小説「雪冤」で第29回横溝正史ミステリ大賞&テレビ東京賞を授賞した大門剛明の連作短編をドラマ化した土曜ドラマ9『婚活探偵』(BSテレ東、毎週土曜21:00~)。本作で、探偵としての仕事は優秀でハードボイルドを決めているが、女心はからきし分からないという不器用な主人公・黒崎竜司を演じているのが俳優の向井理さんだ。

近年、恋愛ドラマからコミカルな芝居まで緩急自在な役柄でファンを魅了している向井さんに作品の見どころや、今年40歳を迎えるなか、変化した部分などをお聞きしました。

――まずは企画を聞いたとき、どんな印象を持ちましたか?

婚活と探偵という、ある種まったく接点がないようなもの同士をタイトルにしているところに面白さを感じました。しかも4文字だけのタイトルというところも潔くていいですよね。

――台本を読んでいかがでしたか?

コメディではあるのですが、結構原作がしっかりとしたサスペンスなんですよね。そこに作者の実体験である婚活という要素を足した作品。なので物語にしっかりとした謎解きやオチを回収する部分がありつつ、一人の不器用な男の婚活模様も描かれる、とてもバランスの良い作品だなと思いました。

――向井さん演じる黒崎竜司の魅力は?

なんか可愛らしいんですよね。本人は気づいていないんだけれど、周囲から見るとこだわりが強いなど、とにかく変。でも信じた道を突き進み、それに対してまったく疑問を持って来なかった人。それが婚活という新しい出来事に遭遇して、少しずつ自分の考えが変わっていくところが面白くもあり、可愛らしい部分でもあると思います。

――黒崎を演じるうえで意識している部分は?

コミカルな部分をあまり狙わずに、という部分は心掛けています。黒崎は“面白い男”なのではなく、ただ自分の信じる道を真っすぐに生きているだけの男なんです。その真面目さが、浮いて面白く見えているだけなので、敢えて面白くしようと狙うと、視聴者には見透かされてしまうと思うので、あまり「ここはこうしよう」みたいな気持ちは持たずに、とにかく一生懸命黒崎という人間を生きることを意識しています。

――黒崎に共感できる部分はありますか?

僕自身はあまりこだわりやポリシーは持たないようにしているんです。それはこの仕事は自分だけでやっているわけではないから。お芝居というのは、監督や演出家の意図を汲みながらするものなので、ある意味で自分をあまり持たないようにしているところはあります。

――こだわりを持たないというのはデビュー当時から?

あまりはっきりとは覚えていませんが、割と20代のころからインタビューなどでは同じようなことを答えていたので、変わっていないのかなとは思います。

――探偵としてはハードボイルドに、婚活ではアドバイザーに突っ込まれまくってタジタジですが、どのように変化をつけようとしているのですか?

僕自身、探偵と婚活で黒崎という人間を変えようという気はありません。周囲の見え方が変わることで面白くなるというか……。例えば、探偵のときの黒崎の行動は、普通に格好いい部分もあると思うんです。でも昼間、婚活の場面で同じことをやると、見え方がまったく違うので「おかしい」となるんですよね。だから、敢えて探偵と婚活で何かを変えるということはないんです。

――演じていて難しいところはありますか?

特にはないですね。とはいえ簡単な役でもないですが、模索する面白さはあります。でも、ほぼ出ずっぱりなので、その部分で疲れますね(笑)。

――ハードボイルドという言葉に対してはどんなイメージが?

海外の探偵もの、例えば『シャーロック・ホームズ』もある意味でハードボイルドの走りみたいなものでしょうし、『刑事コロンボ』もそうですよね。日本では松田優作さんのイメージもありますが、あまり真似をするというのではなく、世間一般で思われているハードボイルドってこういうものなんだろうな……と思いつつ、そこから足したり引いたりしてイメージしています。

――婚活のシーンは新鮮ではなかったですか?

今回の作品は、実在する婚活会社が資料等を作ってくださっているので、すごくリアリティがあるなと感じています。僕自身そういった経験がないので、ドキュメンタリーではないですが、黒崎と同様にまったく知らない世界に入っていく感覚は新鮮です。どんなジャンルでも、知らないことを知るというのは、楽しいことなので、今後の展開は僕自身も期待しています。

――黒崎は41歳にして、自分がこれまで信じてきたことの根底がひっくり返っていくことを経験しています。向井さんも今年で40歳という節目を迎えますが、最近これまでの考えがガラリと変わったことはありましたか?

ちょうどスタイリストさんと話していたのですが、服装に関する考え方が変わったかもしれません。これまでは家と現場の往復のときは、服装は「なんでもいいや」って思っていたのですが、最近は年相応のものってなんだろうって考えるようになりました。

――何がきっかけだったのですか?

一つは家族ができたということは大きいなと思いました。家族の行事なども増えて、そのときにフォーマルならどんな服がいいのか、またフォーマルではないときはどんな格好をするべきなのか……のようなことを意識するようになったのがきっかけです。あとは、僕自身30歳だから、40歳だからということはあまり意識していないのですが、その年齢のときの先輩方の姿を映像等で見たとき、自分と比べてかなり大人だなと思うことが多いんです。そういう方々の姿を見て、自然と影響を受けている部分は多いと思います。

――本作でのコミカルなお芝居から、シリアスな役、さらに時代劇等でも非常に立体的な人物像を表現されていますが、年齢と共に演じるということへの意識の変化はありますか?

そうですね。台本の読み方が年々変わってきたなと感じています。やっぱり僕らはまずは台本がありきの仕事なので、その台本をしっかり読み解いて、どう演じるかというのはとても大切なことだと思うんです。もちろん、これまでも考えてきたつもりですが、より深く感じるようになってきた気がします。あとは、共演者、カメラマン、監督……共同作業でものを作るという意識は年々強くなってきています。

――それも経験を重ねてきたからこそたどりついたものなんですね。

そうですね。年明け放送された正月時代劇『幕末相棒伝』(NHK)などの時代劇もそうですが、所作や立ち回り、馬の乗り方など、培ってきたものがあると、少し余裕ができるんですよね。そうすると、これまでの経験を役にどう活かそうか……ということが考えられるようになります。手持ちの球種が増えて、いろいろな視点で演じる役を見ることができると、より多面的に捉えられるのかなと思います。その意味では、やって来たことを積み重ねていく面白さは感じています。

――最後に、視聴者の方へメッセージをお願いします。

このドラマはコメディの要素がありつつ、一人の人間が悩みや迷いに打ち勝っていく姿が描かれているので、いろいろな人に引っかかる部分があると思います。あくまで“探偵もの”ではなくコメディなので、気楽に楽しんでください。

(取材・文:磯部正和)

<1月22日放送 第3話あらすじ>

婚活に励む黒崎竜司(向井)の元に、初めて女性からのお見合いの申し込みが。相手は沢木麗子(野波麻帆)。沢木は敏腕検事。仕事一筋で自分と似た境遇の沢木に、黒崎は次第に惹かれていく。

一方、探偵事務所では黛新菜(岡本夏美)から、2年前、渋谷署で起きた事件を調べて欲しいという依頼が。それは、容疑者が取り調べ中に留置所で自殺を図った事件で、黒崎が警察を辞めるきっかけになった因縁の事件だった……。