九州大学(九大)、千葉大学、高エネルギー加速器研究機構(KEK)、名古屋大学(名大)の4者は11月26日、世界最大・最高エネルギーの衝突型加速器である欧州共同原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を用いた国際共同実験で、ニュートリノ反応候補の観測に成功したと発表した。

同成果は、九大 基幹教育院の有賀智子助教、千葉大大学院 理学研究院の有賀昭貴准教授(スイス・ベルン大学 AEC-LHEP)、九大 先端素粒子物理研究センターの音野瑛俊助教、KEK 素粒子原子核研究所の田窪洋介研究機関講師、名大大学院 理学研究科・素粒子宇宙起源研究所の中野敏行講師、名大 未来材料・システム研究所の中村光廣教授、同・六條宏紀特任助教、同・佐藤修特任講師、同・稲田知大博士研究員らが参画するFASER(フェイザー)国際共同実験グループによるもの。詳細は、物理学を扱う学術誌シリーズ「Physical Review」のうちの素粒子物理学や量子力学などを扱う「Physical Review D」に掲載された。

ニュートリノはいまだに謎の多い異質な素粒子であり、その研究に関しては、1TeVほどの高エネルギー領域では、実は未開拓だという。衝突型加速器を用いれば、その高エネルギー領域で直接観測できる可能性もあるが、これまではニュートリノが直接観測されたことがなかった。そこで、世界最大の衝突型加速器であるLHCを用いる実験として、FASER国際共同実験が立ち上げられた。

FASER国際共同実験は、現在人類が扱うことが可能な最高となる高エネルギー領域において、3世代のニュートリノに素粒子標準理論を超えた物理への影響があるか否かを検証することを目的とした実験であり、今回の測定にて、FASER国際共同実験グループは、LHCからのニュートリノ反応候補の観測に成功したという。

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    LHCにて初めて観測されたニュートリノ反応候補のうちの2例。左の画像は左から、右の画像は画像に対して垂直な方向(画像の正面)からビームが来ている。各線分は反応で生じた粒子の飛跡が表されている (出所:プレスリリースPDF)

得られたデータは、2018年にLHCのビーム軸上に小型のニュートリノ検出器を設置して取得されたもので、膨大な背景事象を処理するため、高飛跡密度での飛跡再構成アルゴリズムなどの技術開発が行われた上で、ニュートリノ反応候補の探索を実施。粒子の角度情報など、幾何学的パラメータを用いた多変数解析を用いて背景事象の分別が行われた結果、素粒子の中ではニュートリノに次いで貫通力の高い「ミューオン」の飛跡を約2000万本ほど、ニュートリノの反応候補を10事象ほど検出器に記録することに成功したという。

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    LHCの陽子陽子衝突点と2022~2024年に実施される予定のFASERν検出器の設置位置図 (出所:プレスリリースPDF)

国際共同実験グループによると、これまで衝突型加速器による実験とニュートリノ実験は別々の研究領域として見なされてきたが、今回の成果は両者のシナジーを生み、今後の衝突型加速器を用いた高エネルギー・ニュートリノ実験への道を拓くものだとする。なお、国際共同実験グループは今後、2022~2024年に本格的な実験「FASERν」として、LHCを用いて、陽子陽子衝突により生じる可能性のある未知の素粒子の探索と、高エネルギー・ニュートリノ測定を実施する予定としている。

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    FASERνで測定予定のエネルギー領域(濃い青い線)と先行研究で測定されてきたエネルギー領域(そのほかの色の線)。横軸はニュートリノのエネルギー、縦軸は1GeVあたりのニュートリノ反応数(最大値が1になるように規格化したもの)が示されている。FASERνは、黒い矢印で示されている高エネルギー領域で加速器実験として史上初の測定が実施される計画だ (出所:プレスリリースPDF)