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■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

作品の出来不出来など二の次にして、生理的に好きか嫌いかが毎回問われてしまうギャスパー・ノエ監督作品。

異端児とも問題児とも、いくらでもアブノーマルに呼称できる彼の作品群の中でも、ひと際スキャンダラスな話題を集めたのが、2002年に発表した『アレックス』でした。

モニカ・ベルッチ扮するヒロイン、アレックスが体験する暴力と復讐に満ちた地獄の一夜を、何と時系列を逆転させながら描くという(つまりは地獄が導くラストから始まり、オープニングの平穏で終わる)、実に挑戦的な構成で、「人生、一寸先は闇」であることの脅威を描いた意欲作でしたが、延々9分間にわたるアレックスのレイプ・シーンをはじめとする暴力シーンの過激さや、全体的にみなぎるドラッグ感覚などに耐え切れず上映途中に退場する観客が続出するなど、激しい賛否に見舞われた超ウルトラ・スーパーなまでの問題作でした。



一方でストックホルム国際映画祭作品賞やサンディエゴ映画批評家協会賞を受賞し、日本でも東京国際ファンタスティック映画祭2002のクロージング兼シークレット作品として上映されて騒然となるなど、話題には事欠きません。

そして本作『アレックス STRAIGHT CUT』は、ノエ監督自身がドラマを時間軸に沿って再構成したヴァージョンで、上映時間もオリジナル版が99分であるのに対し、こちらは90分とさらに刈り込まれています。

即ち今回は平穏から始まり地獄で終わるという、いわば通常形態の流れの作品になっているわけですが、これによってオリジナル版と本作と鑑賞後の印象がガラリと変わるという、驚愕的な事象がもたらされることとなりました。



オリジナル版はあたかも正気を失ってしまった者が記憶の断片を振り返っていくかのような感覚をもって、人生に突如として降りかかる災厄を描いていましたが、本作はじわじわと狂気のドラマを体感させていくことによって、いつしか正常な神経の持ち主を地獄へ誘う恐怖が強調されていきます。

また、オリジナル版を鑑賞済みの観客からすると、アレックスをはじめとする登場人物たちがどのような運命を辿っていくかを既に知っていることもあってか、見ている間中どこかハラハラしながら見守るしかないジレンマに陥っていき、それは逃れられない宿命みたいな無常観をも伴わせていきます。

オリジナル版と[STRAIGHT CUT]たる本作、これまたどちらの出来が良いか悪いかではなく、どちらが好みか、もしくはどちらが嫌いかといった議論にしかならないかもしれません。

(ただし刺激的なものが苦手な方は、まず本作を見てからオリジナル版に接したほうが、少しは衝撃も和らぐかもしれませんね)

いずれにしましても『アレックス』2ヴァージョン、ともに鬼才ギャスパー・ノエ監督の異端的かつ挑発的な才覚が俄然健在であることを示した問題作です。

またも彼は「時はすべてを破壊する」ことを実証してしまいました。



(文:増當竜也)

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『アレックス STRAIGHT CUT』作品情報

【あらすじ】
幸福な時間を過ごしていたアレックス(モニカ・ベルッチ)と恋人のマルキュス(ヴァンサン・カッセル)。アレックスはマルキュスより先にパーティー会場を後にしたところ、地下道で激しく暴行され、レイプされてしまう。マルキュスは友人でアレックスの元恋人でもあるピエール(アルベール・デュポンテル)と共に、復讐に乗り出すが……。 

【予告編】


【基本情報】
出演:モニカ・ベルッチ/ヴァンサン・カッセル/ジョー・ブレスティア/アルベール・デュポンテル

監督:ギャスパー・ノエ

脚本:ギャスパー・ノエ

映倫:R-18