テラスカイは11月25日~26日に、年次イベント「TerraSkyDays 2021 Online -Fly Ahead to 2030 次のパラダイムに備えよ」を開催した。本稿では初日に行われたキーノート「2030年を見据えた企業ITの姿 ~最新テクノロジーを武器に2030年以降も成長を続けるための組織」の内容を紹介する。

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キーノートでは、テラスカイ 代表取締役社長の佐藤秀哉氏がメインスピーカーを務めつつ、同社グループ会社やDXを推進する企業からもスピーカーが登壇。2030年を見据えた際に注目すべきテクノロジーや、次のパラダイムシフトに備えるうえでのシステムや組織体制のポイントが語られた。

これまでのIT業界のパラダイムシフトを振り返りながら、佐藤氏は、「現代はクラウド・テクノロジーの黎明期が過ぎ、普及期に入ったと見ている。クラウドコンピューティングの次に来るパラダイムシフトの主役は何か。当社ではその可能性を探るため、AIの研究を継続的に行っている」と述べた。

  • テラスカイ 代表取締役社長 佐藤秀哉氏

2021年2月に同社は、AIを活用した言語解析プラットフォーム「ENOKI」を提供するエノキを子会社化し、テラスカイのサービスへの実装を進めている。

エノキ 代表取締役の伊藤純一氏は、「AIはどんな業務にも適応できる万能なものというイメージが抱かれがちだが、現状は局所的な業務に活用できる専門AIと言える。今後は専門AIが連携することで、業務単位を超えたAIが実現できると考える。そのためにはAIを超並列で動かす環境が必要になるが、現状ではコンピュータリソースが足りない」とAI活用における課題を指摘する。

  • エノキ 代表取締役 伊藤純一氏

テラスカイでは、不足するコンピュータリソースを補う存在となりえる量子コンピューターが、次のパラダイムシフトの主役になると考えている。同社は2019年にQuemixを立ち上げ、量子関連技術の開発やサービス化など、量子コンピューター分野に参入した。

量子コンピューターの活用分野について、Quemix 代表取締役CEOの松下雄一郎氏は、「特に材料開発分野において期待が高く、人工光合成や窒素固定の実現、今までにないアプローチでの材料開発や創薬が可能だ」と解説した。同社は材料計算分野において、2022年2月に量子関連技術を活用したサービスを提供する予定だ。

  • Quemix 代表取締役CEO 松下雄一郎氏

2030年のパラダイムシフトへの期待が高まる一方、2021年現在、もっぱら関心が高まっているのがDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。テラスカイでは、2020年に引き続き、DXの“準備”を進める「DX Ready」を提案している。DX Readyでは、「SOE/SOR」「Lift & Shift」「マイクロサービス」「CoE」の4つがポイントとなる。

  • テラスカイが提案する「DX Ready」

SOE/SORは企業のシステム構成を、スピードやスケーラビリティが求められるSOE(System of Engagement)と堅牢性、信頼性が求められるSOR(System of Record)に分けて捉え、その構成に合わせた開発・運用体制を構築することだ。

Lift & Shiftでは、企業のハードウエア資産をクラウド移行するLiftと、オンプレミス環境に合わせて構築した自社の仕組みをクラウド環境に合わせて切り出していくShiftを行う。

切り出した仕組みが機能するよう、関連するアプリケーションを導入する際には、各アプリケーションが影響し合わないよう、APIを活用したマイクロサービスで導入すべきだという。

SOE/SOR、Lift & Shift、マイクロサービスの導入にあたって、求められる開発体制がCoE(Center of Excellence)だ。COEではアジャイル開発で早く構築し、リリースを行いつつ、変更には柔軟に対応できる体制の構築が問われ、組織づくり、開発ガイドラインの作成、内製化につながる人材育成が重要になる。

DX Readyの事例としては、東京海上日動火災保険におけるDX推進の取り組みが紹介された。同社はインフラ戦略、データ戦略、組織・プロセス戦略から成る次世代フレームワークの構築を掲げてDXを推進している。

  • 東京海上日動火災保険が定めたフレームワーク

従来からの保険事業を通じて、さまざまなデータを収集していた同社では、インフラ戦略においては、SOE/SORに加えて、データの統合管理やリアルタイムな活用のためのシステムをSOI(System of Insight)と定義し、SOE/SOR/SOIがAPI連携できるインフラ構築を進めている。

インフラ戦略ではクラウドの活用を進める。顧客接点につながるSOEや大量のデータをあつかうSOIはクラウドで構築し、柔軟性やスピードを担保できるよう内製中心の開発体制を採用している。

自社で開発を続けてきた旧来のシステムであるSORでは、クラウドの業務パッケージを中心とした構成へ移行しつつある。2022年度より、契約分野のシステムをパッケージへリプレイスする予定だ。

東京海上日動火災保険 IT企画部部長で、東京海上日動システムズ エグゼクティブオフィサー デジタルイノベーション本部長も務める村野剛太氏は、「SORでは、世の中のスタンダードに合わせるFit to Standard(フィットトゥスタンダード)を重視し、パッケージ採用においてもできる限りクラウドを活用している。使いやすさを考慮してユーザー間のすき間をうめるシステムを導入したくなるものだが、『クラウド本来の機能でできないか?』『できないなら、他のSaaSやPaaSで代用できないか?』と検討して、できるかぎりカスタマイズはしない」と語った。

  • 東京海上日動火災保険 IT企画部部長 村野剛太氏

データ戦略では、データ整備の方針とデータ活用に求められる人材を定めている。現在、同社はSOIに蓄積されたデータ利活用を促進するため、「保有データからの新しいユースケースの作成」と「ユースケースから必要なデータの把握」を同時に進める戦略を採っている。人材面ではデータ分析の専門家であるデータサイエンティストに加えて、社内データに精通した専門人材である「データスチュワード」の自社育成に力を入れる。

組織・プロセス戦略では、ビジネス部門やIT部門のほか、IT法務やセキュリティ担当とも連携できる体制を整えた。リスク評価のためのデューデリジェンス部門も新設し、社長や役員にもアジャイル開発や持続可能なシステムの重要性などをレクチャーしているという。

村野氏は、「当社も最初からうまくいったわけではなく、外部パートナーやさまざまな部門との協力があったからやってこれた。特にオーナー部門が、『システムの作り方は経営の在り方に直結する』と理解し、社内に向けて発信してくれたことの影響が大きい。クラウドの採用やそれに伴う一時的な不便などに対する理解がビジネス部門で進み、IT部門と一体となったDXを進められてきている」と振り返った。