マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、テーパリングについて解説していただきます。


昨春のコロナショックに対応して、主要国の中央銀行は強力な金融緩和策に踏み切りました。各国経済は、引き続きコロナの影響を受けていますが、金融・財政政策の両面からのサポートやワクチンの普及に伴う行動制限の緩和・解除により、徐々に回復を強めつつあります。

カナダやニュージーランドの中央銀行は動き始めた

そうしたなか、主要国の中央銀行は金融政策の正常化に向けて動き始めています。BOC(カナダ中央銀行)は今年に入ってQE(量的緩和)を段階的に縮小する、いわゆるテーパリングを開始し、加えて22年後半の利上げを示唆しています。RBNZ(ニュージーランド準備銀行、中央銀行)も、すでにQEを停止し、21年内の利上げを示唆しています。

米FRBは今年9月にもテーパリング決定か

そして今、金融市場が最も注目しているのが、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)の動向です。これまで金融市場で金融政策の正常化が近いとの観測が浮上すると、FRBは現在の金融緩和を長期間にわたって続けるとのメッセージを発してきました。しかし、ここへきてFRBも金融政策の正常化の第1弾となるテーパリングに向けた地ならしを始めました。

FRBが金融政策を決定するFOMC(連邦公開市場委員会)が7月下旬に開催され、その議事録が8月18日に公表されました。そこでは、ほとんどの参加者が年内のテーパリング開始を支持したことが明らかになりました。議事録の公表を受けて、早期テーパリング観測が高まりました。足もとの新型コロナ変異株の感染拡大や景気減速の兆候は懸念材料ながら、早ければ9月21-22日のFOMCでテーパリングを決定し、10月から開始とのシナリオを想定することも可能です。

前回は10カ月かけてテーパリングを終了

リーマンショック後のQEに対するテーパリングは13年12月のFOMCで決定し、14年1月から開始、同年10月に終了しました。今回は年内に開始して22年年央に終了との意見もあるようです。セントルイス連銀のブラード総裁は、今年10月に開始して22年3月終了とのスケジュールを主張しています。

前回は850億ドル/月のQEを10カ月かけて終了しました。仮に、ブラード総裁の主張通りだと、今回は1,200億ドル/月のQEを6カ月で終了するというかなりアグレッシブなテーパリングになりそうです。

2014年の経験

さて、今後の米株や債券、米ドルの行方を占ううえでの参考とするため、前回2014年のテーパリング時の市場動向を確認しておきましょう。

米株(NYダウ):

米株はリーマンショックで大幅に落ち込んだ後、ギリシャの不正会計や欧州債務危機のあった2010-11年の時期を除いて基本的に上昇トレンドでした。それは2015年夏に利上げ観測が浮上するまで続きました(実際の利上げは同年12月に実施)。ただし、2014年初めから2月上旬の約1カ月間にNYダウは比較的大きく下落しました。株式市場がテーパリングの開始を嫌気したと解釈できます。

米債券(10年物国債):

長期金利(10年物国債利回り)は13年5月のテーパータントラム(※)からテーパリング開始直前の同年12月まで上昇しました(米国債価格は下落)。そして、テーパリングが始まると長期金利は低下に転じ、テーパリング終了後の15年1月にボトムを付けました。

(※)バーナンキFRB議長(当時)が議会証言でテーパリングの可能性に言及したことで、長期金利が大幅に上昇して市場を動揺させたこと。

今回は昨年10月ごろから長期金利は上昇を開始し、今年3月に直近のピークを付けました。FRB関係者からテーパリングに関する発言が出る前にテーパータントラムは終わっていたと解釈できなくもありません。ただし、前回のパターンを踏襲するならば、長期金利はテーパリング開始直前までもう一度上昇すると予想することもできるでしょう。

米ドル(/円):

米ドル/円もテーパリング開始直前にいったんピークを付けました。もっとも、米ドル/円がそれまでに上昇したのはテーパリング観測よりも13年4月の日銀の「量的・質的金融緩和」(黒田総裁のバズーカ1発目)が大きかったでしょう。テーパリング開始後は米ドル/円は横ばい推移でした。長期金利が低下するなかで、米ドル/円が比較的堅調だったのは、テーパリングを続けられるほど米景気が堅調だったためと考えられます。

またテーパリングの終盤から終了後にかけて、米ドル/円は上昇しました。これもテーパリング絡みではなく、日銀の追加金融緩和(黒田総裁のバズーカ2発目)の影響が大きかったのでしょう。

今回は、今年3月の長期金利のピークアウトに合わせて、米ドル/円は横ばい推移が続いています。ただし、前回のパターンを踏襲するならば、米ドル/円はテーパリング開始までにまだ上昇余地はあると言えるかもしれません。