東北大学は12月1日、独自に開発した温度分布制御マイクロフローリアクタを用いて、リチウムイオン電池(LIB)の電解液の主成分である「炭酸エステル」の着火過程を調べ、分子構造のわずかな違いで着火のしやすさが大きく異なることを実験的に示したこと、ならびに炭酸エステルの統合燃焼反応モデルを構築したことを発表した。

同成果は、東北大 流体科学研究所の中村寿准教授、同・丸田薫教授らの研究チームによるもの。詳細は、「Combustion and Flame」に掲載された。

広く活用されるようになったリチウムイオン電池だが、発火する危険性が知られている。そのため、安全性評価として釘差し試験などが行われているが、電解液自身の燃焼学に基づく着火性評価はこれまで実施されておらず、着火の素過程についてはよくわからないままだったという。

そこで研究チームは今回、試料の着火のしやすさの評価と温度域ごとの化学反応の分離観察を実現できる独自の温度分布制御マイクロフローリアクタを用いて、LIBの電解液の主成分である炭酸エステルの着火特性を調べることにしたという。

炭酸エステルには、エチル基(-CH2-CH3)を持つ「炭酸エチルメチル」(EMC)や「炭酸ジエチル」(DEC)、メチル基(-CH3)を持つ「炭酸ジメチル」(DMC)など複数種類があるが、今回の調査から、そうした同じ炭酸エステルの仲間であっても、分子構造の違いにより、熱分解反応が異なってくることが判明したという。

具体的には、エチル基を持つEMCやDECなどは、C-O結合の解離から着火が進行する(低温での熱分解反応が進行する)ことが判明。一方のメチル基を持つDMCは、H原子が引き抜かれる反応から着火が進行する(高温での熱分解反応が進行する)ことがわかった。これは、メチル基を持つ方よりも、エチル基を持つ方が着火しやすいことを示す結果だという。

エチル基を持つ方は、着火のしやすさの指標として使われることの多い「引火点」の指標で見た場合、メチル基を持つ方よりも着火しにくいと評価されていた。これは、引火点という指標が、化学反応のしやすさだけでなく、その物質の蒸発のしやすさにも強く依存するものであるからだという。一方、2種類の炭酸エステルを蒸発のしにくさの点で比較すると、エチル基を持つ方が蒸発しにくいことが判明。これらの結果について研究チームでは、化学反応と蒸発の特性を切り分けて着火性を評価し、それぞれの特性に応じた発火対策を検討することが重要であるとしている。

さらに今回の研究では、炭酸エステルの統合燃焼反応モデルを構築することにも成功。実験結果を正確に予測可能であることが示されたことから、LIBの電解液主成分の正確な着火限界予測が可能となり、発火しない安全なLIBの開発や運用につながることが期待されるとしている。

  • リチウムイオン電池

    炭酸エステルの着火過程の模式図とマイクロフローリアクタにおける微弱火炎画像。エチル基を持つEMCとDECの方が、メチル基を持つDMCよりも低温側に反応帯が位置する。つまり、着火しやすい (出所:東北大プレスリリースPDF)