山梨県富士山科学研究所(MFRI)、山梨大学、立正大学の3者は9月6日、過去40年間で7回しか出現していない富士山北麓の幻の湖「赤池」の水を、9年ぶりの出現となった2020年7月に採取することに成功し、その水質や水の安定同位体比の詳細な分析を実施したところ、赤池の発生の仕組みについて、精進湖と地下水を通じてつながっているとする従来説を覆す結果となり、主に直近に生じた降雨により形成されていることを確認したと発表した。

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    富士山麓で9年ぶりに出現した赤池(2020年7月18日に撮影されたもの) (出所:山梨県プレスリリースPDF)

同成果は、MFRIの山本真也研究員、山梨大大学院 総合研究部の中村高志准教授、立正大 地球環境科学部の安原正也教授、同・李盛源准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、公益財団法人・東京地学協会が刊行する学術誌「地学雑誌」に受理され、2022年2月末に掲載の予定だという。

赤池は、富士山北麓・精進湖の東約1kmの窪地に、大雨が降ると出現する一時的湖沼として知られ、過去40年間で出現が報告されたのは計7回と少なく、「幻の湖」とも呼ばれている。

赤池の発生の仕組みについては、精進湖の水位が上昇すると出現することから、精進湖と地下水を通じてつながっているなど、これまでさまざまな説が提唱されてきたが、いずれも科学的根拠はなく、未解決の問題となっていた。

そこで研究チームは、2020年7月に9年ぶりに赤池が出現した際に、その発生の仕組みの調査目的で水を採取。水質および同位体比の分析を行ったという。

その結果、赤池の水の同位体比は、同時期に採取された精進湖の湖水とは明らかに異なっていることが判明したほか、赤池出現後の降雨時に、赤池の水の同位体比が降雨試料側に大きな変化を示したことから、赤池に流入した水が主に直近の降雨に由来することが明らかとなったとする。

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    赤池、降雨、精進湖における水の同位体比の比較。赤池の水の同位体比は、同時期に採取された精進湖の湖水とは明らかに異なっており、また赤池出現後の降雨(7月21日~28日)に伴い、赤池の水の同位体比が18日から28日にかけて降雨試料側へと大きくシフトすることが確認された(図中の矢印) (出所:山梨県プレスリリースPDF)

さらに赤池では、水中のカルシウムイオンや重炭酸イオンの濃度が、赤池周辺の水試料に比べて1/2から1/4程度と低くなっており、赤池を形成した水の起源が、降雨が地下浸透後、地下深部へ移動することなく比較的短期間(数日程度)で流出したものであることも確認されたという。

研究チームによると、今回の結果は、赤池が精進湖と地下水を通じてつながっているとする、これまでの定説を覆すものであり、このことは富士五湖として地下水を通じてつながっているとされる西湖・精進湖・本栖湖の関係についても、見直しを迫るものとなる可能性があるとしている。

なお、今回出現した赤池は、過去40年間で出現したものの中では比較的小規模であったことから、研究チームは今後も引き続き、赤池出現時のデータを収集・蓄積することで、水域の拡大による水質や集水機構の変化などについても検討していくことを考えているとしている。