映画にもなった『すーちゃん』シリーズや、ドラマ化が話題の『僕の姉ちゃん』などで知られる人気漫画家、益田ミリ原作の『スナック キズツキ』が連続ドラマとなって、テレビ東京系にてスタートした(毎週金曜24:12~)。

主演を務めるのは、テレビ東京初出演にして初主演となる原田知世だ。『時をかける少女』(1983)での映画デビュー以降、その透明感を失うことなく、支持され続けている原田。今回はアルコールを置いていない不思議な「スナック キズツキ」のママ・トウコを演じる。そこは仕事のこと、家庭のこと、恋人のことなど、それぞれに傷を抱えながら日常を生きている、傷ついた人しかたどり着けない不思議な店。

傷ついた人たちを迎えるママを原田が演じると聞けば、「癒されること間違いなし!」と確信したくなるが、実はトウコは、これまでの原田のイメージとは全く違う、一見ぶっきらぼうに映るママ。さらに、お客さんを前に突然弾き語りを始めたり、タップを踏んだり、ときにはエアギター(!!)を始めたりと、飄々と予測不可能の行動を見せる。まさにテレ東でしか実現しえなかったドラマの放送にあわせて、原田を直撃した。

  • ドラマ『スナック キズツキ』主演の原田知世

    ドラマ『スナック キズツキ』主演の原田知世

■最初はトウコさんとしての自分が思い浮かばなかった

――お酒の出ない「スナック キズツキ」、私も行ってみたいです。

私も行ってみたいです。原作と脚本を読んで、今までに見たことのないタイプのドラマになるだろうなと思いました。登場人物が、それぞれの日常のなかで、おそらく誰しもが感じたことのあるだろう、ちょっとした引っ掛かりや違和感を抱えて過ごしている。一人ひとり年齢も悩みも全然違うんだけど、でもとてもリアル。切なさもあればクスっと笑えるユーモアも随所に散りばめられていて、そのバランスがとても心地よい。きっと素敵なドラマになるだろうと思います。

――トウコさんをどんな人だと感じましたか?

カウンセラーじゃないし、特に悩みを聞いてもらうというわけではないんだけど、トウコさんは、訪れる人が抱えていた思い、心の声を引き出す人だと思いました。日々頑張っている人たちが、どこか異空間のような「キズツキ」に来て、トウコさんに悩みを吐き出す。決して問題が解決するわけではないのだけれど、なんだか心が軽くなって帰っていくんですよね。

――原作とドラマ序盤の脚本を読みましたが、確かに「スナック キズツキ」はどこか異空間のようです。そこに入ると“原田さんが”演じるトウコさんがいるというのは、ファンタジー×ファンタジーで、逆にリアリティを感じるというか。本当にあるかもしれないと思えてきます。

そうですか。ふふふ。

――ただ、トウコのキャラクターだけをみると、これまでの原田さんのイメージとは異なりますね。

そうなんです。読み物としてはすごく面白いんですが、自分が演じるとなると、どうなるんだろうと。言葉には、「これはこう言う」みたいなイメージがついていたりしますが、トウコさんは、一見、ぶっきらぼうな口調なんですけど、人に対して扉は開いている人。なのでいわゆるセリフへのイメージを、1回全部忘れようと思いました。それから自分が普段お芝居するときの抑揚のクセも止めようと。最初はトウコさんとしての自分が思い浮かびませんでしたが、そうしていくうちに、だんだんほどよい加減がつかめるようになりました。

■エアギターが一番の山場?

――トウコさんがお客さんにかける「おつかれさん」の言葉が、疲れた体に沁みいります。

「今日もおつかれさん」っていい言葉ですよね。スナックに入ってきたお客さんは、トウコさんに「うち、お酒置いてないけど」と言われて、一瞬、「あれ、来てよかったのかな?」と感じます。でもトウコさんは、「今日もおつかれさん」という言葉とともに、その人のためにとても丁寧に作った飲み物や食べ物を出してくれる。初めて会った人に、「どうぞ」でも、「お疲れ様」でもなく。その「おつかれさん」がすごくグッとくる。

――訪れた一人ひとりに出してくれるコーヒーやココア、ミネストローネといった飲み物や食べ物は、本当に、その人だけのために時間をかけたものですね。飯テロの秀作も多いテレ東ドラマですが、トウコさんが出す飲み物や食べ物も、映像ならではの楽しみになると思います。

そうですね。ひとつひとつの工程を丁寧に。ココアだったら香りが出るように粉をじっくり煎って。見ている人に香りまで届きそうなものになりそうですし、「家にココアがあったかな、作ってみようかな」と、ドラマを見ながら、夜中に飲んだり、食べたくなったりするかもしれませんね。

――トウコさんは、毎回、ギターやピアノで弾き語りなど、さまざまな方法でお客さんの心の声を吐き出させてくれます。エアギターの回もあります!

エアギターがトウコさんの一番の山場じゃないですか?(笑)。撮影はまだなんですが、エアギターのパフォーマンスはYouTubeで見ました。こんな風にやるんだ! と驚きました。本当に弾いているみたいだし、細かなことよりもパフォーマンスとしてとにかくすごい。気持ちいいだろうなと思いましたね。撮影では、お客さんに火をつけるために、まずトウコが振り切らないとと思っています。ほかにもタップで地団駄を踏んだり、「うちらは無敵だ~!」と叫びながら、ユーロビートの音楽で踊ったりする回もあります。私も楽しみです。

■新鮮な役へのオファーに、自分じゃない自分が生まれるかも。

――たくさんのお仕事をされてきましたが、こうした新鮮な役柄への挑戦は嬉しいものですか?

嬉しいです。特に今回は相手の方のお芝居を見ながら、感情や表情が生まれる気がするので、現場で、思いもよらなかった動きが出てくるかもしれない。自分じゃない自分が生まれるかも。型にはまることなく、現場でのびのびやるしかないと思っています。

――これまでにも「これを私が?」というオファーはありましたか?

それが意外とないんです。だからとても嬉しいですね。

――この挑戦によって、今後また、これまでのイメージとは全く違う役を演じてみたいと思うようになりましたか?

どうでしょう。そこはまだ、これをやってみて、でしょうね。やってみてから見える景色があるでしょうし。それに、これまで積み上げてきたものも大切ですし。挑戦ばかりもなかなか難しいと思います。ただ今回は、安心して飛び込める新しい世界だった。すごくいい出会いをさせてもらっていると感じています。

――ちなみに、登場人物で特に気になっているキャラクターはいますか?

「スナック キズツキ」にお酒を配達してくれるこぐま屋さん(浜野謙太)です。

――ドラマのオリジナルキャラクターですね!

はい。ほかの方とは一期一会なんですけど、物語のなかで、トウコさんと同じように毎回登場する唯一の人です。どのキャラクターも素敵なんですが、トウコさんとの積み重なる関係性が見られるのはこぐま屋さんだけですし、後半に向かってすごく大事な存在になっていきます。

――最後にドラマを楽しみにしている人にひと言お願いします。

傷つけられた人が、知らずにほかの誰かを傷つけていたり、みんなが何かしらの形でつながっている、ちょっと面白い構成の物語です。きっと共感できると思いますし、「スナック キズツキ」に来たお客さんたちと一緒になって、ふっと力を抜くことができる気がします。人のやさしさに触れたことで、相手の立場に立って考えてあげたいなと、思いやりの循環に変わっていければ。普段の自分はどうだろうと、考える人も多いんじゃないかなと思います。

■原田知世
1967年11月28日生まれ、長崎県出身。1982年に芸能界入り、映画『時をかける少女』(83年)では日本アカデミー賞ほか各映画賞の新人賞を受賞、多くの映画・ドラマで活躍する。近年の出演作にNHK連続テレビ小説『半分、青い。』(18年)、ドラマ『不発弾〜ブラックマネーを操る男〜』(18年)、『あなたの番です』(19年)、映画『星の子』(20年)など。田中圭とのW主演映画『あなたの番です 劇場版』(12月10日公開)の公開を控えている。

(C)『スナック キズツキ』製作委員会 (C)MIRI MASUDA/マガジンハウス