【トヨタ】「ウーブン・シティ」が示唆する次世代事業

なぜ自動車メーカーがまちづくりに臨むのか──。トヨタ自動車がトヨタ自動車東日本・東富士工場跡地で建設中の実証都市「ウーブン・シティ」。CASE(つながる・自動運転・共有・電動化)の到来でソフトウエアがクルマの価値を決める時代となり、グーグルやアップルといったプラットフォーマーの進出が始まると目される。自動車の本家・トヨタが進める次の事業の種を見つけ出すまちづくりとは?

実証の場で次の事業の種を

「人や建物やクルマがデータやセンサーで全てつながり、互いにコミュニケーションを取ることで、バーチャルとリアルの両方の世界で人工知能技術を検証し、そのポテンシャルを最大化することができる」

 遡ること約1年9カ月前、米・ラスベガスで開催された展示会「CES」でトヨタ自動車社長の豊田章男氏は未来の実証都市「ウーブン・シティ」構想を打ち出した。その未来都市の姿が徐々に明らかになっている。

 ウーブン・シティは人々が生活を送るリアルな環境の下で自動運転、モビリティ・アズ・ア・サービス(MaaS)、パーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム技術、水素などを導入・検証できる実証都市だ。

 トヨタの狙いについて自動車業界に詳しいアーサー・ディ・リトル・ジャパンパートナーの貝瀬斉氏は語る。「クルマを含めて、人々の暮らしをより豊かにするために何が必要か。そのための事業の種を探し出し、すぐに実践できる実証プラットフォームという位置付けではないか」

 例えば、物流システム。宅配便や新聞などの荷物は物流センターに集め、そこから「Sパレット」と呼ばれる自動運転配送ロボットが各住戸の前にある「スマートポスト」に届ける。

 逆に、各住戸から発送する荷物や各家庭で出るゴミについてはSパレットが集荷して物流センターまで運搬する。その際、Sパレットは地上を走行しない。物流専用の地下空間を移動する。

 また、各住戸には室内用ロボットなどの新技術を導入するほか、センサーを活用して冷蔵庫に食材を自動で補充したり、AIで住民の健康状態をチェックするなど、日々の暮らしの中に先端技術を取り入れていく。

 豊田氏はウーブン・シティを「実証都市」と例えるが、その真意は「世界中の科学者や研究者が”生活者”という視点を持って、各自のプロジェクトに取り組んでもらうことができる」(貝瀬氏)ということ。ウーブン・シティの役割は次世代の事業を生み出す場となるわけだ。

 まちづくりを手掛けるトヨタ子会社のウーブン・プラネット・ホールディングス(HD)CEOのジェームス・カフナー氏は「モビリティのほか、エネルギーや農業、食に関連した技術開発やサービスを実施する」と語り、「空飛ぶモビリティ(クルマ)にも関心を持っている。新たな街はそれを紹介する場になるかもしれない」と意気込む。

人の輸送や物品の配達、移動店舗などで自動運転車を活用する

 ただし、これらの仕組みを整備するためにはソフトウエアの力が求められてくる。「ウーブン・シティはゼロからのまちづくり。トヨタ単独ではできない」(幹部)。その欠けたピースを埋める作業をウーブン・プラネットHD傘下の子会社が担う。

 実際、米配車サービスのリフトの自動運転部門「レベル5」や精度地図生成・道路情報解析を手掛ける企業、自動配送サービス企業などを買収したり、出資したりしている。

 そしてソフトウエアの力を備えることはクルマづくりでもメリットを生む。カフナー氏は「デジタルツインによる街の分析が進んでいる」と話す。デジタルツインとは街の全体像や街に関わる様々な要素を3次元のシミュレーション上で再現すること。

 これができると例えばクルマの衝突安全を検証するとき、実際に試作車を用意して衝突実験をすると、多大な時間とコストを擁する。しかし、これが仮想空間でテストできれば、僅かな時間で何千通りものテストを併行して行える上に、実車を必要としないためコストも下がる。

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IT企業の自動車業界参入

 いま、自動車業界は激変期を迎えている。CASEの到来で「グーグルやアップルが製造受託メーカーと組んで自動車業界に乗り出す日は近い」(関係者)。そしてIT企業が参入すれば自動車メーカーは下請けとなりかねない。トヨタが75年かけて築き上げてきた産業構造が破壊されるほどのインパクトだ。

 貝瀬氏は「GAFAの強みは生活者の豊かさを愚直に追求する姿勢だ。その企業姿勢に魅了された優秀なエンジニアたちが集まってきている」と指摘する。トヨタはそういった企業と渡り合い、競争に打ち勝つためには、ソフトウエアの力も磨く必要がある。昨今、トヨタが「ソフトウエア・ファースト」を標榜するのはそのためだ。

 豊田氏も「車の一部改良がソフトのアップデートという概念に変われば、トヨタのハードの強みが出てくる」と話す。スマホのアップデートの概念だ。そこでソフトウエアの開発力が上がれば、トヨタがこれまで積み上げてきた耐久性、交換部品の入手や修理のしやすさといった、ものづくりの強みが生きる。

 ただ課題もある。1つは地元住民との対話だ。グーグルがカナダのトロントで進めていたまちづくりは挫折に追い込まれた。

「収集した地域のデータがどのように保護されるのかという議論が当初からあり、市民と行政との間でいさかいが絶えなかった」(別の関係者)ことが一因だ。

 また、ライバルもいる。中国・深圳や雄安新区でも大規模な都市づくりが進み、「世界中の自動車メーカーが自社のクルマを走

らせ走行データを収集している。ウーブン・シティの規模を遥かに凌駕している」との声もある。

 トヨタの創業家には”一代一事業”という習わしがある。織機も自動車も住宅も生活者の豊かさを追求して始めた新規事業だった。そして章男氏の時代となり、まちづくりを通じて生活者の豊かさを見つける作業を行っている。地元・裾野市とも連携し、世界中の最先端の知恵を持った人材を呼び込めるか。その成否がトヨタのクルマづくりにも影響を与えることになる。

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