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■増當竜也連載「ニューシネマ・アナリティクス」SHORT

韓国映画の隆盛は今に始まったわけではありませんが、この勢いの秘訣は一体何なのだろうと考えていくと、もちろん北朝鮮や日本などとの複雑な歴史的関係性からもたらされ続ける緊張感などもさながら、1987年に自分たちの力で民主政治を勝ち取って今に至るといった自負の念も含まれているような気もしてなりません。

特に軍事政権から民主政権に代わるまでの1970年代後半から1987年に至る激動の韓国史を背景にした作品に『タクシー運転手 約束は海を越えて』(17)『1987、ある闘いの真実』(17)『KCIA 南山の部長たち』(20)など傑作秀作が多く、またいずれも本国で好評を以って迎え入れられているのも、そういった苦難の民主化闘争が成就したことを誇りとする国民意識の顕れのようにも思えます。

本作もフィクションではありますが、1985年に民主化運動家・金大中(キム・デジュン/1998~2003年まで韓国大統領)氏が亡命先のアメリカから帰国するや軟禁を余儀なくされた事件をモデルにストーリーが構築されています。

時の韓国諜報機関・国家安全政策部は次期大統領選への出馬をめざす野党政治家イ・ウィシク(オ・ダルス)を監視すべく、彼の自宅の隣家に諜報部員ユ・デグォン(チョン・ウ)をリーダーとする盗聴チームを住まわせます。



このデグォン、もともと愛国心の強い男ではありつつ、盗聴していく中からウィシクの人間性に心惹かれていくわけですが、それらの状況を描いた前半部はかなりユーモラスなコメディ・タッチが敷かれ、ただし時折ビシッと諜報機関のシビアな魔手の数々の描写によって引き締めが巧みに成されています。

本作のイ・ファンギョン監督は『7番房の奇跡』(13)でも親子愛をベースに据えたヒューマン・タッチで冤罪事件の非を訴えるなど、ガチガチの正攻法ではなく、柔らかなヒネリを利かせながら本質を突くことに長けた手腕の持ち主で、本作のそんな彼の資質が遺憾なく発揮。

後半の怒涛の展開はネタバレになるので避けるのしても、本作は激動の韓国1985年を背景にした緊張感みなぎるポリティカル・サスペンスと、ガチガチな愛国者スパイと人間味豊かな野党政治家の心の交流を描出した感動の人間ドラマを両立させているのが妙味ともいえるでしょう。



特にウィシクを演じる名優オ・ダルスは、ここでは本当に人好きのする(まるで佐藤二朗をを細身にしたかのような!)、日本にも今こんな政治家がいてくれたら……と思わずにはいられないほどに理想的な政治家像を見事に体現してくれています。

いずれにしましても、人の本質とは激動の中からこそ如実に見えてくるものかもしれないのだとすると、今の世界的激動の時代の中、こちらが本質をきちんと見極めていくための気付け薬としても、この映画はフルに活用できる優れものであると断言しておきます。

(文:増當竜也) 

【あらすじ】
1985年、軍事政権下の韓国では、国家による弾圧が激しさを増していた。野党政治家イ・ウィシク(オ・ダルス)は次期大統領選に出馬するため帰国。しかし空港に到着するなり国家安全政策部により逮捕され、自宅軟禁を強いられる。ウィシク監視のため、諜報機関は当時左遷されていたものの愛国心は人一倍強いユ・デグォン(チョン・ウ)を監視チームのリーダーに据えた。デグォンは隣家に住み込み、24時間体制で監視。機密情報入手のため盗聴器を仕掛けたところ、聞こえてくるのは、家族を愛し、国民の平和と平等を真に願うウィシクの声。そんな声を聞き続けるうちに、デグォンは上層部に疑問を持ち始める。そんな中、ウィシクと彼の家族に命の危険が迫り……。 

【予告編】


【基本情報】
出演:チョン・ウ/オ・ダルス

監督:イ・ファンギョン

脚本:イ・ファンギョン/ユン・ピルジュン/キム・ヨンソク