クルマの電動化がこのまま進んでいけば、そのうち、マニュアルトランスミッション(MT)の新車は買えなくなるだろう。そろそろ“最後のマニュアル車”の目星を付けなければいけないタイミングだが、ホンダの新型「シビック」あたりはどうだろうか? 試乗してきた。

  • ホンダの新型「シビック」

    ホンダの新型「シビック」に試乗! マニュアル車の乗り味は?(本稿の写真は撮影:原アキラ)

見た目は大きく変わった現代の「シビック」

ホンダ「シビック」は1972年の発売以来、170以上の国と地域で累計2,700万台が売れたヒット作。ホンダを象徴するクルマの1台だといって間違いないだろう。歴代モデルは「スーパーシビック(2代目)」「ワンダーシビック(3代目)」「グランドシビック(4代目)」「スポーツシビック(5代目)」などの愛称で呼ばれたが、今回の新型(11代目)は「爽快シビック」をグランドコンセプトとしている。ホンダの技術者たちは、現代における「一服の清涼剤」を目指して新型シビックを開発したそうだ。

新型のボディは全長4,550mm(先代比30mm増)、全幅1,800mm(先代と同じ)、全高1,415mm(20mm減)、ホイールベース2,735mm(35mm増)。フロントオーバーハングは15mm伸び、逆にリアオーバーハングは20mm短くなった。フロントピラーの位置は50mm後退。ピラーから伸びる直線を目で追うとフロントタイヤセンターにたどり着く。ヒンジ位置が50mm低くなったリアハッチに向かうルーフラインは、クーペのようになだらな曲線を描いている。

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  • ホンダの新型「シビック」
  • 前から見るとワイド&ロー、横から見るとクーペライク

先代のようなアグレッシブさが影を潜めたエクステリアデザインも相まって、トータルでワイド&ローのスッキリした4ドアハッチバックスタイルを形成している新型シビック。「シビック」といえば2ドアFFハッチバックを思い起こすファンもいまだに多いとは思うが、今日のシビックはこんな姿なのだ。それを残念、と思うかどうかは別として、単純にカッコいいのである。

そんなシビックのオートマチックトランスミッション(AT)とMTを乗り比べることができた。まずはATモデルからだ。

パドルシフトですでに楽しい

最初に乗ったのは、エクステリアカラーがプラチナホワイト・パールの「EX」グレード(CVTモデル)。内装はブラック&レッドのダークトーンだ。乗りこんですぐに気がつくのが、その低さ。最近はSUVなど背の高いモデルの試乗会が多く、いつもは路面を上から見下ろしているような感覚だったのだが、シビックに乗ると目線がスポーツカーのように低くなる。

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    最初に試乗した「EX」グレードのCVTモデル(AT車)

チルト&テレスコピックのステアリングと電動シートの位置を合わせてやると、ほぼ完璧なドライビングポジションを得ることができる。「あ、ホンダさんは分かっているな」と思わず微笑んでしまった。低いフード、水平基調のまっすぐなダッシュボード、細いAピラー、ドアマウントのバックミラーなどのおかげで視界は広く、囲まれている感じもない。後席の足元の広さやラゲッジルームの大きさは、前述したサイズアップの効果で文句なし。では早速、走り出してみよう。

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  • ホンダの新型「シビック」
  • 内装はブラック&レッドのダークトーン。ドライビングポジションは理想的で視界も良好

パワートレインは排気量1.5Lのガソリンターボエンジン。ホンダ自慢のVTECや4-2エキゾーストポート・シリンダーヘッドにより、最高出力134kW(182PS)/6,000rpm、最大トルク240Nm/1,700~4,500rpmを発生する。トランスミッションのCVTは、ターボのパワー感をいかすためトルクコンバーターの性能を向上させてある。シフトレバー下のスイッチでは、ドライブモードを「ECON」「Normal」「SPORT」の3つから選択できる。

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    1.5Lのガソリンターボエンジン

試乗会場を出たばかりの一般道ではNormalモードを選択。あたりの路面は少し荒れていたけれど、高剛性のクランクシャフトとオイルパンによって振動が減ったエンジン、各部のブッシュやマウントを改良した足回り、音の伝達経路を解析して効果的に配置した遮音材と吸音材などによる静粛性の高い走りを感じることができた。

アップダウンの激しいワインディングでは、迷わずSPORTモードに。アクセルオンに対するエンジンの反応が素早くなる。全開加速ではステップアップシフト、ブレーキング時にはステップダウン制御が入り、さらにパドルシフトを操れば、簡単に思い通りの走りが楽しめる。

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    新型「シビック」の走りは静かで快適。AT車でも完成度の高さが伝わってくる

先進安全面では、カメラの性能アップによる渋滞追従機能付きACC(アダプティブクルーズコントロール)を試した。新型フロントワイドビューカメラは認識能力がアップ。クルマだけでなく白線や道路標識、境界(縁石など)、人などをきっちりと捕捉してくれるので、LKAS(車線維持支援システム)と併せて使用すると0km/hからしっかり追従運転をしてくれる。

ホンダらしさ満点! 6MTモデルで気分は爽快に

「新型シビックは静かで快適で、本当によくできている」との感想を抱きながらソニックグレー・パールカラーの6MTに乗り換えると、今度はもっと驚いた。エクステリアやインテリアの印象、エンジンパワーはCVTモデルと変わらないものの、ホンダのエンジン屋としての意地とプライドが詰め込まれたその走りに、魂が揺さぶられたのだ。

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    後攻は「EXグレード」の6速MT。これがすごかった!

まずはショートストロークのシフトレバーだ。これまで樹脂製だったシフトゲートは、アルミニウムを混ぜた高剛性のものに置き換わっている。操作すると「ゴクッ、ゴクッ」という音としっかり感を伴った感覚が手のひらに伝わってきて、確実にシフトアップ、ダウンを行うことができる。主要な市場である米国のドライバーに合わせたのか、ゲートの位置が左寄りで少し遠いのは“玉に瑕”。クラッチは踏み応えが少し軽く、ストロークがちょっと大きめだ。

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    ショートストロークで剛性感が伝わる6MTのシフトレバー

そのクラッチを左足で踏みながら1速、2速、3速とシフトアップしていくと、右足のアクセルの踏み込み量とエンジン音、車速ががっちりとリンクしている感覚が味わえてすばらしい。最近は2ペダルモデルでも進歩の著しい部分だが、やっぱり本物には敵わない。本当にゾクゾクする。3,000rpmあたりから低めの“ホンダミュージック”が聞こえ始めるのもいい。

ギアを変えなければ、そのままトップエンドに向かってタコメーターの針が振れていく。シフトダウンしつつ入っていくコーナーでは、フロント荷重によってステアリングの手応えがグッと重くなり、切り初めからノーズがグーンと内側に向かっていく。エイペックス(コーナー頂点)をすぎてアクセルオンすれば、あの音とともに次のコーナーが迫ってくる。汗をかくけれども、これは本当に楽しい時間だ。一般道で走るのはもったいないほどで、これならサーキット走行も存分に堪能できるだろう。

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    すばらしい走りを見せてくれた新型「シビック」のMT

先代シビックでは3割以上のユーザーがMTモデルを選んでいたとのこと。最新モデルにMTの設定があるのも納得だ。コアなファンがいるというのは、シビックの幸せなところでもある。来年登場すると噂の「タイプR」がエンジン車のままなのかハイブリッド化されるのかは分からないけれども、ホンダ製純エンジンにMTの組み合わせはとにかくいい。運転を本当に楽しみたいなら、迷わず買いだろう。