新型は何を目指した?「敵は己だ!」 開発責任者が語ったシビックタイプR

2022年1月14〜16日に開催された東京オートサロン2022では、2022年内に発売予定の新型シビックタイプR プロトタイプが初公開された。テスト車と同じ擬装が施された新型のプロトタイプ車は、スペックなどはすべて非公表。そんななかで開発責任者の柿沼秀樹氏に、新型の詳細について突っ込んでお話を伺った。

【画像】新型シビックタイプRプロトタイプ

■新型の目指すところは?

「てっぺんです。FF車とかいうくくりよりも、ホンダの考える究極のスポーツとして。まあ、その前提としてはFFという、シビックが誕生からずっと大切にしてきたM・M(マン・マキシマム/メカ・ミニマム)思想のもとのF車としてのスポーツを究極に極める、そこが目指すところです」

■NSX、S660の生産終了という動きのなかで、このクルマはホンダのフラッグシップスポーツですよね?

「はい、そうです。ホンダとスポーツというのは切っても切れないじゃないですか。その1つはモータースポーツ。では、それをお客様にお届けする四輪の商品として、ホンダが大切にするスポーツを象徴して作っているのが、シビックタイプRであると思っています」

■何馬力ぐらい目指しているのですか?

「馬力は手段なので、何馬力を目指すというよりも、先代(320ps/40.8kgm)よりも意のままに、クルマを操るための制御性というんですかね、いかに“人”中心で、人が思ったとおりに自信をもって操れる、そこを究極にしようと。新型のコンセプトは、“アルティメット・スポーツ”という言葉なんですけれども、とにかく“てっぺん”。スポーツ性能を究極に磨き上げて、というのを大切にして作っています」

■ホイールは何インチですか?

「見たとおりです(笑)。先代(245/30ZR20)とはタイヤ&ホイールのサイズは変えています。やっぱり先ほど言った究極に磨き上げるうえで、タイヤのパフォーマンス、タイヤには何を担わせて、進化させるかといったときに、『タイヤで欲しい特性、性能はこういうふうにしよう。そのために必要なサイズは何が一番ベストか』というのを検討して、この新しいサイズ(ミシュラン パイロットスポーツ4・265/30ZR19)を選んでいます。むやみに大きくすると重くなるし、今度、クルマにも入らなくなるじゃないですか。だから、このクルマのレイアウト/パッケージのなかで、タイヤで実現すべき性能を発揮するのに一番最適なサイズというのを検討して選びました。

ボディは、5ドアのシビックに対して、タイプR専用のオーバーフェンダーを付けています。タイヤをいかにクルマの四隅に置くかというのはクルマの運動性能をつかさどるうえですごく大事ですから。それを実現するために、ボディ側もタイプR専用で起こしているものは多いですね」

■今回のタイプRは、先代のタイプRをベースに開発を行ったのですか?

「先代の”FK8“が基準になるクルマですね。そこに対して、どういう性能領域まで進化させたいかという目標を定めて、それを実現するために必要な特性、『サスだったらこう、タイヤだったらこう、ボディだったらこう、エンジンだったらこう』みたいなものを提案、要求して作っていくんですけれどもね」

■その目標はどのようなものだったのですか?

「具体的な数字で表せる目標と、なかなか数字では表せないんだけど、乗って感じるようなよさ、みたいなデジタルとアナログの両面でやっています。数字で表せる目標は数字で。でも、乗って質感が高いねとか、意のままだねというのは、なかなか数字では細かいところまでは捉えきれない。そういうところは乗りながら磨き上げていくというんですかね。

数字で表せるようなターゲットを置いて、まずそこに飛ぶために必要な要求をしますと。では、それで今度、人の感覚でしか、達成証明できないような部分は、実際にニュルブルクリンクとか、そういう実路を走ることで、ソフトウェア領域を含めて磨き上げる。ちょうど今、映像で流れているのは鈴鹿サーキットでのテスト風景ですけれども、ああいうことを繰り返して作り上げてきたという感じですかね」

■ニュルで何秒、鈴鹿で何秒という目標ではないのですか?

「それは結果です。進化した結果、鈴鹿で走ると何秒速くなっていましたと。鈴鹿で何秒上げると言ってしまうと、上げるためだけが目標でゴールになってしまうので。先ほども言ったように、タイムがタイプRの一番大切な目標ではなくて、究極のスポーツ性能、意のままにどれだけ操れるか、そこを大事にした目標で進化させたというところですね。

自分の思いどおりに操れるようになったら、そのぶんサーキットを走るとタイムでいったら速くなるんですよね。でも、タイムだけを追ってしまうと、エンジン馬力を上げればそれだけ速いし、タイヤのグリップを上げればそれだけ速くなるんですけれども、そういうことをやっていると、どんどんクルマが大きく、重くなるだけで、効率的じゃないですね」

■そうすると必ずしもパワーアップしているとは限らない?

「まあ、先代と同じなわけはないでしょうね(笑)。ただ、そこの詳細は、この後、これから段階を踏んでお伝えしていこうと思います」

■2Lターボの性能は磨き上げた?

「まあ、2Lターボとはまだ言っていないんですけれども(笑)。ガソリンエンジンですから、ガソリンエンジンをさらに磨き上げるということで開発しています。

新型は“究極の意のままのスポーツ”ですから、エンジンのレスポンス、スロットルに呼応するようなレスポンスというのも、普通のモデルよりも究極でなければいけません。だから、スペックだけがスゴいエンジンをポンと乗っけておけばいいというわけじゃなくて、本当に操作したときに、本当に意のままに呼応するような性能を持っていないと、タイプRのエンジンにはならない。今回はそういうところも、より磨き上げて、進化させていますので、乗っていただいたらビックリすると思います」

■今回注力したのはパワーよりフィーリングのほうですか?

「そうですね。先代の“FK8“も私が担当して、私がやるんだったら、今までのタイプRの延長線上だけじゃない、今の時代に即したクルマにしたいと思いました。つまり、ただ速いだけじゃなくて、だれがいつどこで乗っても、味わいが感じられるようなクルマです。私の中ではこの先代を「第二世代タイプR」と言っていまして、新型もその思いは何ら変わりません。だから、ただ単にニュルのタイムだけとかね、速さだけ、スペックだけのクルマというよりも乗った時に一番感動を味わえる、数値では表せないような、自分とクルマの一体感とか信頼感。そこを開発で一番大事にしました」

■ホンダは”人”中心にこだわりますよね

「とにかく(クルマは)人のためのものであるというのは、初代シビックを含めてずっと根底にあるところです。だから、機械として優秀なものを作るのではなくて、人にとって優秀なものを作るというのが、ホンダのフィロソフィ、思想です。

それで、コンセプトが“アルティメット・スポーツ”です。だから、いつもどんなクルマを作るときでも、目標性能を立てるじゃないですか。要はゴール。何をゴールにしてクルマを作るのか。もちろん、ゴールやターゲットがないと、そこに必要な要求も定まらない。ただ、ゴールを置いてしまうと、これでいいや、これで十分、みたいな話になってしまいます。これを達成できたから、もうこれ以上やらないよみたいな。そういうマインドで作っていると、やっぱり一番になれないというか、飛び抜けた進化はできないと思っているんですよね。やりきれるだけやり切るみたいな(笑)。そこが“究極”という言葉に込められているんですね。てっぺんがなくても、やり切る究極の姿を作り上げるんだという思いが一番大切で、そこをコンセプトワードとしてしっかり定めて作っています。

先代のタイプRも、やっぱり同じ思いで作って、その結果、自分たちが思っていた以上の性能を持つ商品ができたんですね。だから、中途半端なゴールなんか置かないで、やり切るんだぞと。『敵はいない、敵は自分たちだぞ』と。自分たちが進化しきれるだけ進化させるんだ、という思いで作った結果が、そういう姿・価値が作り上げられたので、今回もまったく同じ思想で作っています。『敵は己だ』と。

敵がいると、敵を超えたら、もういいじゃんということになってしまいます。でも性能って、これまでのクルマの文化からすると、別にどこにもゴールはなくて、年々クルマはよくなっていくじゃないですか。ということは目標を置いてしまうと、そこがゴールになってしまうから、本当はもっとよくできたかもしれないのに、そこで動きをやめてしまいますよね。開発だって、あーゴールを達成できたから、開発終了! そういうマインドでやっていると、他に越されちゃうかもしれないですし。まあ、モータースポーツと同じですよね。進化を止めたら、絶対にすぐに負けるじゃないですか。(シビックタイプRは)そういうホンダのレーシングスピリットみたいなものを四輪の商品として背負っているモデルだと思っているので、やりきれるだけやり切ります」

〈文=ドライバーWeb編集部〉