こんにちは、科学コミュニケーターの山本です。

みなさんは……

  1. 誰かと比べて不利な扱いを受けるのはイヤですか?
  2. 自分だけが有利な扱いを受けるのはどうですか?
  3. 不公平でイヤだと思ったら、周りに主張しますか?
  4. 誰かの「不公平だ」という主張を、うまく聞くことができますか?


山本の回答はこんな感じです。

  1. イヤな気持ちになるタイプ(だと思っている)
  2. これも避けたい方(だと思っている)
  3. 気づくと「どのタイミングで、どう言おうかな」とか考えてる
  4. 自信ないです(後から事情をきいて申し訳なくなったり)


回答には個人差があると思うんですが、特に3.は人や状況によってかなり違うのではないでしょうか。逆に1.と4.は回答が偏りそうな気がしています(1.はYesが多そうで、4.はNoが多そう)。

「バラバラか」「偏るか」の勝手な妄想はさておき。
不思議に思いませんか?

どう頑張ったって完全に公平な世界は作れないように思います。それでも不公平がイヤだと感じたり、「不公平だから良くない」という主張に正当性を感じたりするのは、どうしてなんでしょうか。

イヤだと感じる人が一定数いる割に、誰かの「不公平だ」という主張が聞き入れられないことがあります。それどころか、主張した人が炎上して総攻撃にあっている事例すら散見されるのって、どうしてなんでしょうか。

そんなこんなで、専門家の知見をお借りしながら「不公平感」を切り口に、「ヒトと社会はどうなってるの」という疑問を探るイベントをオンライン配信の形式でやってみました。リアルタイムでイベントをご視聴&コメントくださった皆様、ありがとうございました。

もう一度見たい方も、まだ見てない方も、(無料&登録不要で)イベントのアーカイブはいつでもご覧いただけますので、よろしかったらご覧ください。

例えば「公平になるように、ゾウとネズミに1個ずつリンゴをあげました」というのはさすがに無茶だと思うんですが、そうでもないですか?
イベント概要

〇タイトル:なぜ“不公平”はイヤなのだろう ~動物でさぐる起源 社会にみえる不調和~

〇実施日時:2021年7月10日 11:00 ~ 13:00

〇登壇者:瀧本 彩加氏(北海道大学 准教授)、富永 京子氏(立命館大学 准教授)

〇企画・ファシリテーション:山本

〇視聴URL: https://live.nicovideo.jp/watch/lv332395332(ニコニコ生放送)
   ※ YouTubeでもアーカイブがご視聴いただけます
     (https://www.youtube.com/watch?v=CS0mbhLTTBI)。
     ただし、YouTubeでは視聴者コメント等が表示されません。

ご覧いただいた方、コメントしてくださった方、ありがとうございました!

この記事では、そのダイジェストをお伝えします。そして、番組終了後のアンケートでいただいたご質問に対して、登壇者からお預かりした回答もご紹介します。アーカイブと併せてご覧いただけると嬉しいです。

なお、イベントでもこの記事でも、「社会課題を解決する魔法のレシピ」みたいなものは目指していません。自分たちと社会を、いつもと違った視点で眺めてみよう、という気持ちでお付き合いください。

研究者のお話ダイジェスト1:ヒトとヒト以外の動物の不公平感

まずお話をしていただいたのが、社会をつくって助け合う動物の心理の研究者、瀧本 彩加氏(北海道大学 准教授)です。

不公平がイヤだと思う感情がヒト以外の動物でも見られるのであれば、この感情が備わっている理由は、倫理や文化とは違うところにあるかもしれません。この「不公平感」の起源を探る動物心理学の研究について、ご紹介いただきました。

瀧本先生によれば、不公平な状況に抗議したり、避けようとしたりする(行動が観察できる)動物と、そうではない動物がいるそうです。

不公平を嫌がる動物たちとその系統関係についての瀧本先生のスライド

ヒト以外の動物の「不公平」への反応の研究として、de Waal博士の研究チームによる有名な実験があります。

2頭のフサオマキザルに、同じ作業をさせます。作業へのご褒美が、片方にはキュウリだけ、もう片方にはブドウだけという差がついていたら、どうするでしょう。ちなみに、フサオマキザルは、キュウリよりもブドウが好きなのだそうですよ。

実際の動画がde Wall博士自身によるTed Talkの中でみられます。ぜひ以下のURLからご覧ください。ちょっと可哀そうですが、笑ってしまう動画です。

https://www.youtube.com/watch?v=meiU6TxysCg&t=92s

瀧本先生によれば、このような自分が不利であることへの不公平感は、カラスやネズミ、サルなどいろいろな動物で見られるとのこと。

また、自分が不利であることをイヤがる動物よりも少ないそうですが、自分だけがひいきされる場合のような、自分が有利な状況をさける動物も観察されるそうです。そのような動物では、誰かを不公平に扱う相手とのやり取りを嫌がったりもするとのこと。

瀧本先生たちの実験では、「相手から物をもらうばっかりの(求められても分けない)人」と「求められたら分ける人」の2人が同時にエサを差し出した場合、フサオマキザルは後者の「分ける人」の方から受け取りたがったという結果が。

実験デザインについての瀧本先生のスライド。
2人の実験者が、「不公平な行動をする人」と「しない人」という演技をフサオマキザルに見せたあと、両方の人が同時にエサを差し出します。サルがどちらからエサを受け取るかを見て、フサオマキザルが「不公平な人」とのやり取りをイヤがるかどうか調べた。

ざっくりとまとめると、動物には種類によって、

  • 特に不公平感とかなさそうな動物
  • 自分が不利な不公平な扱いを嫌がる動物
  • 自分が有利な不公平も避けようとする動物
  • 有利なことばかりしていると、仲間から相手にしてもらえなくなったりする動物

……など、いろいろな「不公平」の感じ方がある、ということが分かってきているとのこと。

そして、これら「不公平感」がこれまでに観察されているのは、主に血縁関係にない仲間とも協力する動物なのだそうです。

これらの知見を総合的に考えて導かれたのが、
「不公平をイヤがったり、不公平なことをしすぎると仲間からイヤがられたりする性質が、動物の助け合いの進化を支えているのではないか」
という仮説。現在も、本当にそうなのかの検証が続いているというお話でした。

私たちヒトも、助け合う社会をつくり、不公平感を感じ、不公平で利己的な人が嫌がられたりもする、という特徴が当てはまりますね。

瀧本先生のお話では、これらに加えて「会ったこともない人のことまで想像して手助けする」(募金とか、ボランティアとかありますね)ことがあるのは、ヒトのちょっと特殊な性質だということでした。

イベントを企画したときに意図していなかったのですが、この「ヒトのちょっと特殊な性質」のお話が、次の富永先生のお話と妙に符合してきます。

……などと伏線を張りつつ、「不公平感は、自分だけが損をすることを避けながら、“お互い様”の関係を結べる相手とともに社会を作るのに役立つ感情なのではないか」という仮説を頭において、先に進みましょう。

研究者のお話ダイジェスト2:「不公平だ」という主張への、周囲の反応

次にお話をしていただいたのは、社会運動と周囲の反応を研究対象とする社会学者の富永 京子氏(立命館大学 准教授)です。社会運動は、社会のシステムを変えるように訴えたり、意識の変容を促したりする活動で、不公平に困っている人の主張も含まれています。
主張をすることで、社会のシステムや意識は実際に公平なものに変わるのでしょうか。

富永先生によれば、日本は、他国に比べて社会運動にあまり良い印象が抱かれていない国なのだそうです。「自分だけの特別扱いを求める、わがままで、迷惑な活動だ」と思われている傾向があるとのこと。

実際の調査結果をいくつかご紹介いただきました。

例えば、以下の2019年の調査結果(シノドス国際社会動向研究所による、日本の世代別意識調査結果)では、「デモの参加者は個人的なうらみ・ねたみに基づいて行動している」という回答が20歳代と30歳代で約半数、「デモの参加者は自己満足で行動している」が同じく6割強と、確かに社会運動への印象はあまりよくなさそうです。

デモに対する日本人の意識調査結果(世代別)についての富永先生のスライド。
日本では、特に若い世代で、社会運動のイメージが良くない傾向が。

不公平な扱いを受けている人の状況を改善しよう、という訴えのはずが、逆に「個人的なうらみ・ねたみ」「自己満足」などと受け止められてしまう背景には、どんな事情があるのでしょうか。

政治や社会に関わる人々に対する日本人の意識調査についての富永先生のスライド。
全体的に信頼していない比率が高いが、ボランティアや公務員への信頼度は比較的高い。実際に手を動かしている姿を見ることができるからかもしれない。一方で、「主張する」という行為は「口だけ」ととられがち?

富永先生は、「雇用や立場が流動的になってきていたり、環境や困っている度合いが人によってさまざまであったりすることで、他の人の事情を想像しにくくなっていることが影響している」と考察しているようです。

また、「自分の成功も失敗も自分の努力や努力不足に基づいているという考え方が、社会や政治に原因があるという主張をワガママに見せているのではないか」という仮説も検証中ということでした。

確かに、他の人の事情ってなかなか分からないし、想像できませんね。

他の人の主張をうまく聞けない理由として、私は説得力を感じましたが、皆様はいかがでしょうか。

お話を踏まえて、皆さんで議論

このイベントは、

  • 不公平がイヤなのはなぜ?
  • 他の人が「不公平だ」と主張しても、うまく聞けないのはなぜ?

……という疑問から始まりました。

2人の研究者にしていただいたお話をまとめると、以下のような理由がある、のかもしれません。

  • 不公平をイヤだと感じる性質は、助け合う社会をつくる性質を支えている
  • ヒトは、他人が困っていることも想像して助けようとする動物である
  • 他人の事情を想像しにくい社会の状況によって、他の人の主張に共感できなくなっている

    ※ 話に筋が通っていると思うのですが、仮説や定説が正しいとは限りません。
      他の要因も関わっているかもしれません。
      丸ごと信じ込まず、冷静に受けとめてください。

イベントでは、上記のような動物心理学と社会学のお話を踏まえつつ、視聴者コメントも参照しながら、対談形式でさらにお話を深めていきました。

詳細はぜひアーカイブをご覧ください。視聴者コメントで意見が割れていたり、視聴者コメントと登壇者の意見が違っていたりと、真剣で率直なやり取りがお楽しみいただけると思います。

議論で出たトピック一覧
  • 「世の中は弱肉強食」っていうけど、自然は本当にそんな世界なの?
  • 社会でも自然でも「人目」や「評判」が大事?
  • 「事前連絡すれば車イスも対応可」は十分? それ以上は求めすぎ?
  • 主張するときは「実現可能性」を考えるべき?
  • 共感を得ようとする負担について
  • 「聞く側から想像して共感しに行く」のはどう?
  • 動物にも、TPOに合わせた主張の仕方がある?
  • 動物はどのくらい「考えて」行動している? ヒトとは違う?
  • 主観に惑わされずに、他者や動物の意図や事情を読み取れる?
富永先生のスライドには、懐かしいアスキーアートも登場(画像はニコニコ生放送より)

終了後アンケートの質問への回答(瀧本先生から)

人間社会が議論の焦点になってしまったこともあり、イベント中には動物の研究についての議論や質問をあまり消化できませんでした。

イベント終了後のアンケートに寄せられた視聴者からのご質問へのご回答を瀧本先生からいただきましたので、こちらで紹介します。


Q1:
動物をみて、人も見習う方がいいと感じる点はどんなところですか? 逆に人間ならではの良さ、醜悪さを感じるのはどんなところですか?

A1:
今回の話題提供の内容とは少し離れるのですが、哺乳類の動物の子育てを観察していると、(父)母と子との適度な距離感を見習うとよいかも、と思うことがあります。例えば、ウマの子育てを見ていると、ある程度成長した子ウマ(生後数か月以降)に対しては、その子の位置や行動を気にすることはあってもしつつも、基本的には放任で、脅威になりうる存在が近くに迫ってきたときなどの限定的な場面でのみ、子ウマのもとに駆け寄ったり注意を促したりして、行動に干渉します。子ウマからの授乳の要求には基本的に応じるけど、強く乳首をかむなどのマナー違反があった時にだけ叱ります。

一方で、昨年から、自分が初めて子育てをして実感しているのは、おそらく、ヒトの場合は、他の動物よりも、子どものずっと先の将来のことを考えて、その将来に期待してしまうことで、少し欲張って、子どもの成長の筋道を親目線で作ってしまう傾向があり、他の動物に比べて少し過干渉なのかな、と思いました。

まずは子どもをしっかりと「観察」して、子どもの意思を尊重し、基本的には「見守る子育て」に徹する、というのが、案外親にとっても子にとっても心地よく、ちょうどよい塩梅なのかもしれない、と思ったりしています。

関連して、ヒトの良さは、良いことをしたらわかりやすく「褒める」ことができる、という点かと思います。
他の動物だと、「受け入れる」「許す」「認める」ということはあっても、「よくやったね!」「すごいね!」という「褒める」行動がないような気がしています。
(この「褒める」という行動の有無あるいは違いについては、今後、しっかりと研究していきたいと思っているテーマの1つです。)

ヒトの醜悪さを感じるのは、上でも少し触れた「欲張り」なところや、その高い他者理解能力を駆使して、他者を「騙したり」、他者を巧みに操ってひどい場合には犯罪や戦争の道具として使うこともする、というところでしょうか。

Q2:
昔飼っていたいた犬が、カーペットを汚して母が強く怒るとかわいそうなくらい、「しゅん」としているように見えましたが、実際どういう反応なのでしょうか?つい、感情があるように見てしまうのですが。

A2:
オーストリアの研究チームの研究によると、イヌはそういう顔をすると許されるということを学習し、怒られたときに反射的に「しゅんとした顔」をしているだけで、本当に悪いことをした(反省しないといけない)ときと、悪いことをしていない(濡れ衣の)ときに、同じだけその「しゅんとした顔」をするという結果が得られています。
つまり、罪悪感に基づいて「しゅんとした顔」をしているのではない、ということです。

ただ、イヌの飼い主さんの経験談によれば、そうしたその場しのぎの反応をしているのではなく、罪悪感を感じていそうだ、という話はよく聞きます。

研究者の中にも、そのような経験を持つ人は当然いて、さらなる研究が続いています。今後の研究展開を楽しみに待っていてください。


Q3:
手助けの行為と捉えている幼児の映像ですが、これは助けるということではなく好意を抱いた近付きの行動で、相手が結果として助けられたと解釈しているだけではないかと考えています。

A3:
そうなのかもしれません。

ただ、動物行動学においては、行動の動機は置いておいて(動物の行動の動機を追及するのは難しいので)、行動として、行為者の利益にならず受け手のみの利益になる行動であれば、「利他行動」としてみなす、ということになります。


質問してくださった方、瀧本先生、ありがとうございました。

まとめ

はっきりとした正解や解決策が見つかったわけではありませんが、冒頭の謎を解くヒントは得られたのではないでしょうか。「不公平感」「ヒト」「社会」を眺める視点が増えた、誰よりも企画者が得をするイベントでした。皆さんも、ぜひアーカイブを見て、いつもとは違う視点で身の回りを眺めてみてください。

今回のイベントでは、視聴者の皆さんからさまざまなコメントをいただきました。おかげさまで、事前の想定範囲をいろんな意味を超えた、活きた議論になりました。この記事やイベントをご覧いただいて、「何か言いたいことができた」という方は、未来館の他のイベントで、展示フロアで科学コミュニケーターと、あるいは身の回りの誰かと、ちょっと意見交換してみてください。さらに視点が増えて得してしまう方が増えたりすると、私もうれしいです。

日本科学未来館 イベント一覧はこちら https://www.miraikan.jst.go.jp/events/



Author
執筆: 山本 朋範(日本科学未来館 科学コミュニケーター)
【2021年まで在籍】物心つく前は「抱き上げるときには気が抜けなかった」とは親の談。さすがに今は不思議だからって人の目を突っついたりしませんが、サンショウウオを研究したり、フィリピンの田舎に住み着いたりと、相変わらず好奇心で生きています。今度は皆さんの好奇心を突っつく仕事をしたいと未来館にやってきました。