大阪大学(阪大)は12月2日、筋力トレーニング(筋トレ)による刺激に間葉系前駆細胞が反応し、その刺激を骨格筋の幹細胞である「サテライト細胞」に受け渡すことで、筋肉量増加(筋肥大)に重要な筋肉細胞(筋線維)の核数増加につながることを明らかにしたと発表した。

同成果は、阪大大学院 薬学研究科の金重紀洋大学院生、同・深田宗一朗准教授、東京都健康長寿医療センター研究所の上住聡芳副部長らの共同研究チームによるもの。詳細は、幹細胞生物学を扱う学術誌「Cell Stem Cell」に掲載された。

筋肉はヒトの身体の30~40%を占める最大の臓器であり、多核細胞の「筋線維」でできている。筋肉は寝たきりやギプス固定時のように、使用しない状態が続くと萎縮してしまうことが知られているほか、加齢によっても筋肉量は低下し、転倒による骨折や活動量低下につながることから、その予防法・治療法の研究開発が進められている。

一方で、筋肉は、筋トレなどにより鍛えることで大きくなることが知られており、そのメカニズムの詳細な理解が進めば、萎縮治療の開発に役立つと期待されている。筋肉が大きくなるためには筋線維がタンパク質の合成を盛んにすることと、筋線維の核が増加することの2つが重要であるほか、筋線維の核が増加するためには、サテライト細胞とよばれる筋肉固有の幹細胞が増殖することが必要であることまでは分かっている。

しかし、どのようにしてサテライト細胞が増殖するかについてはよくわかっておらず、これまでは筋肉が壊れることでサテライト細胞が増殖していると考えられていたが、実は十分な科学的根拠がなかったのだという。深田准教授らの研究チームは、反対に筋肉が壊れなくてもサテライト細胞が増殖できることを以前の研究で観察し、2019年に学術誌「eLife」に論文を発表している。

今回の研究は、その成果を受ける形で、マウスを用いて筋肉に存在する「間葉系前駆細胞」がない状態だと、筋トレを誘導しても、サテライト細胞の増殖がほとんど起きないことを発見したという。

また、細胞に物理的な力が加わると核に移動する「Yap/Taz」(細胞の増殖や細胞死を制御することで、臓器や器官のサイズを決定している因子)が、筋トレ時の間葉系前駆細胞で重要であることも解明。これは、筋トレにより発生する物理的な力を、間葉系前駆細胞が感知していることを示唆しているという。

さらに、Yap/Tazが核に移動することで、間葉系前駆細胞が「トロンボスポンジン1」(細胞外のタンパクや細胞表面上の受容体に結合するタンパク質の一種)を分泌。そして、サテライト細胞にその受容体である「CD47」が発現し、同受容体が刺激されることで、サテライト細胞の増殖を誘導することも明らかにされたほか、CD47刺激によるサテライト細胞の増殖には、サテライト細胞が眠っているときにだけ発現する「カルシトニン受容体」の発現低下が必要であることも確認したという。

サテライト細胞については、これまでの研究から、筋肉が壊れる病気である筋ジストロフィーなどに対し、同細胞を「移植」することで壊れた筋肉を作り直す効果が期待されている。また、今回の研究成果から、元々持っている全身のサテライト細胞を薬によって増やすという新たな治療法が実現できる可能性も示されたと研究チームでは説明しており、筋線維の核は老化により形態異常が起きることから、サテライト細胞を利用した「核補充療法」による筋線維の若返りも期待されるとしている。

  • 筋肉刺激

    筋肉への物理的刺激が増加すると、間葉系前駆細胞内でYap/Tazが核に移動し、トロンボスポンジン1を分泌。カルシトニン受容体の発現を失ったサテライト細胞は、CD47を用いて、トロンボスポンジン1の存在を認識して増殖する。増殖したサテライト細胞は最終的に筋線維と融合することで、新しい筋線維の核となり筋肉量が増加する (出所:阪大Webサイト)