富士通は9月28日、湾内などの複雑な航路を含む海域における船舶同士の衝突リスクを高精度に予測するAI技術を確立したことを発表した。海上保安庁からの請負契約により海上交通管制業務に同技術を適用した実証実験の結果から、同技術の有効性を確認したとのことだ。

同技術は、船舶の現在位置やスピード、向きなどのデータを学習したAIによって算出される従来の衝突リスク予測に加えて、新たに開発した航行中の船舶が航路に沿っているか否かの度合いを算出するアルゴリズムによって衝突リスクを高精度に予測可能にするものだ。航路に沿った進路変更などを危険な操舵と検知することなく、船舶の衝突リスクが高いアラートのみが検知できるという。

従来の技術では、航路の屈曲部付近における2隻の船舶がそのままの針路で直進すると判断され、衝突リスクが高いと過剰検知される状況があったという。一方で、今回開発したアルゴリズムは2隻が規定された航路に沿って曲線的に航行すると見据えることで、衝突リスクが低いと判定できる。同技術によって不要なアラートを低減し、高精度に船舶同士の衝突危険度の判定が可能になったとのことだ。

  • 航路の屈曲部付近での衝突リスクを高精度に判定できるようになったという

日本の輸出入の99%以上は海上輸送が担っているが、昨今の新型コロナウイルス感染症の影響に伴って人の動きが大幅に制限される中でこれまで以上に物流の重要性が高まっている。その一方で、世界では重大な船舶事故が相次いでおり、船体や積荷などの直接的な損害に加えて船舶不稼働による機会損失や物流停滞による間接的な損害が生じている。さらに、船舶事故は人命や環境にも大きな被害が及ぶため、海上交通の安全性確保が重要となっている。

現在実用化されている船舶の衝突危険度の算出手法の多くは、船舶が現在位置から直線方向に進む前提で航行ルートを考慮しており、海上交通安全法などの法令で定められた航路の屈曲部において不要なアラートが多発する。その結果として、危険回避のための情報提供を、どの船舶に対して、どのタイミングで行うかといった判断は、運用管制官の経験や技量に依存している点が課題だったとのことだ。

そこで同社は、船舶が衝突するリスクとそれが集中するエリアをAIで予測し、衝突リスクを早期発見するアルゴリズムの開発に至ったとしている。なお、同技術を活用して東京湾海上交通センターにおいて実証実験を行った結果、特にアラートが多発する屈曲部を含む航路全体において、本来検出不要である過剰なアラートを約90%抑制できたという。

  • 実証実験における衝突リスク予測の画面比較のイメージ

同社は実証実験の結果を踏まえて、海上交通管制さらには船上の見張り業務向けに新たに強化したAI技術「Fujitsu Human Centric AI Zinrai(ジンライ)」を適用し、2022年3月までに安全航行支援サービスの提供開始を目指す。また、このサービスの提供を通じて海上交通管制と船舶航行の双方から海上交通の安全性を確保し、レジリエントな海上交通システムの構築を支援していく狙いだ。