苦手意識を払拭した逆転劇

2021年のタイトル戦名勝負総決算、本日はお~いお茶杯第62期王位戦七番勝負。藤井聡太王位に豊島将之竜王(当時)が挑戦したシリーズです。前期に初の王位獲得となった藤井、そして豊島はさらにその1年前に王位を失冠しており、相手こそ違いますが、リベンジ戦とも言えます。

第1局は藤井の先手番で相掛かりに進みました。双方が端攻めに出る展開になりましたが、58手目の△9七歩が好手で、豊島がリードします。以下はそのまま勝ちきっての快勝でした。この時点で両者の対戦成績は豊島の7勝、藤井の1勝。通算勝率が8割を超えている藤井ですが、豊島にだけは極端に分が悪く「天敵」とまで言われていました。

■第1局に続いて第2局も豊島竜王がリードを奪う

そして迎えた第2局、先後を入れ替えて角換わりに進みます。前局に続いて強気の攻めを見せた豊島がリードを奪いました。ところが77手目の局面で誤算に気づきます。当初、豊島はここで▲7五角△5一玉▲5三銀と、攻め合いで勝ちに行く予定でした。ですがそれだと△7八金▲5九玉△8九竜▲4八玉△2九竜……と攻め合った末、いかにも詰みそうな後手玉が詰まずに先手負けとなるのです。豊島の77手目は▲5九玉の早逃げでした。直前に読んでいた勝ち筋は錯覚でしたが、残り時間の半分以上を費やした末に路線変更し、きわどく踏みとどまっています。

■明暗を分けた皮肉な逆転劇

対して藤井は△9九金と香を取り、▲4五桂に△8九竜と侵入します。この王手に対する応手が問題でした。豊島は▲6九銀と合い駒しましたが、ここで銀を使ってしまったのが問題でした。以下△4四銀▲3三歩△2二金▲7五角△5一玉と進んだ局面は、後手が逆転しています。ここで先手に銀が2枚あれば▲4二銀が厳しいのですが、1枚だと後手玉に響きません。

では△8九竜に先手はどう指すべきだったのか。合い駒をせずに▲4八玉なら有望でした。ですが前述の変化で▲4八玉には△2九竜で負けるという意識があったのが、正着を選ばせなかったとすれば、何とも皮肉な話です。

藤井が逆転で大きな一勝を上げました。後から考えてみるとこの勝負が両者の明暗を分けたと言えそうです。単なるスコアだけではなく「豊島さんへの苦手意識がなくなった、それが大きいのでは」と、決着局となった第5局の立会人を務めた深浦康市九段は語っています。

第3局からも藤井が連勝し、4勝1敗で防衛成功。筆者は第5局の観戦記を担当する機会に恵まれましたが、藤井に余裕が感じられたのに対し、豊島は終始局面を悲観的に見ていたように思います。この2年前に観戦する機会があった両者の対戦は、難解な最終盤で藤井がミスを犯し、豊島がそれを見逃さなかったという一局でした。何とも対照的な2局と思います。

第63期の王位戦は紅白リーグのメンバーが決まりました。永世王位有資格者の羽生善治九段から、現役最年少の伊藤匠四段まで、バラエティに富んだメンバーです。リーグの戦いからも目が離せません。

相崎修司(将棋情報局)

4勝1敗で初防衛を果たした藤井聡太王位(写真は第62期王位戦七番勝負第4局のもの)(提供:日本将棋連盟)
4勝1敗で初防衛を果たした藤井聡太王位(写真は第62期王位戦七番勝負第4局のもの)(提供:日本将棋連盟)