施、20年3月のコロナ・ショックに対応して導入した「ゼロ金利」を解除しました。同じFOMCで公表された「ドット・プロット(中央値)」は、利上げ1回につき0.25%幅を前提とすると、年内残り6回のFOMC全てでの利上げを示唆していました(※1)。ただ、当時も「インフレ圧力が高止まりするか、あるいは一段と高まれば、1回または複数回の0.50%の利上げが適切になりうる」と多くのFOMC参加者が考えていたことが、議事録から明らかになりました。

※1: 詳しくは3月18日付け「米FRBのアグレッシブな利上げは実現するか」をご参照ください。

FOMC参加者の利上げ予想は上方シフト?

FRB内部で、0.50%の利上げが必要との見方は強まっている可能性があります。ハト派の代表格であるミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は3月24日の講演で、自身の予想が「ドット・プロット(中央値)」と一致しているとし、予想する政策金利の軌道が過去6カ月間に劇的に変化したと指摘しました。最もハト派的なカシュカリ総裁の政策金利予想がFOMC参加者の予想の中央値になるとは考えにくいので、前回FOMCから現時点までに各参加者の政策金利予想は上方にシフトしている可能性が高いでしょう。

政策金利は金融引き締めの領域へ?

OIS(翌日物金利スワップ)というツールを用いて、金融市場が予想する金融政策を調べてみると、利上げ1回につき0.25%幅を前提とすると22年中に残り8.6回という結果でした(4月7日時点)。すなわち、残り6回のFOMC全てで利上げを行い、そのうち2~3回は0.50%幅という解釈が可能です。かなりアグレッシブな利上げです。金融市場の予想通りなら、22年末の政策金利は2.5%。これは景気を刺激も抑制もしない、いわゆる「中立水準」をやや上回ります。先の「ドット・プロット(中央値)」が示唆する中立水準は2.4%でした。つまり、金融政策は強力な緩和から正常に向かうだけでなく、22年中に引き締めの領域に入る可能性が高いということでしょう。

イールドカーブの形状変化に要注意

4月1日に発表された米国の3月の雇用統計は、ハイペースでの雇用創出が続いており、労働所得が物価上昇率を上回るペースで増加していることを示しました。その他の経済指標も比較的堅調です。ただし、4月1日~5日には10年物国債利回りが2年物国債利回りを下回る、いわゆる「イールドカーブの逆転」が観測され、リセッション(景気後退)を懸念する声も聞こえてきました。FRBが重視する短期のイールドカーブは急な右肩上がりとなっているため、しばらくはFRBが利上げの手を緩めることはなさそうです。それでも、イールドカーブ全体が景気鈍化を示唆するような形状変化を示さないか、注意しておく必要はありそうです。

※2: 詳しくは4月1日付け「イールドカーブの逆転って、どういうこと?」をご参照ください。