■綾野剛のストイックな姿勢に感心

エリート官僚の村上真一役には、前作『ヤクザと家族 The Family』、ドラマ『アバランチ』でも共に戦ってきた綾野剛を藤井監督自ら抜てきした。「『ヤクザと家族 The Family』は繊細さや野生味など、どちらかというと剛さんの素に近い部分を撮ることができた映画。今回の村上役は、剛さん本人とはものすごく遠いところにいるキャラクターだと思います」と綾野にとっても新境地となる役柄となった。

村上は「国民に尽くす」という理想に燃えて経済産業省に入省しながらも、次第にその理想が崩れ、苦境に立たされていく役どころ。綾野は肉体改造にも励み、村上の葛藤を体現した。タッグを重ねている綾野について、藤井監督は「剛さんのお芝居のアプローチは、精神から追い込んでいくようなやり方。村上は自分の信じていたものが壊れて、だからこそ食事も喉が通らなくなり、痩せていく。剛さんは、いつもキャラクターのメンタルを考えながら身体づくりをしていくんです。村上の精神に寄り添うことはとても孤独な作業で、相当大変だったと思います」とストイックな姿勢に感心しきり。

本作のイベントでは綾野が「ベスト3に入るぐらい精神的にキツい役だった」と苦笑いを浮かべるひと幕もあったが、藤井監督によると「4日間くらい水抜きをしていましたし、本当に大変だったはず。でも剛さん、ものすごく楽しそうでしたよ(笑)」とのこと。「『ヤクザと家族 The Family』で剛さんと信頼関係が築けたからこそ、村上役をお願いできた。“初めまして”の方にはなかなかお願いできない役です」と打ち明け、「剛さんはとても誠実な方。ものづくりに対してお互いに『80点じゃダメだ、もっと越えていこう』という意識があるので、僕たちは似た者同士なんだと思います」と微笑む。

■“自分だから撮れる横浜流星”を捉えたかった

もう一人、藤井監督が「自分と似ている。兄弟のよう」と話すのが、新聞配達をしながら大学に通う木下亮役の横浜流星だ。政治に無関心だった亮が、次第に自分ごととして社会に向き合っていく姿が描かれる点は、Netflix版の大きな特徴。藤井監督は「再び『新聞記者』を作るとしたら、自分に近い視点を入れたかった。亮はほぼ、僕自身です」と告白する。

「流星とは、彼が10代の頃から知っている仲です。ドラマ、映画、広告など、日本で今もっとも求められている俳優の一人だし、かっこいい流星を撮れる人はたくさんいると思います。僕は彼を兄弟のように思っているので、彼の人間性や彼の良さをわかっている“自分だからこそ撮れる流星”を捉えたかった。亮というキャラクターは、とても静かな役柄です。多くを語らないけれど、表情一つで彼の葛藤がわかるような芝居を撮りたかった。流星は見事にそれに応えてくれて、僕にとって彼のベストアクトだと思うものが撮れたと思っています」と自信をのぞかせ、「よく流星とも、『僕らは似ているよね』と話すんです。体育会系出身だし、ものづくりの現場以外でのコミュニケーション能力が低かったり…(笑)。これからもずっと一緒にやっていきたい役者です」と再会を願っていた。