ビッケブランカが語る、「歌」を絶対的主役に置く方法

ビッケブランカが、2021年9月1日に1年半ぶりとなるアルバム『FATE』をリリースした。

同作の発売に先駆けて、7月12日には”出会い / 高揚感”をテーマにしたEP『HEY』、8月2日には”別れ / 哀愁感”をテーマにしたEP『BYE』の2作品を連続配信リリース。そのリリース方法の意図を辿っていくと、ストリーミングが主流になった現代の音楽の聴き方によってビッケ自身の考え方への変化があったようだ。自らが作詞作曲だけでなく、トラックメイクもするビッケが、どのような考えで楽曲を作っているのか、そしてなによりも大切にしている歌への考え方をざっくばらんに訊いた。

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ー『FATE』発売前に、4曲入りEPを2ヶ月連続で配信リリースと、かなりハイペースなリリースをされてきましたが、どうしてそのような方法をとったんでしょう?

本当にギリギリで生まれたアイデアだったんです。全部のスケジュールを組み替えるレベルというか。9月にアルバムをリリースすることは決まっていたんですけど、「4枚目だし、なんか新しいアイデアないですか?」ってチームのメンバーで話していたときに、EPを2枚出してアルバムに繋げれば、EPに収録されている曲にもフォーカスが当たっていいんじゃない? って話になって。めっちゃいいじゃないですか、やりましょう!って言ったのが6月初旬なので、最初の7月のEPまで1ヶ月間は制作がまじで地獄でした。

ーそこまでのスピード感だったんですね!? 毎月ギリギリのスケジュールの中、楽曲制作をすることで、どんな学びがありましたか?

1曲とガッと向き合うので、気が散らなかったというのがあります。でも、つらすぎるかな(笑)。今日1日で仕上げないといけないみたいな日に何も思い浮かばなかったことが何回もあったんですよ。でも、なんとかなるとずっと思えていたし、実際そうなったからよかったという感じでしたね。

ーそういう意味で、これまでの3作のアルバムとは成り立ちが異なっているわけですね。

『wizard』(2ndアルバム/2018年11月発売)とか『Devil』(3rdアルバム/2020年3月発売)、その前の『FEARLESS』(1stアルバム/2017年7月発売)は全体を通した作品という意識で作っていたんですけど、今回は1曲1曲との向き合いでしかなくて。自分が作る姿勢として、それを許すことができるようになった。それは自分もサブスクで音楽を聴いていて、アルバムじゃなく1曲に十分感動させられる経験をしたからで。アルバムの4曲目だけを聴くとかってことをリスナーとしてもやってきているので、自分のアルバムでもそういう意識でやれたのかなと。時代の進歩とともに作り方も変わった感じですね。

ー最近のインタビューを拝見していると、サウンド面へのこだわりや探究心がかなり増している印象を受けますが、そのあたりの考え方に変化はありますか?

歌が絶対に主役だという考え方に変わりはありません。わざわざ言葉にする必要がないぐらい鍛錬しているから、取材のときとかは曲の話に行きがちなんです。もちろん曲のことを掘っていくと、こういう音処理をするんだとか新しい発見があるんですよ。日本人はシンセサイザーに対してまずEQをかけて、その後にスプレッダーで分けて、ちょっとブーストかけてみたいな。ロサンゼルスの人は始めに音にブースターをバンってかけてからEQでちょっと抑えるみたいな。常識が違うことも知ったり、新しいことを勉強して、どんどん賢くなっていっているんです。それが楽しいのは楽しいんですけど、作詞とかメロディメイクに1番重きを置いているのは変わってないですね。

ーちなみに、作詞作曲の鍛錬ってどうやってしているんですか?

曲を作りまくることと、語彙を増やすことがひとつあります。知らない言葉があると絶対にすぐ調べるようにしていて。言葉が分からなくて曲を書けないってことはないようにしたい。例えば、雨を描写したい時に、いろいろな雨を思い浮かべて自分のイメージに1番近い言葉をしっかり選び抜きたいんです。「WALK」って曲では、バーって横に降る”驟雨”って言葉があって、その曲の景色に合うと思って最初に選んで書いていったんです。

ーそこまで具体的に明確にイメージしてから、合う言葉を選んでいくんですね。

もしそこで驟雨って言葉が思い浮かばなかったら、雨を想像するの辞めちゃうかもしれない。知識を持たなきゃなと思ったんです。メロディメイクに関しては、ひたすら作っていって、曲を作ることを目で見えるようにしていく感じですね。

ー「FATE」は、最初に〈みちのくの二本松〉という具体的な描写から始まります。それが意外だったんですけど、どういう着想で選んだ言葉なんですか?

これは、ひねり出した感じじゃないんですよ。〈みちのくの二本松〉って書いて、松という言葉から僕の実家の目の前のオオノさん家の松を思い出した。オオノさん家の柿をもらいにいこうとすると、庭にある松が目に刺さりそうになる。自分の経験がここまで明確じゃなくてもピッと映像で入ってきて、棘って言葉がすぐ出てきたんです。そうした連続性でピピピピピって歌詞ができていきました。

ーそもそも〈みちのくの二本松〉ってなかなかパッと出てこない言葉なのかなと。

その時、川端康成の『掌の小説』を読んでいたような気がしますね。そうするとそういう表現が出てくるんですよ。ポルノグラフィティの曲に地元の地名を歌った歌があるんだとテレビで観たことがあって。自分だったら名古屋の〈桜通り〉って歌詞に入れてみようかなあって。そのくらいの感覚で蓄積が偶然歌詞をボンっと出すんです。

ー「よだか」も文学的な単語ですよね。

『よだかの星』は本当に感動した覚えがあって、未だに忘れないです。たぶん、〈みちのくの二本松〉という言葉があったからこそ、よだかが引っ張られていると思っているんです。もしかしたら僕の記憶が違っていて、よだかが先だったかもしれないけど、結局は全部が繋がり合って呼び合って一瞬のピピピピピって瞬間がくるのを待っている。普段ダラダラしながら、切迫感も心がギスギスすることもなく絶対出てくるって感じでぼーっとしていると、1個出て、そこから繋がっていって10個出てくるみたいな感じですね。

ー「夢醒めSunset」のギターは、MOROHAのギタリストのUKさんですか?

ギターはUKです。僕はギターを左利きで練習していて、コードのCを弾けないんですけど、MOROHAの「tomorrow」は弾けるんです。Fとか絶対弾けないんですよ。でも、「拝啓、MCアフロ様」とか全部弾ける。だから俺のアコギってUKなんですよ。MOROHAの曲しか弾けないから、俺がアコギでフレーズ考えようと思ったら、UKなんです(笑)。この曲のフレーズを考えたのは僕なんですよ。

ーそうなんですか!? UKさんが考えたフレーズだと思っていました。

僕のアコギはUKだから、UKでできることしかできないんですよ。自分で今まで培ってきたUKイズムというか、オープンを入れて指のタッピングの感じとかも、全部UKが生きていて。出来上がって「めっちゃUKっしょ?」って本人に言いました(笑)。ここまでUKだから、礼儀としてレコーディングはUKに弾いてもらいたいと思ったんです。作ったのは僕とは言え、元祖UKに弾いてもらった方が筋かなと思って。

ービッケさんは2代目UKなんですね(笑)。なんでUKさんのギターをそこまで習得しようと思ったんですか?

単純に感動したからですね。まず僕はMOROHAが大好で、ギザギザの言葉を放り込むアフロと、後ろで真下を向きながら客に媚びることなく永遠にギターを弾いてるUKって絵が格好よすぎる。それでいてギターに耳を向けるととんでもない。テクニックがあるのが前提なんですけど、それ以上にメロディメイクのセンスがすごい。アフロが言っていることも全部UKのギターで説明できるというか。とんでもないレベルのことをやっているやつが同い歳にいた。これは化け物だなって。僕は、誰に嫌われてもいいんけどUKにだけは嫌われたくないからって言いながら、一緒にオンラインでゲームをしているんですよ(笑)。

ーあははは。「Death Dance」は誰もいなくなった街のクラブでゾンビが踊り出すという、ビッケブランカ的ブラックユーモアに聴こえました。SFの世界とも捉えられるし想像力が膨らむ曲だなと。

たしかにブラックジョーク寄りだと思いますね。緊急事態宣言で全く人のいない渋谷を車で通った時に、〈クラブは静まって バンドはプレイもしない〉って2つを思いついた。そんな中で目に見えないやつらが人間がいなくなった代わりに盛り上がっていたら超おもしろいなって。そっちの世界の方が人間よりも楽しそうだなっていう歌です。アンチテーゼではないんですよね全く。

ーそれこそ、さっき言っていたみたいにパッと思い浮かんで繋がっていくという。

そうですね。2行が浮かんだ瞬間からドーン! って繋がっていきました。

ーそういえば、コロナ禍では、シンセやハードウェア機材を買い揃えて音楽制作の環境をアップデートしていたそうですね。

家で快適に過ごそうと思ってめっちゃ機材を買い漁りましたね。それが完成したんですけど、いまは、もう家よくね? って次元に来ていて。反動で、アウトドアセットを買ったんですよ。PCと高音質のポータブルスピーカーとMIDI鍵盤をDJ用のガチガチの壊れないケースに詰め込んで持っていけばどこでも制作できるなって。7000何ペアとか、すごいいっぱい容量がある蓄電池も買って。家から飛び出して、本当に思い立った場所で曲を作れるようになりたいと夢見ながら、最近は買い物をしています(笑)。

ー音楽制作のノマドワーカーみたいな感じですか(笑)。

そうそう。音楽ノマドみたいな(笑)。それさえできれば、箱根でも札幌でも、ロサンゼルスでもパリでもできる。そういう人生だったら豊かだろうなと、家に引っ込んでいて気づきました。

ー環境が変わると、制作に対する気持ちも変わるということですよね?

すごく変わりますね。景色がいいとか、天井がないとか、空が見えると、頭が柔らかくなります。アイデアが出やすくなるし判断力も上がる。プラグインどっちにしようとか、1つ1つの判断が早くなります。

ー実際、外で作った曲はあるんですか?

アルバムのイントロとアウトロは箱根の旅館で作りました。山がぐわーって広がっているベランダにテーブルを出して。蓄電池を持っていって、そこで作りました。歌を録ることになると若干大変なんですけど、ちゃんと壊れにくいマイクも買っているんですよ。仮歌ぐらいなら録れるし、全然やれちゃいますね。

ーアルバム最終曲の「Luck」も箱根で作ったんですか。

これはアルバムの最後に蓋をしようと作った曲です。今までは、アルバムのタイトルを1曲目に持ってきてインストで1分くらいやっていた。『wizard』だったら「wizard」って1曲目があったんですけど、今回は「FATE」が『FATE』っていうアルバム名を冠れるぐらいパワフルな曲になったので曲順を変えたんですよ。ってなると、イントロとアウトロがほしいよなってなって。アウトロを書いたのは今回が初めてです。これまでもイントロはあったけど、蓋をしたのは初めてですね。

ーアウトロは1回音が途切れて終わったと思ったら、また始まってびっくりしました。

あれは、ああいうアレンジで聴いている人をびっくりさせたかったんです。

ー読み方は一緒ですが、イントロが「Lack」でアウトロが「Luck」になっている。

イントロの「Lack」は不足って意味なんですよ。足りない状態から始まって、曲がいっぱいサプライされて、最後幸運を掴む運命ってことです。

ー曲順はどういうことを意識して考えられたんでしょう?

アルバムの全体像で流れで聴いてもらうことは、はっきり辞めました。ナンバーを振るみたいな感じですね。言い方はちょっと難しいですけど、野球のスタメンみたいな感じ。4番が1番強いんだけど、1番バッターもすごく大事で。イントロは1回置いておいてですけど、何番目に聴いてほしいと思うかをナンバリングした感じですね。聴いてほしい曲に若い番号をつけています。

ー「ポニーテイル」は、脳みその違う扉で作ったJ-POPと他のインタビューで言っていたので、「天」とともに代打的な感じで10、11曲目に入っているイメージでしょうか。

「ポニーテイル」はそれに近いんですけど、「天」に関してはちょっと例外で。最強すぎて居場所がないって感じです。大好きだし本当に評判のいい曲で。評判よくなるのも自分でも分かるぐらい書ききれた曲なので。なんて言うのかな。ここは、岩瀬(仁紀)なんですよ。

ー中日ドラゴンズの守護神(笑)。

そうです。岩瀬は圧倒的に信頼できる押さえ投手じゃないですか。という意味で「天」はここしか居場所がなかった。他は打順通り強い曲が上に来ている。だけど強いチームだから7番バッターだってめっちゃ打つんですよ。なんでたとえが野球なんだろうとは思うんですけど(笑)。

ー最近のビッケさんの楽曲にはEDMの要素を感じることが多いですが、世界を照準に当ててのサウンドメイキングという意味以外に、EDMである理由はあるんですか?

所謂みんながEDMって言っているのって、ハウスの中のジャンルでポップハウスみたいなことなんですよ。EDMは全枠のことというか。パスタがあって、その中にスパゲッティとかがあるみたいな。僕はトロピカルハウスも好きだし、「Death Dance」はちょっとテックハウスみたいにしたかった。結局明るいものもスカッとするものが好きだから、曲によってはドロップでグッと下に下ることもあるし、いろいろなことをやっている感じです。

ー音の感じが全部気持ちいいですよね。

音作りもすごく時間がかかるんです。「蒼天のヴァンパイア」は音にこだわりすぎて、音がめっちゃよくなっちゃったので、これに負けないメロディと歌詞がないとと思って。音こだわってるらしいよみたいな受け取り方で終わっちゃわないよう、むしろそれを気づかせないくらいの歌力が逆に必要になってくるんですよね。それに挑戦するのも楽しい。僕の場合は歌が音を食わなきゃいけないから。2要素が曲の中で高め合っているんですよ。2要素がずっとバトっている。

ー「夢醒めSunset」で後半、大勢で歌っているところがあるじゃないですか? あれは誰の声なんですか?

スタッフです(笑)。ギャングスみたいな人たちがいるイメージになったらいいなって。焚き火の音が鳴っているんですけど、そういうところでやっているイメージになったらいいなと。そのために人を呼ぶ必要もないかなと思ったのと、逆に素人っぽい方がいいからと思って、いい塩梅で素人感が逆にプラスになりました。

ー7曲目「Divided」はピアノの曲です。他の曲とのバランスとかをある程度考えて作った曲なんでしょうか。

これはイントロとアウトロを除くと、曲としては1番最後にできたんです。めっちゃスケジュールがタイトな中で頑張ったんですけど、なにか1曲足りないってなったんですよ。でも、締切まであと2日しかない。だけど作るって言って、2日で作ったのがこれです。英詞なんですけど、英語ってすごく簡単なのですごいシンプルに作れたんです。だからこそミックスがすごく重要で。アデルの音源と並んで聴いても負けないぐらい攻めた音圧にしてくれと。サウンドを徹底的にこだわって作ってって言って、新人の女の子なんですけどすごく頑張ってくれて満足のいく出来になった。もはや別の輝きを放ってますね。

ーミックスで音圧を突っ込むのは意見が分かれる部分ですが、曲を活かす上での必要な要素なんでしょうか。

日本人の言う突っ込むという意味を、外国人の言う突っ込むの次元が違うんですよ。日本人の言う突っ込むって下処理なんですよ。向こうだと日本人の突っ込む先に突っ込むがある感じなので。日本はソフトすぎると思いますね。ロサンゼルスのジョッシュ・カンビーと一緒にコラボしたり、少女時代とかTWICEとかもミックスしているエンジニアに聞いて知ったんです。「夢醒めSunset」はそのジョッシュがミックスしたから、やっぱりビター! ってなって、バーンってくるんですよね。日本人はやっぱり甘い。

―音作りへのこだわりがより深くなってきていると思いますが、この先どんなことをさらにこだわりたいですか。

ダンスミュージックをめっちゃ作れるようになってきたので、さらにレベルを上げたいなと思います。マシュメロ、アラン・ウォーカーと並んでも負けない音圧とアレンジ力と処理をできるようになりたい。

―所謂エンジニア的なことも自分でやりたいという部分もある?

僕アメリカに行ったことないんですけど、アメリカとかヨーロッパの最先端でやっているプロデューサーやDJを参考に物事を考えちゃうところがあって。アラン・ウォーカーは自分の作った曲はミックスまでするのが当たり前で。いざ自分でやってみると、結構それが当たり前なんです。キックを選ぶ、スネアを選ぶ、トラック選ぶ、リード選ぶ、リバーヴの処理を選ぶってやっていくと、作りながら勝手にミックスしているんですよ。ダンスミュージックって、素材録れました、はいミックスじゃなくて、アレンジと同時にミックスをしながらじゃないとできないんです。必然的にミックスまで終わる。

―音色を選んだりバランスを模索すること自体が、ミックス作業でもありますもんね。

ということも知りました。何もかものルールも常識も違うんだなって。日本は島国で、それはそれで島の俺たちのルールだからって逃げがちですけど、今は、韓国のアーティストに置いて行かれている時代なので。もうちょっと考え方変えてもいいかなということで、せめて僕ぐらいだけでも外を見ておこうという気持ちでいます。アレンジをやれる=ミックスがやれる段階に勝手にいくだけの話なので、エンジニアさんの仕事を邪魔するつもりもないんですよ。自分でそこまでできるようになったら、もっとおもしろいアレンジができていくし、もっと研ぎ澄まされた削がれたアレンジもできる。それに負けないように歌も鍛錬するだろうし。

―音作りへのこだわりが強くなっても、やはり核は歌にあると。

結局、歌が絶対1番強くないといけない。そこの鍛錬は怠らずにいきたいですし、サウンドメインで聴いてくださいっていう気はないですね。歌を聴いてほしいです。

ビッケブランカ

発売日:2021年9月1日(水)

Download&Streaming:https://vickeblanka.lnk.to/FATE

「FATE TOUR 2147」

2021年9/24(金)福岡・福岡市民会館