まさかの試合展開に場内がざわついた。9月19日、さいたまスーパーアリーナ『RIZIN.30』のメインエベント、朝倉海vs.アラン・ヒロ・ヤマニハ(バンタム級トーナメント準々決勝)。 多くのファンが朝倉圧勝を予想していたこの一戦は意外にもクロスファイトに。

  • フィニッシュには持ち込めずも試合を優位に進め、勝利を収めた朝倉海(写真:RIZIN FF)。

3-0の判定で朝倉が勝利を収めるも、圧倒的な強さを見せつけるには至らなかった。万全のコンディションを作って挑んだ一戦で、なぜ本命の朝倉が苦戦を強いられたのか? その理由を考察するとともにトーナメントの今後の行方を占う。

■KOにこだわり過ぎて

試合終了のゴングが打ち鳴らされた直後、ヤマニハは両拳を天に突きあげる。朝倉は渋い表情を浮かべ、自軍コーナー近くのロープに両手を置いた。
明暗クッキリ。だが、これは試合の勝敗を示すものではなかった。

ジャッジ3者は朝倉勝利を支持。妥当な判定だ。3ラウンドを通して主導権を握ったのは朝倉だった。
にもかかわらず、「やったぞ」とヤマニハが拳を突き上げ、「駄目だ」と朝倉がうなだれたのは、戦前の予想を大きく裏切る試合内容になったからである。
朝倉、圧勝とはならなかった。
なぜ、彼は苦戦を強いられたのか?
それには3つの理由があった。

1つ目は、KOにこだわり過ぎて焦ってしまったこと。
開始直後から朝倉は、積極的に前に出てパンチを振るう。そして3分過ぎ、右強打をヒットさせヤマニハをグラつかせる。勝負を決めるチャンスを得てラッシュをかけるもフィニッシュに持ち込めなかった。
このシーンを朝倉は振り返る。
「今回はメインを任されていましたから、ただ勝つだけじゃなくて圧勝したい、倒したいと思っていました。その意識が強すぎたために、あの場面、攻めが雑になってしまいました。冷静に詰めることができなかったのは反省点です」

  • 試合後の記者会見で「メインを任されたのに不甲斐ない試合をしてしまった」と話す朝倉海(写真:SLAM JAM)

■1ラウンドに右拳を骨折

2つ目は、思わぬアクシデントに見舞われたこと。
「1ラウンドが終わった後、右拳が凄く痛かった。どの場面で傷めたのかは分かりません。
それで思い切って右のパンチが打てなくなり、距離を取って左ボディと蹴りを効かせる攻めに変えました」
2ラウンドから朝倉は、積極性を欠く。観ていて、そのことに気づいた人も多かったのではないか。ファイトスタイルを変えた理由は右拳の負傷にあった。

だがこの時、ヤマニハは朝倉の右拳負傷には気づいていなかった。彼は言う。
「1ラウンドに、海のパンチをヒジで受けたことがあった。拳を傷めたなら多分、あのシーン。何かを破壊した感触があったが、最後まで右拳を負傷したことはわからなかった」と。
試合翌朝、朝倉の右手はさらに腫れ上がった。すぐに病院で検査を受ける。 結果、親指のつけ根部分を骨折、ほかにもう1カ所、骨にひびが入っていた。
ただ、幸いなことに複雑な骨折ではないため手術の必要はなく、約1カ月間の固定で治る見込み。
10月中には練習が再開でき、大晦日のリングには間に合いそうだ。

そして3つ目は、ヤマニハの異常なほどの頑張り─。
「ヤマニハ選手は思っていた以上に頑丈でした。岩みたいに打たれ強かった。組みのパワーも感じましたね」
試合後に朝倉は、そう話したが、強かったのはフィジカルだけではないだろう。ヤマニハは、「どうしても勝ちたい」との強い気持ちを持ってリングに上がっていた。
同じボンサイ柔術のホベルト・サトシ・ソウザはRIZINライト級チャンピオンのベルトを腰に巻き、クレベル・コイケは朝倉未来を絞め落として勝った。ボンサイ柔術は大いに盛り上がっている。自分だけ遅れを取りたくなかったのだ。
フィジカル以上にメンタルでヤマニハは踏ん張った。
これこそが、朝倉が苦戦を強いられた最大の理由に思える。

  • ヤマニハにバックを取られるシーンも。それでも朝倉はテイクダウンを許さなかった(写真:RIZIN FF)

■準決勝の組み合わせは…

試合後に、朝倉はこうも言った。
「圧勝したかったので(勝っても)悔しい気持ちが強いですけど、これが2回戦(準々決勝)でよかったと考えるようにします。もし、1ラウンドで楽に勝っていたら慢心して大晦日を迎えることになったかもしれない。
でも、今回の試合で課題がハッキリと見えました。攻撃のバリエーション、テイクダウンへの対処など、これから修正していきます。それに大晦日は2試合を闘うことになる。怪我なく決勝に勝ち上がりたい、そのためには今回のような試合をするわけにはいかない」
さらに彼は続ける。
「いま、ボンサイ柔術の選手に勢いがありますが、RIZINの中心は、僕ら朝倉兄弟でありたい。そのためにもトーナメントは必ず優勝します。その先(海外進出)も見据えていますから」

今回と同じ会場、さいたまスーパーアリーナでの『RIZIN』大晦日決戦で「バンタム級トーナメント」準決勝、決勝が行われる。勝ち上がったのは次の4選手だ。

朝倉海(トライフォース赤坂)
井上直樹(セラ・ロンゴ・ファイトチーム)
扇久保博正(パラエストラ松戸)
瀧澤謙太(フリー)

準決勝の組み合わせが、抽選になるのか主催者が決めるのかは未定。
「ファンの声にも耳を傾けて、これから考えたい」(RIZIN榊原信行CEO)とのこと。
さて、どうなるのか?
本命・朝倉と対抗・井上がいきなり激突することも考えられる。
だが、それは王道ではない。主催者マッチメークならば、
<朝倉海vs.瀧澤謙太><井上直樹vs.扇久保博正>となる可能性が高いように思う。
その場合、決勝に進むのは朝倉と井上と予想する。大方の見方と同じだ。
いずれがダメージを少なく勝ち上がれるか、ここが決勝の勝敗を分けるポイントとなろう。

文/近藤隆夫