――遺産を奪い合う三姉妹と愛人に加え、雛子の後ろ盾となる渡辺えりさん演じる叔母の芳子も印象的です。

こんなに前へ出てくる叔母役は、『女系家族』史上初めてではないでしょうか。共演シーンでも全部を持っていくので、もう素晴らしいです! 前回は浅田美代子さんが演じられた役なので、渡辺さんは「私は浅田美代子さん風に演じる」と仰っていましたが、言っていることとやっていることが違う(笑)。あまりの存在感に、稽古中は皆で散々笑いましたし監督もお手上げ状態。でも、叔母さんも女系家族の中で生きて来た1人の女。叔母さんが「私が、私が」と出てくる姿は、作品の説得力を高めていると思います。

――千寿役の水川さん、雛子役の山本さんとは三姉妹を演じましたが、いかがでしたか。

次女の千寿にはしっかりした夫もいて、これからの矢島商店のことをちゃんと考えている。藤代が千寿みたいな性格だったら、こんなに遺産相続で争いが起こることはなかったんじゃないかなと思います。藤代は本来総領娘に向かないのに長女として生まれてしまって、お父さんと大した会話もしていなくて寂しい子だったと思います。そして三女の雛子は「私は家なんてどうでもいいから出ていく」と言い出しそうなキャラクターですが、叔母さんから色々焚き付けられて、遺産相続の渦中に身を投じる。

皆矢島家で戦っている中でも、千寿には夫が、雛子には叔母さんがいることが、藤代はものすごく羨ましいんですよね。そして不倫に走ってしまう。男を見る目のなさも藤代らしくて私は好きです。それに、伊藤英明くん(藤代とは恋愛関係になる日本舞踊の師匠・梅村芳三郎役)のキラースマイルにはそりゃ騙されるだろうと思います(笑)。

――奥田瑛二さん演じる大番頭・大野宇市も存在感を放っています。

物語をこねくり回す役なので、映像でどれだけ嫌なキャラクターとして表現されているのか私も楽しみ。すごく“嫌な奴”ですよ(笑)。

――個性豊かなキャラクターたちが一堂に会する話し合いの場面は、とてもパワーを使う撮影だと思います。寺島さんは家事もお忙しいかと思いますが、撮影に必要なパワーをどう現場に持って来られているのでしょうか。

移動中の車で変身していきますね。家を出て車に乗ってから台本を開いて、メイクしたり衣装を着たりしているうちにどんどん気持ちが切り替わっていきます。移動中はすごく大事な時間。そこで色々考えるし、一旦寝て頭をクリアにしてもいい。ですが、撮影中に「これはどこにあるの?」と連絡が来て現実に引き戻されることもあります(笑)。それは仕方がないですね。毎日本当に綱渡りです。

――寺島さんは2020年“年女”でいらっしゃって、さまざまなインタビューで「体調が悪くてつらい1年だった」「2021年は上がっていくだけ」と仰っていました。そんな2021年も残すところあと少しですが、どんな1年になりましたか。

今年も忙しかったですが、“2020年をやりきった余韻”に浸っている感覚が大きいです。昨年は具合の悪い中でしたが、話題作4本の映画を撮影させていただきました。今年公開されたのを見ると、あのとき飲んでいた薬を思い出して「よくやった」「よく頑張ったな」と思います(笑)。

――ありがとうございました。2022年もご活躍をお祈りしております!

■寺島しのぶ
1972年12月28日生まれ、京都市出身。父は歌舞伎役者・尾上菊五郎、母は女優・富司純子、弟は歌舞伎役者・尾上菊之助。1989年『詩城の旅人』でドラマデビューを果たし、2003年公開の映画『赤目四十八瀧心中未遂』『ヴァイブレータ』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞をはじめ数多くの賞を受賞、2010年公開の主演映画『キャタピラー』でベルリン国際映画祭の最優秀女優賞にあたる銀熊賞を受賞した。2018年『OH! LUCY』でインディペンデント・スピリットアワードで主演女優賞にノミネートされた。2021年は『ヤクザと家族』『Arc アーク』『キネマの神様』『空白』と4本の出演映画が公開された。

スタイリスト/中井綾子(crepe)
ヘア&メイク/光倉カオル(dynamic)
ピアス¥583,000
リング¥352,000
以上2点、TASAKI/TASAKI
その他スタイリスト私物