人気アナウンサーから絵本作家へ。今年2月、華麗なる転身を遂げた元TBSアナウンサー・伊東楓さん。華々しいキャリアや立場をあっさりと手放し、若くして第2のステージを歩み始めたその足取りはとても軽やかで、どこまでも自由です。

特に、自分に対して徹底的に正直であろうとするその姿勢は、同じ時代を生きる私たちの琴線に触れてやみません。今回はそんな伊東さんに、「好き」を仕事にする人生観について、詳しくお話をうかがいました。

▼伊東アナ誕生秘話。面接試験では衝撃の自白も!

―― まず、アナウンサーを目指し始めたキッカケを教えてください。

小学校6年生くらいから、アナウンサーに対して漠然とした憧れを持っていました。キッカケは、『ズームイン!!SUPER』に出ていたアナウンサーの西尾由佳理さんです。彼女を見て、「こんなにキレイで知的な人がいるんだ! こんなにカッコよくて素敵な職業があるんだ!」と思ったのを覚えています。

―― そんなに早くからアナウンサーを目指していたんですね。

でも、大学生のときにスカウトされてミスコンに出たときに、「自分には向いていないな」って気付きました(笑)。ファイナリストは6人いたんですけど、常に誰かと比較されたり、仲間でありながらライバルだったり。どちらが秀でているかを競うことが、本当に私には向いていないなって感じたんです。そのときに、アナウンサーになることも一度は諦めました(笑)

―― えっ!? いきなりまさかの展開ですが……。

そこからは気持ちを切り替えて、広告代理店に入りたいと考えるようになったんです。インターンシップにも参加していたのですが、とある大学のOBに「小さいときからアナウンサーを目指していたのに、大学のミスコンに出ただけで『向いていない』と決めつけるなんてもったいないよ。アナウンサーの採用試験、受けるだけ受けてみたら? 」とアドバイスをいただいて。それでやっぱりTBSを受けてみて、採用していただいたという流れですね。

―― 「1万人に1人」しか受からないといわれる採用試験を突破したんですから、向いていたのではないでしょうか。

ご縁があったみたいです。でも、採用試験でも「私、アナウンサーに向いていないと思います」って自分から白状しましたし、4次試験では「君、本当はアナウンサー志望じゃないでしょ!? どちらかと言うと制作っぽいよね」って言われて、「はい! コンテンツ事業部に入りたいと思っています!」って答えました。同期の子たちからも、「採用試験のときは浮いていたよ」って言われましたよ(笑)。

▼仕事をより楽しくしてくれた伊集院さんたちの言葉

―― それでも資質があると見抜かれたんですね。お仕事は楽しかったですか?

もちろん、楽しかったです! 会社では、周りの人たちにも恵まれていました。アナウンサーとしては、伊集院光さん、中居正広さん、坂上忍さんには特にお世話になったと感じています。

―― 伊集院さんたちとはどんなご縁があったんですか?

伊集院さんとはラジオでご一緒させていただいていて、そのときに「もっとはみ出した発言していいからね。失敗なんて、なんとでもなるから」って言っていただいて、すごく嬉しかったですね。それまでは自分らしさや個性みたいなものは抑えて、「ちゃんとアナウンサーらしくあろう」と意識していたのですが、実際は、それが心のどこかで苦痛だったんです。誰にも言えなかったんですけどね。

―― なるほど。

でも、伊集院さんは「君はそういうタイプじゃないじゃん!」って言ってくれて、素の私を解放しても受け止めてくれました。それからは本当に、もっと仕事が楽しくなりました。坂上さんも中居さんも、私の素の部分に気付いてくれたみたいで、いつもからかってくれたし、はみ出した発言も拾ってくれました。

▼華やかなアナウンサーの本音と葛藤

―― 華やかに見えるアナウンサーにも、そういう葛藤があるんですね。

良くも悪くも、アナウンサーという仕事は自我を出しすぎちゃダメ……というか、自分自身の「意見」を必要とされていない場面が多いんですよね。例えば、ひとつのニュースにも賛成か反対かはあまり言わないですし、好きなものも思いっきり「好き!」とは言いにくいこともあります。

毎日同じ時間帯に同じコーナーへ出演して、その繰り返しであっという間に1日が終わる。正直、「私って、何のためにここにいるんだろう」って悩んでしまったこともありましたね。

―― 伊東さんのようなアナウンサーさんは多いんですか?

うーん、人によると思います。私の場合は、欠点が多すぎるので(笑)。というよりも、本当なら、悩む必要がないことなんだと思います。この仕事は、原稿を真面目に読んで仕事をこなすのが大切だし、世間から叩かれることもありません。素晴らしい仕事だけど、私はたまたま、アナウンサーの仕事が私の人生のすべてじゃないと思ったんです。

―― 同僚から心配されたんじゃないですか?

されましたね。いろんな人に「辞めてどうするの? 」って聞かれました(笑)。でも、働きたくなったらカフェでバイトするのでもいいし、一般企業の中途採用試験を受けてもいいと思うんです。むしろ、アナウンサーに固執する理由のほうが私にはわからなかったんですよね。アナウンサーを辞めたことに後悔なんて1ミリもなくて、本当に「やりきった!」って思っていますし、今は「よし、次に行こう!」と、前を向いています。

▼前向きな退職だったからこそ、今もみんなに愛される

―― 考え方がものすごくポジティブですもんね。

そうですね。でも、誤解されたくないのですが、「みんな、私のように辞めたほうがいいよ」だなんて、まったく思っていません。アナウンサーは安定した職種だし、お金もいただけますから、そのままでいられるなら、そのままでいたほうがいいと思います。私の場合は、他にもっとやりたいことが見つかってしまったからスパッ!と辞められましたが、他にやりたいことがないのに辞めるのはダメですよ!(笑)

―― それは、他のどの仕事でも同じことが言えそうですね。

私は前向きな気持ちで辞めたからTBSのみんなも応援してくれているし、今もみんな優しくしてくれます。実際、TBSには今も遊びに行っていて、伊集院さんや坂上さんも、今までと同じように接してくれています。サンドウィッチマンさんには、「え、伊東さん、辞めたんだよね? こんなフランクに遊びにくるってすごくない? 」と驚かれましたけど(笑)。