東京オリンピックのスケートボード実況で発した「13歳、真夏の大冒険」が、「『現代用語の基礎知識』選 2021ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされたフジテレビの倉田大誠アナウンサー。この名実況が生まれるまでには、見たことのない競技に手探り状態から準備するなど、知られざる努力と苦労があった。

オリンピック本番直前には、息子の実況を楽しみにしていた父親が亡くなり、そんな思いも胸に臨んでいた倉田アナ。「新語・流行語大賞」でのノミネートも「父に捧げられたのかな…」と、運命的なものがあったと感じている――。

  • フジテレビの倉田大誠アナウンサー

    フジテレビの倉田大誠アナウンサー

■瀬尻稜氏に言われた「感覚でつかんでください」

倉田アナが、各局から選ばれた混成チームで中継を行う「ジャパンコンソーシアム(JC)」に派遣されることが決まったのは、コロナ禍前の2019年冬。その時点で担当競技は決まっておらず、年が明けて開催延期が決まり、さらに年が明けて21年3月上旬にスケートボードを実況することが決まった。

そこで、「ゴン攻め/ビッタビタ」で流行語大賞のトップテンとなった解説の瀬尻稜氏とオンラインで初対面。スケボー競技を全く知らなかった倉田アナは「まずどこを見たら良いのかということと、採点競技なので技の難易度で得点が決まるのかということを伺ったのですが、スケボーにはそれが全くないので『感覚でつかんでください』と言われたんです」と、アナウンサー泣かせの言葉が返ってきた。

採点のレギュレーションがないことに「しんどいな…」と感じた倉田アナに、瀬尻氏はその背景を説明してくれたそう。「スケートボードの文化というのは、根っこに遊びから来ているところがある。公園や、ストリートでやってきた文化を作り上げてきた人たちに嫌われないオリンピックになってほしい、という彼の意見を聞いて、これは大事なことだなと」……その思いを心に刻んで準備を進めていった。

  • 実況練習に使ったミニチュアのスケートボード「指スケ」=本人提供

スケボー競技を見たことすらなかったため、「どういう勉強をすればいいのかも分からない状態」からスタート。プレー動画や、「スケートボードとは」という解説サイトなどを探し、「“教科書”がないので、そういうものを見ながら、本当に初歩的なところから、まずは技を学んでいきました」という。

しかし、ついに五輪の本番まで、スケボーの大会を1回もリアルで見ることはできなかった。世界大会が軒並み中止になる中、3月に茨城県で開催予定の大会が唯一のチャンスだったが、それも雨天中止という不運に見舞われたのだ。

■人が行き交うホテルのロビーで実況&解説をシミュレーション

実況席に並べた資料=本人提供

こうして迎えた本番前日の夜、メディア関係者の隔離で瀬尻氏と同じホテルに宿泊していた倉田アナは、そのロビーで人々が目の前を行き交う中、過去の世界選手権の映像を見ながら、一緒に実況と解説をシミュレーション。その場で瀬尻氏から「ゴン攻め」のワードは発せられず、本番で突如飛び出したというが、その理由は瀬尻氏のあふれる“スケボー愛”があったからだという。

「『ゴン攻め』が出たのは男子の翌日の女子の競技のときでしたが、最初の男子の日がまあ天気が良くて、炎天下の放送席で朝から昼過ぎまで4時間半話し続けました。それで本番が終わって、僕は翌日の準備をしようと思っていたら、瀬尻さんは午後からその会場で女子が練習するのを見ると言うんです。あんなに暑い中ずっと解説をしていたのに、そのまま午後練習を1人でずっと見ていたから、解説で『昨日も見てたっすけど、この人ずっとゴン攻めしてるんですよね』と言っているんです。だから、その取材がないと、あそこで『ゴン攻め』は出てこなかったと思います。真っ黒に日焼けしてホテルに帰ってきた瀬尻さんを見て、本当に頭が下がりました」

「ビッタビタ」も、本番で突如発したワード。ちなみに、「そうっすね~」といったフランクな口調について、「『そうですね』のほうがいいのではないでしょうか」と提案してみたが、本人が「でも僕、これ気にしちゃうとしゃべれなくなっちゃうんっすよね~」と難色を示したことから、「それでやっちゃいましょう!」と彼のノリを尊重したそうだ。