藤井竜王は佐藤八段に逆転勝利

■ファン投票による団体戦の新棋戦

「SUNTORY 将棋オールスター 東西対抗戦2021 決勝戦」が12月26日に渋谷区の「明治神宮会館」で行われました。本棋戦は東西所属の棋士それぞれから、ファン投票により選抜された2名、予選を通過した棋士3名、計5名同士を選抜して行う団体戦です。

東の代表が永瀬拓矢王座、羽生善治九段(以上ファン投票)、佐藤秀司八段、横山泰明七段、戸辺誠七段(以上予選通過)、西の代表は藤井聡太竜王、豊島将之九段(以上ファン投票)、稲葉陽八段、澤田真吾七段、古賀悠聖四段(以上予選通過)です。決勝戦のカードは対局前日の25日に決まり、それぞれ以下のようになりました。

第1局、▲戸辺七段―△澤田七段
第2局、△横山七段―▲豊島九段
第3局、▲永瀬王座―△古賀四段
第4局、△佐藤八段―▲藤井竜王
第5局、▲羽生九段―△稲葉八段
(左が東軍)

■澤田七段が相振り飛車戦を制して先勝

まずは第1局から。先手の戸辺七段が▲5六歩△3四歩▲5八飛と、得意の中飛車に振ったのに対し、澤田七段は△3二飛と意表の相振り飛車。「中飛車には相振り飛車で戦おうと思っていました」と局後に澤田七段は明かします。先手が穴熊を組み上げたのに対し、後手は囲いをそこそこにして、端を狙う攻撃陣形を組み立てました。その攻撃陣に働きかける▲2六歩△同角▲5四歩に対し、△同飛と取ったのが強気な一着です。▲同飛△同歩▲1一角成と、穴熊を狙っている香車を取られてしまいましたが、それでも△1六歩と迫ります。この強気な攻めの姿勢が功を奏したか、第1局は澤田七段の快勝となりました。まずは西軍がリードしてのスタートです。

■西軍が3連勝で勝利を決める

続いての戦いは、第2局と第3局が同時に行われました。仮に第3局までに西軍が3連勝して、団体戦の決着がついてしまっても、第4局と第5局は行われることが事前に決まっていました。第2局は先手雁木対後手矢倉に。序盤は横山七段がうまく指し進め、大盤解説に立った藤井竜王が「(チームメイトなので)先手持ちと言いたいですが……、後手ペースだと思います」という展開となりました。後手の狙いは9筋からの端攻めです。この攻めに更なる厚みをつけようと、横山七段は△7三桂と盤上の桂を活用しました。次に△9五歩が実現すれば万々歳です。しかし百戦錬磨の豊島九段はこの一瞬を見逃しませんでした。▲2五桂と銀取りに打ち、△2四銀に▲4五歩が厳しい攻め。△同歩には▲7五銀の奇手が王手角取りとなって決まります。横山七段は△2一玉と角のラインを避けましたが、▲4四歩と取り込めたのは大きく、以下も豊島九段が攻めを続けて勝利しました。

第3局は相居飛車の力戦形。中盤で先手がリードを奪い、終盤の入り口では永瀬王座が優位に立っていましたが、先手の攻め過ぎがあって逆転します。▲3二歩△同飛▲3三歩と詰めろを掛けられた瞬間に△7六銀▲同玉△8四桂から、古賀四段が先手玉を長手数の即詰みに打ち取ってゲームセット。西軍が3連勝で、一気に勝利を決めました。

■藤井竜王は逆転勝ちで西軍4連勝

とは言え残る第4局と第5局には東西のファン投票1位の棋士が登場します。この2局も同時に行われました。第4局も相居飛車の力戦形で、後手の佐藤八段が雁木に組みます。第2~4局はいずれも雁木が登場しているので、持ち時間なしの初手から30秒という早指しに向いている作戦なのかもしれません。本局は早々に戦いが始まり、△9九角成▲9一角成△8九馬▲8一馬と双方が馬を作りつつ桂香を取って、早くも終盤戦を迎えます。この次に△7一香と打たれた局面で、藤井竜王は非勢を意識していたそうですが、佐藤八段は自分がいいとは思っていなかったようです。65手目の▲6六香が馬取りを防ぎつつ、敵陣を狙う一石二鳥の好手で、これが入っては逆転模様のようです。△6四桂▲8六馬△6五歩▲4八香△4七歩▲同香△3六竜▲6五香と、2枚の香車をうまく使った藤井竜王が逆転勝利を収めました。

■最終盤にドラマ

第5局は相掛かりに。お互いが我が道を行く攻め合いから、形勢が二転三転する難解な戦いとなりました。最終盤でようやく先手が抜け出したかと見られた時に、ドラマが待っていました。羽生九段が▲8一飛と王手に打ち、稲葉八段は△7一歩と合い駒します。先手の攻め駒が迫っており、後手玉はもう自らの左辺には逃げられません。逆にいうと先手は後手玉の右辺を制すれば勝ちが決まります。ここで▲8二飛成、あるいは▲8三飛成ならば勝ちでした。実戦で指された▲8四飛成も後手玉の右辺を制するという意味では同様な手で、また自玉の守りにより利いていそうにも見えます。ですがこの竜の位置が逆転のドラマを生むことになりました。稲葉八段は△6九飛と力強く打ち込みます。以下進んだ▲6八桂△6六銀▲同玉△6八飛成の局面がポイントです。先手は6七に合い駒を打ちたいのですが、それは△5七角と打たれて、どうやっても8四の竜を抜かれてしまいます。竜の位置が8四でなければ、この順はありませんでした。羽生九段は▲7六玉とかわしますが△5八角▲8六玉△8五金でやはり王手竜取りが掛かり、稲葉八段の逆転勝ちとなりました。

東西対抗戦は西軍が5連勝と圧倒。続いて行われたエキシビションマッチ、藤井・豊島チーム対永瀬・羽生チームによるリレー将棋も西軍が勝ち、チームの優勝に花を添えました。

相崎修司(将棋情報局)

エキシビションマッチでは藤井竜王・豊島九段ペアと永瀬王座・羽生九段ペアという豪華リレー将棋が実現(提供:日本将棋連盟)
エキシビションマッチでは藤井竜王・豊島九段ペアと永瀬王座・羽生九段ペアという豪華リレー将棋が実現(提供:日本将棋連盟)