国立成育医療研究センター(NCCHD)と九州大学(九大)は9月28日、環境省の「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」の約10万人の妊婦の情報を用いて、日本人女性の妊娠週数別体重増加の分布、および現行の「妊娠中の体重増加の目安」を満たすために必要な妊娠週数別体重増加量を妊娠前体格別に算出したことを発表した。

同成果は、NCCHD 社会医学研究部の森崎菜穂部長、九大 エコチル調査九州大学サブユニットセンターの大賀正一センター長、諸隈誠一教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本の疫学分野の英文学術誌「Journal of Epidemiology」に掲載された。また、今回の研究による「妊娠中の体重増加曲線」は、NCCHDのWebサイトにて見ることができる

「妊娠週数別体重増加曲線」は、個別の体重管理に有用であることが海外でもいわれているものの、日本人向けのものは存在していなかったという。また、2021年3月に「妊産婦のための食生活指針」が改定され、その中で「妊娠中の体重増加指導の目安」が示されたが、妊娠前の体格ごとの体重増加量が示されているものの、具体的にどのように体重増加の指導をすればよいのか、あるいは自身の体重をどのように日々管理すればいいのか困っている医療従事者や妊婦がいることが想定されていたことから、研究チームは今回、妊娠中にどのように体重を増やせばよいか、医療従事者が日本人女性に指導するための妊娠週数別体重増加曲線を作成することを目的に研究を進めることにしたという。

今回の研究では基本データとして、エコチル調査に参加している9万6631人の妊婦の母手健康手帳から転記された妊娠中の体重が用いられ、妊娠40週で「妊娠中の体重増加指導の目安」に定められた範囲内の体重増加を得るには、妊娠5~39週にどれくらい体重が増えていればいいのかが算出された。

その結果、妊娠中の体重増加の分布は妊娠前BMIによって大きく異なり、妊婦の背景によっても多少異なってくることが(多胎妊娠、若い妊婦、基礎疾患がない妊婦では体重増加が多いなど)ことがわかったという。

また、BMI18.5未満、18.5~25、25~30、30以上のそれぞれの妊婦ごとに妊娠30週における体重の増加がどの程度であれば、妊娠40週に「妊婦の体重増加指導の目安」に定められた範囲内の体重増加の軌道に乗っているかの推定も示されることとなった。

研究チームでは、今回の結果は、妊婦自身や医療従事者が、妊娠中の体重管理を行うのに役立つ資料になると期待されるとする一方で、今回作成された体重増加曲線はあくまで出産時に「妊娠中の体重増加指導の目安」を満たす体重増加を図示したものであり、軌跡どおりの体重増加を描いていることが妊娠後の経過が順調であることを保障しているものではないともしていることに注意が必要である。

また、今回作成した体重増加曲線は2011年1月~2014年3月にエコチル調査に参加した妊婦の情報をもとに作成されているため、2021年3月以降に「妊娠中の体重増加指導の目安」で適正な体重増加に関する指導を受ける妊婦とは、結果が異なる可能性があるともしている点にも注意が必要であり、研究チームとしても、2021年の「妊娠中の体重増加指導の目安」の変更により、妊婦の体重増加や妊娠後の経過がどのように変化していくのかは、今後の研究で調べていく必要があると思われるとしている。

  • 妊婦の体重増加曲線

    今回作成された体重増加曲線。(左上)妊娠前BMIが18.5未満の場合。(左下)同18.5~25の場合。(右上)同25~30の場合。同30以上の場合。(出所:NCCHDプレスリリースPDF)