名古屋大学(名大)は10月11日、小学校1年生児童を対象に、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染拡大に伴う緊急事態宣言前と宣言後の「身体機能」の違いを運動器健診で調査したところ、緊急事態宣言後の健診結果の方が「バランス機能」が低く、「体脂肪率」が高い結果となり、「転倒」と「肥満」のリスクが高くなることを明らかにしたと発表した。

同成果は、名大大学院 医学系研究科 総合保健学専攻の杉浦英志教授、同・伊藤忠客員研究者(愛知県三河青い鳥医療療育センター 三次元動作解析室 動作解析専任研究員兼務)、愛知県三河青い鳥医療療育センター 小児科の越知信彦センター長補佐、同・伊藤祐史医長、同・整形外科の則竹耕治センター長らの共同研究チームによるもの。詳細は、環境化学、公衆衛生などの学際的なオープンアクセスジャーナル「International Journal of Environmental Research and Public Health」に掲載された。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を受け、多くの都道府県で2020年3月から5月にかけて小学校を休校する措置が取られた。

これらの緊急対応は感染拡大を防ぐためには必要なことではあったが、児童の身体活動の機会を減少させてしまうことにもなり、その結果、健康問題だけでなく身体機能が低下する可能性が高くなることが予想されたことから、今回の研究では、緊急事態宣言に伴う行動制限が子ども達の身体機能に及ぼす影響についての調査が行われたという。

具体的には、2018年12月から2020年12月にかけて、運動器健診に参加した6~7歳の児童110名(男児53名、女児57名)を対象とし、評価項目としては、体脂肪率、片脚立位時間、握力、歩容、1か月間の転倒回数として、緊急事態宣言前に健診に参加した児童(宣言前群56名)と宣言後に参加した児童(宣言後群54名)に分類し、進められた。

2群間の身体機能比較のために、「体脂肪率」、「片脚立位時間」、「握力」、「歩容」の測定が行われたほか、アンケートとして、過去1か月間の歩行中の「転倒回数」、健康と生活の質、子どもの強さと困難さ、身体活動時間、1週間の食事の回数、スポーツ経費、1日の睡眠時間などの調査が行われた。

その結果、緊急事態宣言後に運動器健診に参加した児童は、「片脚立位時間」「体脂肪率」「転倒回数」「身体活動時間」において、両群の間に統計学的有意差が確認されたという。緊急事態宣言後に参加した児童は片脚立位が低い値、体脂肪率、転倒回数、身体活動は高い値が認められたとするほか、「片脚立位時間」「体脂肪率」「転倒回数」が関連していることが認められ、特に「転倒回数」との関連が高い(オッズ比:1.899倍)ことが明らかになったという。

これらの結果を受けて研究チームでは、緊急事態宣言による活動制限は、バランス機能低下と体脂肪率の増加に繋がるリスクが高く、「バランストレーニング」と「適切な食習慣」の実行が重要であることが示されたとしている。

  • 名古屋大学

    緊急事態宣言前後の低学年児童の身体機能の比較。グラフは平均値と標準偏差 (出所:名大プレスリリースPDF)

今回の研究では、緊急事態宣言後の児童の身体活動時間が、宣言前の児童よりも長く、これはベルギー、チェコ、ドイツ、スペインの研究結果と一致しているとするが、政策上の制限や児童における新型コロナ感染者数の違いなどの要因により、国によって児童の行動が異なることも考えられるとするほか、国外の研究では、身体活動の場所も大きく異なっており、自宅やガレージ、歩道や道路で身体活動を行う子どもが増えたことが報告されていることから、身体活動を行うための場所の制限によって、身体機能の維持・向上に必要な運動プログラムが十分に行えなかった可能性が高く、このような状況がバランス機能に悪影響を及ぼした可能性が示唆されたとしている。

ただし食事回数、スポーツ経費、睡眠時間については、緊急事態宣言前に参加した児童と、宣言後に参加した児童で有意差は認められなかったという。これは、今回の調査期間において、緊急事態宣言の期間が短かったため、これらの要因は影響を受けず、食事回数やスポーツ経費、睡眠時間の変化が大きくないことが示されたとしている。

研究チームでは、今回の結果を踏まえ、新型コロナのパンデミックに伴う活動制限による、児童の身体機能低下を防ぐためには、内容を充実させた身体活動と良好な食習慣を促進することが望ましいとしているほか、身体機能低下の予防・維持・向上させるためには、学校の放課後、授業後、休日などを利用して、質の高い運動プログラムを積極的に取り入れるなどの対策が必要としている。