木月:そこから仕事の内容がどのように変わっていったんですか?
オークラ:並行して舞台もずっとやってたんですけど、そうしているうちに、「もともと俺はコントライブをやりたかった人間なんだ」というのを思い出して、そういうのをちゃんと作っていかなきゃと思ったんですよね。放送作家って、来る番組をみんな断らないじゃないですか。それで、だんだん自分が好きでもない番組をやるようになって、「こんなのに興味あったっけ?」と思うようになったら、「自分の仕事なんだから、自分の好きなものをやらなきゃダメだ」と。それから、自分のやりたかった、お笑いやコメディへのシフトチェンジを、2010年くらいからやり始めたんです。
木月:そしてドラマの脚本(TBS日曜劇場『ドラゴン桜』など)まで書くように。
オークラ:結局今、コント番組ってなかなかできないじゃないですか。どうしても、視聴率をとるためのコントと、作品としてのコントって違うものになってくる。ストーリーが進行するコントってどうしても時間に余裕のある人が見るものであって、テレビで放送されるのに合わせて見てもらうというのが、なかなか難しい。でも個人的にはそっちが好きだし、それをやるにはどうしたらいいのかと思ったら、どうしても「脚本業」と名乗らないとできないんですよ。だから、ドラマの中で少しずつそれをやる場を設けていく。あくまで、コメディのための道なんです。
木月:『ごっつ』のあたりが、ストーリー性のあるコントができる最後だったのかもしれないですね。
オークラ:そうですね。でも『ごっつ』ですら、コントの毎分視聴率は企画モノよりとってなかったと聞いたことがあります。
■『リンカーン』の経験…「今は何も怖くない」
オークラ:改めて考えると、時代のエネルギー的にも、ダウンタウンさんってすごすぎたんですよね。後に与えた影響も大きいし。“お笑いダウンタウン王朝”が90年に始まり、2022年もいまだに健在です。30年間って、中国の秦王朝より長いんですよ(笑)
木月:塩谷さんは、そんなダウンタウンさんと一緒にやられてきたわけですからね。
塩谷:『リンカーン』で鍛えていただいたおかげで、今は何も怖くないです。
(一同笑い)
木月:そしてオークラさんは、コロナ禍という環境下で新たなチャレンジを続けていますよね。
オークラ:この間、『東京03稽古場単独公演 拗らせてるね。』っていうオンラインのコントライブをやったんです(見逃し配信は1月16日まで)。それは、最近僕が見てすごくいいなと思った2つの要素に影響を受けたんですけど、1つはサカナクションのオンラインライブ。客入れしないで新しいものを見せられるのがすごいと思って、それをコントライブでうまくできないかなっていうのをめちゃくちゃ低予算バージョンでやってみたという(笑)。もう1つが、ビートルズのドキュメンタリー『ザ・ビートルズ:Get Back』(Disney+)で、ビートルズが最後のほうで険悪になったときまで、「ここまで生々しいものを見せるのか」と驚いて、そういう稽古場の雰囲気を出せないかなと。その2つに感化されて、テレビでもない舞台でもないものを狙って作ってみたんです。自分の中では100点満点中、50点までは行った感じがします(笑)
――塩谷さんからオークラさんはどのように見ているんですか?
塩谷:天才ですよ。
オークラ:そんなことないですよ(笑)。こう見えて結構細かいとこまで詰めるタイプなので、そういう性格が僕と合ったんでしょうね。
塩谷:たしかに(笑)
――ところで、この連載で時折伺っているのですが、今注目してる番組はありますか?
オークラ:一番見てる番組は『(出没!)アド街ック天国』(テレビ東京)ですね。知らない街の回でも大好きで、昔からあれを見てその街に行きたいって勝手に思ってるだけですけど(笑)。撮り方とかテーマ設定とか、作りも凝ってますしね。『バナナマンのせっかくグルメ!!』(TBS)も、自分はやってないですけど、ちゃんと作り込んでるなあと思って。コロナ禍でリモート先のお店をそのまま写真で再現したりしてたじゃないですか。ここまで無駄なことしながらちゃんと何か見せるものを作ろうとしてるのが、すごいなと思いましたね。
塩谷:僕は、子どもが生まれてから初めてじっくり教育番組を見始めました。子ども向け番組と侮れない奥深さやセンスに、子ども以上にEテレを見入っています。
次回予告…~東京芸人を知る裏方編~<3> お笑い制作集団「シオプロ」の戦い方
●オークラ
1973年生まれ、群馬県出身。97年にプロダクション人力舎に入って芸人として活動し、その後放送作家に転向。バナナマン、東京03の単独公演の初期から現在まで関わり続け、『トリビアの泉』『はねるのトびら』『そんなバカなマン』『とんぱちオードリー』(フジテレビ)などを担当。現在は『ゴッドタン』(テレビ東京)、『バナナサンド』『週刊さんまとマツコ』(TBSテレビ)、『バチくるオードリー』『関ジャニ∞クロニクル』(フジテレビ)、『バナナマンのバナナムーンGOLD』(TBSラジオ)などを担当する。近年は日曜劇場『ドラゴン桜2』(TBSテレビ)の脚本のほか、乃木坂46のカップスターWeb CMの脚本監督なども手がけ、21年12月に著書『自意識とコメディの日々』を出版した。
●塩谷泰孝
1977年生まれ、福島県出身。日大東北高校卒業後、『ガチンコ!』 (TBSテレビ)の番組ADを担当。27歳で制作会社・シオプロを設立し、『リンカーン』『神さまぁ~ず』『ヒムケン先生』『バナナサンド』 『オオカミ少年』(TBSテレビ)、『コレアリ』(日本テレビ)『ゴッドタン』『ウレロ☆シリーズ』(テレビ東京)、『そんなバカなマン』『とんぱちオードリー』『ウンナン出川バカリの超!休み方改革』『バチくるオードリー』(フジテレビ)、『日村がゆく』(ABEMA)などを担当する。
●木月洋介
1979年生まれ、神奈川県出身。東京大学卒業後、04年にフジテレビジョン入社。『笑っていいとも!』『ピカルの定理』『ヨルタモリ』『とんぱちオードリー』などを経て、現在は『新しいカギ』『痛快TV スカッとジャパン』『今夜はナゾトレ』『キスマイ超BUSAIKU!?』『ネタパレ』『久保みねヒャダこじらせナイト』『出川と爆問田中と岡村のスモール3』『バチくるオードリー』『人間性暴露ゲーム 輪舞曲~RONDO~』などを担当する。