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■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」

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最初のTVアニメーション・シリーズからおよそ16年ものの歴史を誇る『ARIA』シリーズがいよいよ最終章!

結論から先に申しますと、この最終章、劇場用の中編映画として製作された前2作のクオリティが高かったことを認識した上で、今回はさらに優れているように思えました。

今ではアメリカなど海外でもソフト発売されて世界中に癒しを与え続けている“未来系ヒーリングストーリー”、さすがに16年、本放送などでご覧になられてない方も今はかなり多いことと思われます。

今回はシリーズを振り返りつつ、最新作『ARIA The BENEDIZIONE』にも触れてきたいと思います。

3つのTVシリーズから
さらに発展して……

『ARIA』シリーズの原作は、天野こずえが2001年から2008年にかけて発表した同名漫画で、2005年10月からTVアニメシリーズが始まりました。



舞台となるのは未来、水の惑星と呼ばれるアクア。

アクアは火星をテラフォーーミングして人が住めるようにした惑星で(そう、この作品、実はSFなのです)、その中には古き良き時代の地球のヴェネツィアを模した観光都市ネオ・ヴェネツィアがあります。

水路がめぐらされたネオ・ヴェネツィアにはゴンドラで観光客を案内するウンディーネ(観光水先案内人)という仕事があり、本シリーズは一人前のウンディーネをめざす少女たちの日常が描かれていきます。

シリーズ全体を通して劇的なドラマがさほど起きることはなく、悪人らしき者も登場することはなく、文字通りの“日常”が繊細で流麗な音楽に乗せてささやかに綴られていきます。

ネオ・ヴェネツィアには「ARIAカンパニー」「姫屋」「オレンジぷらねっと」と大きく3つのウンディーネの会社があり、主人公となるARIAカンパニーに所属する灯里(葉月絵理乃)は地球からやってきた少女。

彼女には姫屋の勝気な藍華(斎藤千和)、オレンジぷらねっとの天才肌アリス(広橋涼)といった仲間がいて、ともに一人前のプリマ・ウンディーネを目指すべく奮闘中。

彼女たちにはそれぞれアリシア(大原さやか)、晃(皆川純子)、アテナ(川上とも子)といった先輩ウンディーネがいて、彼女らにも先輩格のグランマ(松尾佳子)たちがいます。



TVアニメ・シリーズ第1期「ARIA The Animation」全13話では、灯里を中心に、その青春の躍動であったり揺らぎであったりがささやかに好ましく描かれました。

これが好評で2006年4月から半年間にかけて発表されたのが第2作「ARIA The NATURAL」全26話で、ここでは前作以上の出会いと別れををテーマに、第1作よりも切ないエピソードが披露。



また『ARIA』シリーズはウンディーネの会社の社長に猫をマスコット的に据えるという不思議なしきたりがあって(航海の安全を祈願するためとのこと)、ARIAカンパニーの社長はアリア社長(西村ちなみ)と呼ばれるぷにょぷにょ猫が就任(?)しています。

第2期ではアリア社長を通して、アクアに生息する猫たちの都市伝説的な謎がダーク・ファンタジーの装いで描かれることがままあり、世の猫好きたちならずともクールでスリリングな迷宮へと誘ってくれました。

この後、2007年9月にはOVA『ARIA The OVA~ARIETTA~』が発表。



これは灯里がARIAカンパニーに入る前のエピソードをメインに描いたもの(ちなみにこの作品から映像の画角が4:3から16:9に変わります)。

そして2008年1月から3月まで放映された第3期『ARIA The ORIGINATION』(全13話+1)をもって、灯里たちはプリマ、即ち一人前のウンディーネに昇格してひとまずシリーズは終結します。



ファイナルは憧れの先輩アリシアの現役引退の様子が麗しく描かれ、ファンを大いに感涙させてくれたものでした。

ちなみにこのシリーズ、日曜の深夜にテレビ東京系でオンエアされ、翌日は会社や学校といった憂鬱な気分の女性たち(もちろん男性も)を大いに癒し、気持ちよく眠りにつかせてくれるという効果をもたらしていたとも聞きます。

一方、地方では夕方にオンエアする局もあったりして、これは深夜枠のアニメとしてかなり異例でもあるとともに、本シリーズの本質も理解できるのではないでしょうか。


才人・佐藤順一による
新たな心地よい挑戦

この『ARIA』シリーズを監督したのは佐藤順一。

「きんぎょ注意報!」や「美少女戦士セーラームーン」「夢のクレヨン王国」「おジャ魔女どれみ」「ケロロ軍曹」「カレイドスター」最近でも「Hugっと!プリキュア」など、現在30代以下の日本で生まれ育った女性で彼の作品を見ずに育った人はほとんどいないのではないかという存在。

一方で1996年の劇場用映画『ユンカース・カム・ヒア』は同年のスタジオジブリ作品『耳をすませば』を打ち破って第50回毎日映画コンクール・アニメーション映画賞を受賞。

昨年も「おジャ魔女どれみ」を見て育ち、今は大人になった女性たちの群像劇『魔女見習いをさがして』が、第75回毎日映画コンクール・アニメーション映画賞を受賞しています。

後輩への育成指導にも長け、シリーズが安定してくると自身は退いて新進にその後をバトンタッチさせることもままあり、そういったスタンスの下、幾原邦彦や細田守など多くの才人が巣立っています。

新旧の『エヴァンゲリオン』シリーズにも参加するなど庵野秀明監督らの信頼も篤く、ロボット・アニメでは戦闘シーンではなくドラマの要となる日常シーンの絵コンテを頼まれることが多いというエピソードから、アニメーションにおけるストーリーテリングを見事に把握している達人であることも理解できることでしょう。

さて、そんな佐藤監督ですがTVシリーズ終結から7年後の2015年、最初のTV版開始から10周年を記念して『ARIA The AVVENIRE」を発表。



これはTVシリーズから月日が流れて、灯里たちの下に就いてプリマ・ウンディーネを目指す新しい少女たち、先輩格のアリシアたち、さらにはグランマなども登場させることで数世代にわたるウンディーネたちの交流を描く“蒼のカーテンコール”第1弾で、劇場でイベント上映された60分の中編作品でした。

ここではARIAカンパニーの灯里と、シリーズ第1作からずっと彼女と交流し続け、念願叶ってARIAカンパニーで働くことになったアイ(水橋かおり)、そして引退した先輩アリシアを中心にしたエピソードが披露されていきます。

続いて2020年には15周年を記念した『ARIA The CREPUSCOLO』を発表。



ここではオレンジぷらねっとをメインに、アリスと先輩アテナとの切っても切れない麗しい絆が綴られていきます。

アテナの声はもともと川上とも子が務めていましたが、2011年に惜しくも亡くなってしまったことから『The AVVENIRE』ではライブラリーを使用していましたが、この作品から佐藤利奈へバトンタッチし、見事に大任を果たしています。

また、ここから佐藤監督は総監督へ移り、監督は名取孝浩が務めることになり、2021年12月3日からはこのコンビで「蒼のカーテンコール」最終章として今回『ARIA The BENEDIZIONE』が劇場公開されます。



ここでは残る姫屋をメインにしたエピソードが綴られ、藍華と先輩・晃のギクシャクしまくりながらも実は心通わせている関係性が描かれていきます。

本来、藍華は活発で勝ち気で言いたいこともずけずけ言うタイプですが、高校時代はそうでもなかったことや、いろいろ起伏に富んだエピソードが、これまた藍華に輪をかけて豪気な晃とともに連なっていくことで、映画的な弾みが倍増し、非常に心地よい60分を体感することが出来、プロジェクト3部作を見事に締めくくってくれたように思われます。

正直、ここで終わってしまうのはもったいないというか、アイや姫屋のあずさ(中原麻衣)、オレンジぷらねっとのアーニャ(茅野愛衣)たち新世代を中心にした新作が始まってもいいのではないか、もしくはこれまで銀幕でお目見えできたのはすべて中編なので、次は壮大な群像劇としての2時間ほどの長編映画を見たいという気持ちもないわけではありません。

ただ、これまでシリーズはすべて短編エピソードの連なりで構成されてきていて、それを頑なに守ってきたことを思うに、そのラインは外すことは(その日常的繊細な世界観を壊さないためにも)避けたほうが賢明なのかもしれません。

何よりも今は、ただただ「蒼のカーテンコール」最終章を見ていただき、それこそ第1作まで遡るなりして。改めてシリーズに想いを馳せていただけると幸いです。

(文:増當竜也)

『ARIA The BENEDIZIONE』作品情報

【あらすじ】
長い冬を迎えたネオ・ヴェネツィア。寒空の下、合同練習をしていたアイ、あずさ、アーニャの3人は、いつもと様子が違う晃の後をつけたのをきっかけに水先案内人ミュージアムを訪れる。出迎えた館長の明日香は、姫屋の伝説的なウンディーネとして知られる晃の大先輩。二人は姫屋の創業時から大切に乗り継がれてきた1艘のゴンドラの継承者でもあるが、晃の話によると、次の乗り手として期待される藍華にはその気がないという。納得がいかないあずさは、どうしてなのか理由を探ろうとする。 

【予告編】


【基本情報】
出演:斎藤千和/皆川純子/中原麻衣/葉月絵理乃/大原さやか/水橋かおり/西村ちなみ/広橋涼/佐藤利奈/茅野愛衣/野島裕史/渡辺明乃/平松晶子/島本須美

原作:天野こずえ

監督:佐藤順一/名取孝浩

脚本:佐藤順一

製作国:日本