千葉大学と名古屋大学(名大)は9月14日、スーパーコンピュータ(スパコン)「富岳」を用いた約54億点という超高解像度計算により、太陽内部の熱対流・磁場を再現し、太陽では赤道が極地方よりも速く自転するという「差動回転」を、人工的な仮説を用いずに再現することに成功したと発表した。

同成果は、千葉大大学院 理学研究院の堀田英之准教授、名大 宇宙地球環境研究所 所長の草野完也教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系の天文学を扱う学術誌「Nature Astronomy」に掲載された。

固体である地球は、どの緯度でも同じ周期で自転している「剛体回転」だが、プラズマの塊である太陽は緯度ごとに違う周期で回る「差動回転」をしていることがわかっている。この事実は1630年ごろから知られており、赤道付近は25日程度、極地方は30日程度で自転するといった、この差動回転は太陽黒点の形成と周期活動にとって重要な役割を果たしていると考えられている。

太陽内部は乱流的な熱対流で占められており、太陽中心部での核融合反応によって生成されたエネルギーは、太陽半径の70%ほどまでは光によって、太陽内部の外側30%では熱対流によって運ばれる(対流層)。この乱流運動が差動回転を形成・維持していると考えられるという。

しかし、これまでの数値シミュレーションではスパコン「京」で計算可能な解像度(約1億点)をもってしても、太陽とは逆に極地方が速く自転し、赤道が遅くなる結果になってしまっていた。その原因としては、太陽内部における乱流的な熱対流を正確に計算できないためと考えられ、「熱対流の難問(convective conundrum)」と呼ばれる太陽物理学の長年の謎とされてきたという。

そこで今回の研究では、「富岳」を用いることで、約54億点という太陽対流層全体を解像した計算を実施することで、熱対流の難問の解決を図ったという。

  • 太陽シミュレーション

    富岳で再現された太陽内部熱対流の様子。熱対流を表現するのに適したエントロピーという量が示されている。橙、青の部分はそれぞれ暖かい・冷たい領域に対応している (出所:千葉大学プレスリリースPDF)

その結果、現実の太陽と同じく、赤道が速く回転する差動回転を再現することに成功。これまでの計算では、太陽内部の磁場のエネルギーは、乱流のエネルギーに対して小さく、磁場は脇役と考えられてきたが、今回達成された計算では磁場のエネルギーは乱流エネルギーの最大2倍以上になっており、これまでの太陽の常識が大きく変える結果となったと研究チームでは説明するほか、差動回転形成・維持において磁場が大きな役割を持つことが発見されたともしている。

  • 太陽シミュレーション

    数値シミュレーションで再現された差動回転の様子。経度方向に平均した子午面上の値となる。色は角速度を表し、黄色になるほど速い自転速度(短い自転周期)であることが示されている (出所:千葉大学プレスリリースPDF)

なお研究チームでは、太陽の差動回転は、太陽の磁場の起源において重要な役割を担っており、差動回転の理解は、太陽物理学最大の謎「太陽活動11年周期」の解明のための重要なステップとなりうるともしており、今回の計算ではまだ富岳の全性能を使いきったわけではないことから、さらなる高解像度計算を引き続き実行していくことで、この11年周期の謎解明に挑戦していきたいともしている。