デジタル庁が発足してから、約2カ月が経過した。発足前の採用では4回に分けて人材採用を実施していた同庁だが、10月から人材の通年採用を開始したという。

そこで、デジタル庁でリードリクルーターとして人事採用担当を務める斉藤正樹氏に、これまでの採用と比較して求める人材像に違いはあるのか、入庁後の働き方のイメージはどのようなものか、インタビューを行った。

  • デジタル庁 人事採用担当 斉藤正樹氏

プロフィール
早稲田大学を卒業後、メーカー営業や人材紹介企業を経てPole&Lineを設立。
IT領域をはじめとする採用支援サービスや人事コンサルティングを提供し、2019年にHR(Human Resources)テックプロダクト開発を行うP&L Associatesを設立した。
現在は同社の代表と並行して内閣官房IT総合戦略室リクルーターを兼務する。

--通年採用に至るまでの背景を教えてください

斉藤氏:9月1日時点で、官民合わせて約600名でデジタル庁が発足しました。入庁後はそれぞれの専門知識を生かしながら、皆さん尽力してくれています。9月1日に多くの方が入庁したので、発足当初はそうした方々の受け入れや人事制度の整備を優先していたのですが、徐々に落ち着いてきたため、10月から採用を開始しました。

従来の公務員の採用は、募集する期間や人数、職種などを事前に提出して、省庁内で承認を受けてから採用活動を開始する方法が一般的なようです。しかし、IT業界の人材は流動的なので、我々が募集したいタイミングで応募があるとは限りません。

また、デジタル庁は発足したばかりということもあり、プロジェクトを進める中で必要な人材像が明確になり始める場面も増えてきました。そのため、必要な人材の情報を迅速に把握して採用活動に反映したいと考えました。こうした背景から、事前に採用計画を準備してから採用活動を開始するのではなく、常に募集の窓口を開いておく通年採用を選択しました。

--今回の採用で求める人材像はどのような方ですか

斉藤氏:今回募集する職種の半分近くがプロジェクトマネージャーである点が特徴になります。デジタル庁が関与するプロジェクト数は、広義で関与するプロジェクトも含めると1000個程度あるのですが、一つ一つのプロジェクトは少人数で進めなければならず、デジタル庁で内製化するのはまだ難しい状況です。

システム開発を例にとると、デジタル庁が主体となって開発を進める場合、他の省庁が中心となって進める開発をデジタル庁がサポートする場合、どちらのプロジェクトもあります。プロジェクトごとに、デジタル庁が関与する範囲が異なります。

そのため、外部のベンダーやパートナーと協力しつつ、広い視点で案件をコントロールしながらリードしてくれる方を必要としていますので、プロジェクトマネージャーの募集が多くなっているのです。

--これまでの採用と比べて、求める人材像に変化はありますか

斉藤氏:庁の発足前に募集した職種は、特定の領域で高い専門性を持つ方を対象に、週に2日から3日程度の勤務をしていただくものが多かったです。一方で、今後の募集の中心となるのは、週に3日から5日程度勤務していただける方ですね。より高いコミットメントを果たしてくれる方の採用を強化する予定です。今は、デジタル庁を主たる戦場としてれるような方が必要です。

デジタル庁の採用は、基本的に非常勤での採用です。非常勤と表現すると、「本業の仕事の他にデジタル庁で副業ができる」と思われてしまいそうなので補足しますが、デジタル庁に腰を据えて本業として取り組んでいただける方からのご応募をお待ちしています。

求める人材像の他に、求めるポジションにも変化が出てきました。過去の採用では「デザイナー」「プロジェクトリーダー」のように、大まかな職種での募集でした。しかしデジタル庁が発足した現在、これまでは曖昧だった、プロジェクトに必要な人数や具体的なポジションが、より鮮明に分かってきたのです。

デザイナーを例にとると、これまでは「デザイナー」という大きな枠での募集を行っていました。現在はビジュアルデザイナー、プロダクトデザイナー、デザインコミュニティマネージャー、デザインプログラムマネージャー、コンテントデザイナーの5職種を募集しています。この背景には、CDO(Chief Design Officer)として浅沼尚氏(Japan Digital Design)が入庁したので、庁内のデザイナー組織をどうすべきかが、これまで以上に高い解像度で見えてきたことがあります。

また、藤本真樹氏(グリー)や水島壮太氏(ラクスル)など、業界内でも著名な方がデジタル庁のCXOレイヤーとして入庁しました。加えて、過去にSIerなどで活躍をしていた経験値の高い方も増えていますので、以前よりも明確に必要なポジションを募集職種として打ち出しやすくなったのです。

--なぜ、非常勤での採用なのでしょうか

斉藤氏:非常勤と言ってしまうと、正規の雇用ではない不安定な就業に思われる方がいらっしゃるかもしれません。ですが、私たちはむしろIT業界にマッチした働き方を提案するために、非常勤での採用を行っているのです。

実は、常勤の公務員は副業が一切できない規定があります。IT業界で活躍されている方の中には、本業以外の副業に従事されている方や、顧問またはアドバイザーとして複数のプロジェクトに関わっている方が多くいらっしゃいますので、非常勤での雇用にすることで、そういった方々からも興味を持っていただけるのではないかと期待しています。

--最後に、読者へのメッセージをお願い致します

斉藤氏:9月以前と比較して、現在のデジタル庁では日々やるべきことが明確になっている最中です。本業の片手間にやってみようという方よりも、デジタル庁に腰を据えて力を発揮してくださる方をお待ちしています。業務プロセスが不安定なフェーズは抜け出しつつありますので、次の転職先の候補として、安心して検討いただける環境が整い始めています。

デジタル庁では「リボルビングドア」の考え方を採用しています。デジタル庁に入ってくださることで多くの経験をして、デジタル庁を出ていくときにはその人の市場価値が向上するような取り組みを準備中です。デジタル庁の中で面白い経験ができるだけではなく、その後のご自身の価値が高まるような施策を提供していきます。

これまでは、大きな枠で募集をかけて、応募してくださった方に対して適切なポジションに配置していました。現在は、より具体的なポジションとして募集できるようになったので、ご自身の専門性を発揮する領域を見つけやすくなったのではないかと思っています。ぜひご応募ください。