エンタメと思索に満ちた『機動警察パトレイバー the Movie』を楽しむ

押井守監督の名作『機動警察パトレイバー the Movie』が、2021年10月24日19時よりBS12トゥエルビ『日曜アニメ劇場』にて放送される。ロボット技術を応用した歩行式の作業機械・レイバーが普及・運用される近未来の東京を舞台に、レイバーを利用した犯罪に対抗すべく新設された警視庁のレイバー部隊「特車二課」の活躍を描くメディアミックス作品の劇場版アニメ第1作だ。

1999年夏、自衛隊の試作レイバーが無人のまま暴走した事件を皮切りに、都心部では謎のレイバー暴走事件が頻発、特車二課第2小隊がその処理にあたっていた。第2小隊の篠原遊馬は原因を究明すべく、独自に調査を開始。その結果、暴走したレイバーには最新オペレーションシステム「HOS」が使用されていたことが明らかになるが、HOSの主任開発者であった篠原重工の天才プログラマー・帆場暎一は、既にレイバー用海上プラットホーム、通称「方舟」から投身自殺を遂げていた。

帆場が仕掛けた巨大な罠の全貌を知った第2小隊は、大型台風が東京に近づく中、計画を阻止するべく行動を開始する――。

▲暴走するレイバーに翻弄されるイングラム。

『機動警察パトレイバー』は、コミックス版やテレビシリーズなどいくつかのパラレルワールドが存在するが、1989年に公開された『the Movie』は最初期のOVAシリーズ(アーリーデイズ)が完結した直後に制作、初期OVAの世界観の延長で描かれた、本格的なエンターテインメント作品として仕上がった。

お馴染みとなった第2小隊メンバーのコミカルなやり取りは勿論だが、イングラムと次期主力警察用レイバー「AV−X0零式」のメカバトル、当時としては画期的なコンピュータウィルスを扱った犯罪、巨大企業と国家の癒着による隠蔽工作という社会サスペンスなど、様々な娯楽要素が見事にミックスされた内容に。劇場作品らしいスケールアップを遂げた、まさに80年代アニメを代表する1作と言えるだろう。

(C)1989 HEAD GEAR/BANDAI VISUAL/TOHOKUSHINSHA

『the Movie』では初期OVAの世界背景として語られていた、東京湾岸の再開発計画「バビロンプロジェクト」が重要なファクターとして扱われている。

それは地球温暖化による海水面上昇に備えて東京湾に横断道路を兼ねた巨大堤防の建設、そして湾内の干拓を進めることで土地造成を行う国家事業。都市部で発生した直下型大地震によるガレキ処理も兼ねたこの事業をきっかけに、多足歩行型作業機械=レイバーの普及を進める一因にもなっている。

帆場の足取りを辿る松井刑事たちが目にする風景には、バブル経済の影響によって変容しつつあった当時の東京を批評する視点も重ねられていく。

▲乱立する高層建築の足元に横たわる昭和の生活の残骸。二つに引き裂かれた東京のリアルがオーバーラップする。

帆場暎一のイニシャル=E・HOBA(エホバ)、「バビロンプロジェクト」が神に壊されたとされるバベルの塔、レイバー暴走に関係する巨大建造物「方舟」はノアの方舟、大型台風は堕落した人々を滅ぼす洪水など、作中にちりばめられた旧約聖書や新約聖書の要素も物語の解釈の深度を広げていく。事件そのものが「神の啓示」を想起させるなど、最先端テクノロジーや科学に対する懐疑・妄信への警鐘という読み解きも可能だ。

ちなみに本作は1989年公開時のオリジナルサウンド版、そして1998年のDVD化に合わせて音楽・効果音を一新、さらにオリジナルキャストで再アフレコを行って5.1chサラウンド化した「サウンドリニューアル版」という2つのバージョンが存在する。

今回は、昔からのファンから今なお厚い支持を受けているオリジナルサウンド版での放送となる。初公開時の音声は勿論、衝撃と感動を追体験できる貴重な機会をお見逃しなく。

>>>『機動警察パトレイバー the Movie』場面カットを見る(写真9点)

(C)1989 HEAD GEAR/BANDAI VISUAL/TOHOKUSHINSHA