東京拘置所にマツダCX-8がなぜ!? 指揮官車として選ばれた理由

2021年12月2日、東京拘置所(東京都葛飾区)内で「法務省矯正局 特別機動警備隊 指揮官車」のお披露目式が行われた。クロスオーバーSUVのマツダCX-8をベースに架装した車両で、報道陣に初公開された。

【画像】”法務省カラー”に塗られた日本に1台の指揮官車「CX-8」

■特別機動警備隊とは

特別機動警備隊は、2019年4月1日(平成最後の月)に創設。矯正施設(刑務所や拘置所、少年院など)において、暴動、逃走、天災事変等の保安上の緊急の措置を要する事態が発生した場合に迅速かつ的確に対処するため、新たに矯正局長直轄の特別機動警備隊が東京拘置所に常設された。英訳は「Special Security Readiness(準備)Team」で、略称は「SeRT(サート)」と呼ばれる。

拳銃訓練や三連梯子救助訓練など日頃から訓練を重ねているが、刑務所などの壁が倒壊したときに迅速に復旧するため、仮設塀設置訓練なども実施。コロナ禍における避難所設営・運営の訓練も行っている。

実際の活動としては、施設警備のほかに、令和元年(2019年)東日本台風被害による避難所開設(東京拘置所)や、同台風被害による災害復旧支援活動(千曲川が氾濫した長野県須坂市)を実施。2020年には矯正施設において新型コロナウィルス感染症拡大防止の対応、2021年7月には静岡県熱海市で発生した土石流災害の復旧支援活動(周辺警備や捜索活動)を行った。

■指揮官車が導入された理由

創設から3年目を迎え、特別機動警備隊の指揮官が乗る「指揮官車」が望まれるようになった。これまでは職員が乗る官用車で対応してきたが、より幅広い活動を行うようになり、赤色灯などを装備して緊急車両として使える指揮官専用車両が必要になったという。災害現場などでも機動力を発揮するように最低地上高の高いSUVタイプの4輪駆動車で、5〜7人乗り、国のグリーン購入法に則って、ハイブリッド車やクリーンディーゼル車であることを条件に入札を行ったという。

トヨタや三菱自動車による競争入札となったが、マツダがCX-8でエントリーし最低価格で落札した。CX-5ではなく、CX-8となったのは全長での要件があったようである。

特別機動警備隊 隊長の大内広道氏は「矯正施設で非常事態が発生した際におきましては、まず指揮官が現地にただちに赴くことが非常に重要になります。そのために現地に駆けつけて、このクルマで現地に赴いて各種の指揮をするときに使用する予定にしております。今回CX-8が納品されたことによりまして、指揮命令系統の明確化を多分に図りまして、事態収束を早期に図れるのではないかと思います」と話している。

■デザインのこだわり

マツダが落札し、CX-8(XDスマートエディション4WD・7人乗り[ベース車価格:375万6500円])をベースに日本で1台だけの「指揮官車」を作ることになったが、実際の架装を行ったのが、マツダ車をベースとした架装車両を手がけるマツダE&T。E&Tは「エンジニアリング&テクノロジー」の略である。宅配用車両や冷凍車、教習車などをはじめ、MX-30の手動運転車、アテンザのパレード用のオープンカー、2003年の「ロードスタークーペ(開発&生産)」も同社の手によるものである。

開発に携わったマツダE&Tのデザイナーを務める横谷昌位氏は次のように話している。

「(法務省から)簡単なスケッチをいただいて、私たちが感じたのは、2020年に導入されたトラックを見たときに、デザインに一貫性を持たせたいという思いがありました。1台1台別々な考え方ではなくて、トータルで横に並んだときに似合うクルマにしたかったのです。キーワードは『編成美』で、もともとは電車用語らしいのですが、電車がきれいに車両を並べて美しく見えるというのと同じ考え方で、2台、3台と並べたときに、ひとつの隊形として同じイメージをもって見栄えがするという考え方を導入しています。

そこで、斜めにせり上がっていくモチーフをトラックから取りいれています。指揮官車として端正な感じを表現したかったので、端正で冷静なという感覚を大事にして、曲線よりも直線のほうが今回の車両として合うのではないかということで提案させていただきました。

ボディカラーは、防衛省の規格の標準色というものがありまして、防衛省さんが決められている色があります。そのパレットのなかから、法務省さんは青、白、灰色の3つの色を使ってくださいということで、この色を使わせていただいています。色名は特になくて、「法務省カラー」と呼ばせてもらっています。

■手作業でつくった微妙なライン

デザイン開発では2カ月間ぐらい時間をかけてました。MOJや法務省矯正局といった文字はデカールで作りましたが、一品モノとしてぜんぶ手作業でラインを引きました。マスキングを施して、左右対称に作るのは非常に大変でした。マツダ車のもともとのボディサイド面は複雑に変化していますので、面変化があるところに対して直線を引くというのはなかなか難しかったですね。真横から見てまっすぐなラインを引くのは簡単なんですけれども、斜めから見たときにも、ちゃんとまっすぐ通って見えるラインというのはすごく調整が必要で、微妙に補正をかけて最終的にまっすぐに見えるようにしています。かなり手間暇がかかっています。もちろんコンピューター上でも3Dで線を引いたりしましたが、やはり現物になると手直しする必要があるということで、二重に手間を掛けてやっています。最後は人間の目なのかなと思いますね。

また、提案の段階でCGも作りました。現場に急行したCGがこだわりの逸品で、ここまで作るという予定はなかったんですけれども、担当したデザイナーがノリノリになって、ドラマの1シーンみたいな写真を作りたいねという話になって、3枚を作りました。デザインした本人が、80年代の刑事ドラマのファンで、刑事モノで現場に急行する感じとかが非常に好きで、今回の仕事はノリノリになって喜んでCGを作りました。その結果、法務省さんにも気に入っていただいてということで、楽しみながらやった仕事ですね」

そのほか、赤色灯(散光式警光灯)はベースとなるCX-8のルーフ設計の担当者が参画し、十分なルーフの補強を行ったうえで装着。フロント点滅灯はフロングリル内のMマークの両脇に配しているが、歩行者を保護するアクティブボンネットのセンサー類に配慮したレイアウトとしている。インテリアは2列目座席に人を乗せる機会がある(場合によっては逃走した被収容者を乗せることもあるかもしれない)ためか、2列目キャプテンシートの6人乗りではなく、2列目ベンチタイプの7人乗りがベースになっているようだ。また、室内では無線機搭載が変更ポイントである。

〈文=ドライバーWeb編集部 写真=吉田悠太〉