劇中の緑川の台詞で「自分の弱さを認めろ。そこからしか始まらない」という心に刺さるものがある。中村自身も「自分で自分の弱いことを知ることは一番難しいけど、そこを認めて受け入れて、前に進むことができた人はカッコいいなと思います」と共感したと言うが、「自分については、どうなのかなと。僕の場合、自分のダメなところばかりを見てしまい、ネガティブになりすぎだとよく言われるので。いまだに自分の芝居を観るのはドキドキしてしまいますし、自分のこういうところがダメだなという反省ばかりです。例えば自分が出演した作品を観て、作品自体がすごく良かったとして、いい作品に出させてもらったなと思うことがあっても、自分の演技について良かったなとはなかなか思えないです」とも話した。

では、今までになかった新鮮な役柄を演じるなかで、どんなことを感じたのだろうか。「後半で、光司はみんなにいろいろな指示を与えるシーンが増えていき、リーダーシップをとっていきますが、そういうエネルギーにあふれた能動的な人の役は難しいなと改めて思いました。もちろん自分がそういう人間に憧れている部分があるから、演じられることはとても楽しかったのですが」

今年30歳になった中村は「今までは周りに翻弄されながら成長していくような役柄が多かったですが、30歳になった時にこういう役をいただけたことにもすごくご縁を感じています。きっとこれからは、年齢と共にそういう役が増えていくだろうとも思っているから、今回緑川光司役を演じられたことはとても良かったなと思います」と述懐。

「年齢を重ねていくうえで、いつまでも『人見知りなので』とかは言っていられなくなってきます。僕は今でも上の先輩と一緒に過ごすほうが、甘えられるし自分も楽なタイプですが、いつか誰かを引っ張っていくような立場になった時、自分もそういう役目をしっかり全うできるようにならなきゃいけないなとも思いました」と緑川を演じたことで感じることもあったようだ。

常に謙虚な姿勢は変わらないが、今後、さらに役柄の幅を広げていきそうで、これから役者としてますます面白くなりそうな中村。まずは本作で、馬と共演した中村と平手の雄々しい姿を見てもらいたい。

  • 『風の向こうへ駆け抜けろ』前編の場面写真 (C)NHK

■中村蒼
1991年3月4日生まれ、福岡県出身。2006年、寺山修司原作の舞台『田園に死す』で俳優デビューし、2008年には『ひゃくはち』で映画初主演。近年の主な出演作は、ドラマ『赤ひげ』シリーズ、『詐欺の子』(19)、『浮世の画家』(19)、連続テレビ小説『エール』(20)、『ネメシス』(21)、映画『空飛ぶタイヤ』(18)、『もみの家』(20)、舞台『お気に召すまま』(19)、『忘れてもらえないの歌』(19)、『君子無朋』(21)など。2022年5月6日より新国立劇場にて主演舞台『ロビー・ヒーロー』が公演予定。