トヨタ自動車は2022年、超小型モビリティの電気自動車(EV)「C+pod」(シーポッド)を一般ユーザー向けに発売する。現在は法人や自治体向けに限定販売中の小さなEVだが、このクルマ、私たち消費者が買っても、日常的に不足なく使えるのだろうか。試乗して確かめてきた。

  • トヨタの超小型EV「シーポッド」

    トヨタの小さなEV「シーポッド」に試乗! その実力は?

横幅は約1.3m!

トヨタはかつて、SUV「RAV4」のEVを発売したことがあるが、法人向けを中心とした限定的な販売だった。国内で個人を含めた幅広い消費者にEVを販売するのは、シーポッドが初めてとなる。ちなみにレクサスでは、すでに「UX300e」というEVを発売済みだ。

そのシーポッドに試乗する機会を得た。

  • トヨタの超小型EV「シーポッド」

    試乗したのは神奈川トヨタ自動車が保有する「シーポッド」。デモ用の車両とのことで、同社のラッピングが施してある

「超小型モビリティ」とは国土交通省が定める区分で、自動車よりもコンパクトな1~2人乗りの乗り物のこと。最高速度は60km/hと定められている。近隣の移動に使う簡便な乗り物という位置づけだ。

それでもシーポッドは、自動ブレーキなどを装着した「サポカー対象車」であり、衝突安全性能などクルマとしての最低条件は備わっている。

車体寸法は全長2.49m、全幅1.29m、全高1.55m。全高は軽自動車に近いが、全長と全幅は見るからに小さい。ちなみにこの大きさは、ドイツのダイムラーが発売した初代の「スマート フォーツー」に近い。フォーツーの車幅は1.5mほどだったが、全長と全高はシーポッドとほぼ同じだ。2代目のスマート フォーツーにはEVもあった。

  • トヨタの超小型EV「シーポッド」

    見るからに小さい「シーポッド」。トヨタが2019年の「東京モーターショー」に出展した超小型EV(シーポッドの原型)も完成度が高かったが、対面したシーポッドはほぼ変わらない様子だった

シーポッドは9.06kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載している。フル充電での走行可能距離は150km(WLTCモード)だ。充電は100Vでも200Vでも可能だが、バッテリーが空だった場合、200Vなら5時間でフル充電できる。

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    充電口はフロントに

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    助手席の下には100Vのコンセントが。車載バッテリーの電力を家電やスマートフォンの充電などに利用できる

ドアを開けて乗り込むと、いかにも超小型モビリティだという実感は薄く、例えば軽自動車と比べても、室内の違和感は少なかった。ただし横幅が狭いので、助手席は肩が触れるほど近い。

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    運転席と助手席の間隔はさすがに狭いが、軽自動車と比べてもそこまで違和感は感じないインテリアだった

後ろを振り返ると、真後ろにリアウインドウがあるところは独特だ。これにより、真後ろの車外の様子が確認しやすい。後退で自宅の車庫に入庫する際などには車両感覚がわかりやすく、安心できそうだ。

座席は十分な前後移動調節ができて、背もたれはある程度のリクライニングが可能。ハンドルにはチルト(上下)とテレスコピック(前後)の調節機能が設けられており、かなり幅広い体格の人に適応していると感じた。

  • トヨタの超小型EV「シーポッド」
  • トヨタの超小型EV「シーポッド」
  • ハンドルの位置は上下・前後に調節可能。座席の前後スライドとリクライニングを合わせて使えば、幅広い体格の人が「シーポッド」を快適に運転できるはずだ

超小型EVの走りは?

ダッシュボード中央にスイッチが並んでいて、最下部にイグニッションスイッチがある。その上に前進(D)、後退(R)、ニュートラル(N)の切り替えスイッチがあり、Dボタンを押してペダル式の駐車ブレーキを解除し、アクセルペダルを踏み込むと走り出す。

軽自動車を含む一般的なオートマチック(AT)車のように、ブレーキペダルを離すとゆっくり動き出す「クリープ」と呼ばれる機能はなく、アクセルペダルの踏み込みに合わせて前進していく。クリープがなくても、アクセルペダル操作の通りに出力が発生するので、速度が調整しやすく、安心感がある。車庫から路地へ出てゆくような場面などでも、安心して運転できそうだ。

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    シフト操作はボタン式。「P」がないので、駐車のときは「N」にいれて駐車ブレーキを踏み込む。下の方に見える青いボタンがイグニッションスイッチ。エアコンダイヤルの左右にあるのはシートヒーターのスイッチだ

最小回転半径は3.9m。4mを超える軽自動車より小回りが利く。パワーステアリングは装備されていないが、タイヤが多少でも回転していれば、ハンドルが重くて回せないというほどではない。

ブレーキには踏力を補助する装置がないので、しっかりとペダルを踏み込む必要がある。だがこれも、ペダルストロークが大きいとか、踏力を意識させるほど力がいるなど、余分な労力はほぼないに等しい。慣れれば通常通りに扱える。

一方で、減速度の細かい調節は難しいので、減速から停止にかけての動きは、ややぎくしゃくした。倍力装置がないだけでなく、EVならではの回生の効きがそれほど強くないので、減速調整が細かくできないのだ。せっかくのEVなのに、なぜ回生を積極的に利用しないのかと疑問に思った。

アクセルのワンペダル操作を実現する回生を取り入れれば、はじめのうちこそ多少の慣れが必要だが、減速度の調整はよりしやすくなる。回生による充電で一充電走行距離の減りを抑えることもできるだろう。ことに発進・停止の繰り返しが多くなる都市部(まさに超小型モビリティが活躍する交通環境)では、より有効なのではないだろうか。軽自動車などエンジン車から乗り換えた場合の違和感を減らすことを意識するあまり、EVの利点が十分にいかされていない印象が残った。

  • トヨタの超小型EV「シーポッド」

    小回りは抜群。ブレーキの扱いには慣れが必要だ

モーター出力は、都市部かつ最高速度60km/hまでの限定した利用では十分に力を発揮した。ごく日常的なアクセルペダルの操作で、周りの交通の流れにも容易に乗ることができた。ためしにアクセル全開もやってみたが、驚くような加速はしない。高速道路を走ると仮定したら流れに乗るのにはやや足りない加速度だが、高速道路は使わないのが前提なので不満はない。

13インチ径で低燃費銘柄のタイヤは乗り心地もよく、快適だ。ただし、2人乗り車体のためホイールベースが1.78mと短いので、たとえ舗装路であっても、うねりや段差などを通過したあとには車体が上下に揺れるピッチングのおさまりがよくなかった。それもあって、直進安定性にも時に不安を覚えることがある。改めて、軽自動車との違いを実感した。

交差点の角を曲がる際も、ことに右折では左折より大きくカーブを曲がり、速度もやや上がる傾向になるので、慎重なハンドル操作とアクセル操作を心掛けたい。

その点、スマート フォーツーはアウトバーンを走ることも視野に入っていたので、より操縦安定性に確かさがあった。ただし、ホイールベースはやはり2人乗りということで、シーポッドとほぼ同じ寸法だったから、上下振動を意識させやすいところは似ていた。

  • トヨタの超小型EV「シーポッド」

    ホイールベースの短さにより、走行感覚が一般的な自動車とは異なるところがある

軽EVが発売間近! 住み分けは可能?

総合評価として、シーポッドは全体の仕立てが軽自動車より簡素だった。例えばサイドウィンドウは、ガラス部分を手動で上下に開け閉めする方式だ。

車外の騒音も、かなり車内に入ってくる。発進から低速域では、EVに装着が求められる車両接近通報装置の擬音が聞こえ、それが切れると走行騒音であるロードノイズが目立ってくる。このあたり、軽自動車とはだいぶ差があり、クルマというより移動のための簡便な車両という印象だ。

ただ、これまで各自動車メーカーが実証実験を重ねてきた超小型モビリティのなかにはドアがないものなどもあったので、雨露をしのげる点では実用性が高い。

  • トヨタの超小型EV「シーポッド」
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  • トヨタの超小型EV「シーポッド」
  • クルマとしてみると簡素な作りが目立つものの、超小型モビリティとしての実用性は高い。ちなみにオーディオは付いていないし、クルマとスマートフォンをつなげて音楽を再生するような機能もない

走り始めたとき、メーターには走行可能距離140kmと表示されていたが、空調を入れる(A/Cボタンを押す)と数値がほぼ半減した。気候のよい季節は、窓を開けて走ると気分がいいだろう。

そもそも最高速度が60km/hまでとなるので、かなり雑なアクセル操作をしても、バッテリー電力の減り方はそれほど大きくなかった。日常の使い道では、一充電走行距離に対する不安なく移動できるはずだ。

  • トヨタの超小型EV「シーポッド」

    エアコンを付けると走行可能距離が大幅に短くなる(「N」の右下にある「138」という数字が走行可能距離を示している)

シーポッドのグレードは「X」(165万円)と「G」(171.6万円)の2種類。補助金を利用すれば、いずれも150万円程度で手に入れられる。

しかし来年、日産自動車と三菱自動車工業から軽自動車のEVが発売されれば、価格競争力は厳しくなりそうだ。日産/三菱の軽EVは、補助金を利用すると200万円程度で買えるとのアナウンスがあった。軽EVとなれば静粛性や乗り心地は超小型モビリティを上回り、なおかつ高速道路でも使える。ことに都市部では、日常的に都市高速を利用する場合があるだろうから、その点で軽EVの意味は大きい。

一方、地方都市や郊外であれば一般道の走行が中心になるだろうから、軽EVとの住み分けはできるかもしれない。公共交通機関の整備が不十分な地域では、日常の足として活躍できるはずだ。

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