左手でキーボードが打てない、複視のハンデを乗り越えて

――実際に復職されてからは、やはり大変なことも多かったですか?

まずは先ほどお話しした通りPCの入力速度が遅いので、以前よりも商談におけるファシリテーションスキルが下がってしまったかなとは思っています。商談中に相手の言語化されない潜在的需要をテキストにまとめながら「こういうことですよね?」と確認して意思疎通を図る、というコミュニケーションが難しくなってしまいました。

そのため、片手でも入力しやすい小型のキーボードや、コントロールキーを登録したフットペダルを用意して、少しでもPCの入力速度が上がるよう工夫しています。それから、これまでの自分の商談スタイルにこだわりすぎず、話術でカバーできるように日々努力しているところです。

  • 片手での入力がしやすいよう、仕事では小型サイズのキーボードを使われているそうです。

また、脳出血によって視神経にも影響が出ていて、視界の上半分が二重に見えてしまう(複視)ので、ディスプレイの文字が読みづらいというのも課題です。正常に文字が入力できているか確認するだけでも眼精疲労がものすごく、仕事をするととにかく目が疲れます。

そしてめったにないと思うのですが、急に商談先の会社に訪問しなければならないという事態になったときに、5分~10分で準備して外出するというのは難しいです。

復職してから何回か出社したことがあったのですが、渋谷や新橋など人や情報量が多い場所に出掛けると、ものすごく疲れてしまいます。歩けるようになったと言っても、体が自由自在に動かせるわけではないので"誰かにぶつからないようにちゃんと歩こう"と常に注意し続けないといけないからです。

私はオンライン営業なので助かっていますが、これが毎日外出が必要な営業職だったとしたら、相当厳しいだろうなと思います。

  • 御池さんの自宅の仕事場。「家でしか仕事ができないと思う」とおっしゃるくらい、働きやすさにこだわって職場環境を整えられています。

――そんなハンデを抱えながらも、営業マンとして活躍できる理由はどんなところにあるのでしょうか?

いまの弊社の状況で言うと、わりとチームで模索しながら仕事をしているんですね。

私たちセールスチームだけではなく、商談のアポイントをとってくれるインサイドセールスともコミュニケーションをとって「こういう業界に対して弊社のサービスが刺さるのではないか」「この会社、他の部署でも同じようにサービス提供したらうまくいくのではないか」などと話し合っています。

他のセクションと情報連携をして情報を流通させ、一緒に戦略を練って契約をとっていくというスタイルなので、一人で問題を抱え込まず助け合える組織風土があるのは心強いですね。

また労務や人事部門の方の配慮もありがたいです。「他の社員と変わらない雇用形態で本当に大丈夫ですか?」とか「仕事をするうえで必要な備品などがあれば何でもおっしゃってください!」など、会社としての配慮義務を超えて気にかけてくださるので、とても助かっています。

障害者のキャリアとスポーツで活躍し、社会貢献したい

――最後に、これからの目標を教えてください!

半身不随というハンデを背負っていても、健常者と変わらない水準で活躍できるというのを身をもって伝えたいので、まずは社内でトップセールスになりたいですね。

それから、社内の制度やオンラインツールによって、私のような障害がある人でもある程度働けることがわかったので、弊社が販売している「ベルフェイス」というオンライン商談ツールを使いこなすための仕組みづくりにも携わってみたいと考えています。

またプライベートでは、ホノルルマラソンの出場を目標に掲げて、日々トレーニングを積んでいます! 障害があってもキャリアで成功したという方、スポーツで成功したという方はそれぞれ既にいらっしゃると思うのですが、両方で成功できたら同じような立場の方にとって励みになると思うし、大きなメッセージとして発信できると思うんです。

最近では、こうした私の体験を医療機関や製薬会社の社員研修などで伝える機会もいただいています。今後はさらに、自分の経験をコンテンツにして発信していくことで、微力ではありますが社会貢献につなげていきたいと考えています。