【政界】「新しい資本主義」に向けた具体策とは?岸田首相の真価問われる衆院選

※2021年10月20日時点

第100代の首相に選ばれた岸田文雄にとって目の前の課題は党内融和による10月31日投開票の衆院選の勝利となる。野党の支持が伸び悩む中、自民・公明両党の勝利は底堅いとみられるが、第6波の懸念がある新型コロナウイルス対策は続く。また支持率も50%台と低いが、考え方によっては「新しい資本主義の実現」「分配なくして成長なし」に一定の評価があるということ。支持率を上げていけるか。その試金石が衆院選となる。

地味な首相

 4日に内閣を発足させ、最初の記者会見に臨んだ岸田は「私が目指すのは『新しい資本主義』の実現だ」と抱負を語り、国民の声を丁寧に聞く政治を打ち出した。

 岸田はこれまでの首相像とは違った印象の政治家だ。自他ともに認めるまじめな性格でおとなしく、政界随一の「いい人」と評される。裏を返せば政治家に特徴的なアクの強さがない。面白みのない地味な存在ともいえ、古くは吉田茂や田中角栄、最近では安倍晋三や麻生太郎といった個性豊かな歴代首相とは明らかに異なる。

 そんな岸田が就任早々、衆院選に臨むことになる。今回の衆院選は異例ずくめだ。本来の任期満了は21日だったが、もともとの任期を超えて衆院選が実施されるのは戦後初めて。首相就任から31日の衆院選投開票までの期間は現行憲法下で最短の28日間となった。

 これまでは鳩山一郎(1955年衆院選)の81日目が最短で、就任1カ月も経たずに国民の審判を受ける岸田は大幅な記録更新となる。ちなみに鳩山率いる日本民主党は躍進して第1党になった。

 首相就任間もない衆院選は日程上の問題であり、岸田の意思とはあまり関係ないが、短期間でいかに岸田政権、自民党の魅力をアピールできるかが重要になる。

 党・内閣の布陣を見ると、気配りを欠かさない岸田の性格がにじむ。幹事長には総裁選の後ろ盾となった麻生派の甘利明を据え、政調会長には総裁選を争い、決選投票で「1位・3位」連合を組んだ高市早苗を起用した。なお、総裁選では元首相の安倍晋三が高市を全面的に支援した。改めて大きな影響力を誇示した安倍への岸田の配慮がうかがえる。

 総務会長には、若手代表として衆院当選3回の福田達夫を抜擢。一方、8年9カ月にわたり副総理兼財務相を務めた麻生太郎を党副総裁に迎え入れた。

 閣僚では、官房長官に最大派閥の細田派から松野博一、財務相に麻生の義弟の鈴木俊一を起用した。20人の閣僚の内訳をみると、細田派から4人、第2派閥の麻生派から3人を登用した。

 総裁選で岸田支持でまとめた外相の茂木敏充が会長代行を務める第3派閥(当時)の旧竹下派からは再任の茂木を含め4人。自身が率いる第5派閥の岸田派は党幹部での起用はなかったが、閣僚は3人、「反岸田」だったにもかかわらず、第4派閥の二階派から2人で、派閥の勢力にほぼ比例した配置となった。

 女性3人、参院3人はオーソドックスな割合で、初入閣13人は新鮮さも与える。

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「3A」と結束

 安倍、麻生、甘利の「3A」への「忖度」「傀儡」とみる向きもあるが、岸田は周囲に「配慮はない」と強調する。むしろ安倍は経済産業相に就いた最側近である萩生田光一の官房長官就任を望んでいたとされ、「『萩生田官房長官』が実現しなかったことに不満を漏らしている」(自民党ベテラン)という。

 麻生も財務相を続投していれば、14日に自身が敬愛する戦前の蔵相・高橋是清の在任期間を抜いて歴代2位を更新するはずだったが、未練を残しての退任となった。とはいえ、3Aは、リベラル色が強い河野太郎の首相就任だけは避けたかった点で一致しており、岸田を支えることは間違いない。

 歴代最長の5年以上にわたり幹事長に君臨した二階俊博に引導を渡したのは岸田だった。総裁選にあたり、総裁を除く党役員任期を「3年まで」とする改革案を示し、これが引き金となって「二階切り」につながった。歴代、政局が苦手とされ、「公家集団」と揶揄された宏池会の会長である岸田が闘争心をあらわにして政局を仕掛け、そして成功した。

 一方、総裁選で注目を集めた小泉進次郎、石破茂、河野の「小石河連合」は冷遇した。「全員野球」を唱えた岸田の考えとは矛盾するが、そこは最高権力を争った結果である。

 以前から「岸田はけんかをしたこともない」と嫌ってきた前首相の菅義偉も、総裁選で河野を支持したことにより安倍、麻生とたもとを分かつ形となった。約1年前、ほとんどの派閥が支持して首相の座に就きながら、岸田が仕掛けた「けんか」に負けたことで、これから菅の真価が問われることになる。

 岸田は総裁選で「ノーサイド」と言ったが、政局の火種は残る。自民党は岸田側に就いた安倍・麻生連合と、「小石河」および菅らのグループとの2大勢力に収斂された形。その溝が微妙に影を落とせば、衆院選への悪影響になりかねない。

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経済安保に注力

 新しい陣容を別の角度から見ると、岸田が経済安全保障に注力する姿勢が見て取れる。

 経済安保担当の閣僚を新設し、衆院当選3回の小林鷹之を大抜擢した。岸田は総裁選で経済安保担当相の新設を訴え、中国などを念頭に半導体をはじめとする重要物資の確保や技術流出の防止に関する「経済安全保障推進法」を制定すると表明していた。

 背後には甘利の影がちらつく。岸田は党政調会長だった昨年6月、本部長として党新国際秩序創造戦略本部を立ち上げ、座長に就いたのが甘利であり、事務局長が小林だった。甘利は小林の起用を岸田に促したとされ、自身の側近の山際大志郎の初入閣が早々に報じられたことで、党内では「『甘利人事』が出すぎだ」との声も聞こえた。

 岸田は経済安保以外にもさまざまな施策を打ち出した。耳目を集めたのは「新しい資本主義の実現」だ。小泉純一郎政権が進めた構造改革に始まり、安倍政権のアベノミクスにも通じる成長重視の経済政策から、成長の果実の分配に重きを置き、格差是正を図る考えだ。

 具体的な政策メニューも披露した。成長戦略として、投資・研究開発・人材育成といった未来への投資を支援する税制改革、原発再稼働を含む「クリーン・エネルギー戦略」の策定などを掲げた。分配の施策としては、子育て世帯の中間層拡大に向け所得を引き上げる「令和版所得倍増」を目指すとした。

 税制の見直しの中で打ち出したのが金融所得課税の強化だった。所得税は、所得が1億円を超えると税負担が低くなる。この「1億円の壁」を打破するため、現在は所得にかかわらず一律20%(所得税15%、住民税5%)となっている株式譲渡益や配当金など金融所得への課税を強化。これにより、所得に占める金融所得の割合が高い富裕層の税負担を増やし、中間層などに分配する算段だ。

 2022年度税制改正の目玉になるとみられるが、これもすべては衆院選での自公勝利が前提となる。岸田はほかにも新型コロナを含む感染症対策の司令塔となる健康危機管理庁の創設、ワクチン接種の完了を証明するワクチンパスポートの電子化による経済再生なども打ち出した。いずれも衆院選前に具体的な成果を示すには難しい項目が並ぶ。

 だが、岸田は「運」に恵まれている。衆院選期間中の24日に投開票が行われる参院静岡、山口両選挙区の補欠選挙は、衆院選の前哨戦となる。山口では自民党候補が圧倒的に優勢で、静岡でも接戦を演じ、全勝か少なくとも1勝1敗となる見込みだ。菅政権で行われた4月の3つの衆院補選・参院再選挙は自民党の全敗で終わっただけに、幸先の良い初陣となり得る。

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伸び悩む野党

 野党に目を転じると、総裁選から岸田内閣発足に至るまでの間の立憲民主党をはじめとする野党の低迷ぶりは、自民党への「追い風」となりつつある。

 立民代表の枝野幸男は総裁選期間中、衆院選に向けた政策を相次いで発表したが、中身は政府与党がすでに提案、実行しているものか、実現の可能性が低い奇策が目立つ。

 9月に発表した第1弾では、政権を獲得した後の初閣議で実行する7項目を列挙した。筆頭項目に掲げた新型コロナ対策の補正予算編成はすでに岸田も言及している。コロナ対策の司令塔設置もそうだ。

 森友問題のいわゆる「赤木ファイル」関連文書の開示、森友・加計・桜を見る会の問題の真相を解明するチームの設置などを並べたが、政権の最優先項目として多くの国民が称賛するかどうかは疑わしい。

 選択的夫婦別姓の早期実現、同性婚の法整備といった万人が受け入れるとはいいがたい政策や、所得1千万円程度以下の所得税実質免除、時限的な消費税率の5%への引き下げなども掲げた。所得配分を手厚くするための政策だが、配分のための具体的な財源の試算はない。

 沖縄県にある米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設「中止」に至っては、枝野ら現在の立民幹部が中枢を担っていた旧民主党政権でいったん移設を決定した案件だ。自然エネルギーの割合を「2050年に100%」にする目標も工程は示されず、公約違反を続けた旧民主党政権を彷彿させる。

 衆院選対策としては共産党との「限定的な閣外協力」に合意した。衆院選の選挙区で候補者の一本化は推進するが、連立政権は組まないとの内容だ。共産党は党綱領で日米安全保障条約の廃棄や自衛隊解消を明記している。

 一方で立民は外交・安全保障の基軸は日米同盟としており、自衛隊の存在を認める立場だ。その立民が、「閣外」とはいえ共産との政権樹立に向け協力することは今までになかったことだ。

 岸田は30~31日にイタリア・ローマで行われる20カ国・地域首脳会議(G20サミット)への出席を見送った。久々に対面式で行われ、外相を長く務めた岸田の外交デビューとなる舞台を捨ててまで早期解散を決断した。新内閣発足の勢いそのままに決戦に臨む覚悟を示した形だ。

「いい人」を捨てて闘争心をむき出しにする岸田が運をつかみ続けられるかどうか、あるいは首相交代が頻繁に行われる時代が再び来るのか。衆院選の動向に目が離せない。 (敬称略)

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