大阪大学(阪大)、弘前大学、大阪工業大学(大工大)、凸版印刷、キリンホールディングス、科学技術振興機構の6者は8月24日、和牛肉の複雑な組織構造を自在に再現可能な「3Dプリント金太郎飴技術」を開発することで、筋、脂肪、血管の線維組織で構成された和牛培養肉の構築に成功したと発表した。

同成果は、阪大大学院 工学研究科の松崎典弥教授、同・ドンヒー・カン特任研究員(常勤)、同・ハオ・リュウ大学院生、凸版印刷(阪大大学院 工学研究科 先端細胞制御化学(TOPPAN)共同研究講座)の北野史朗招へい准教授、同・入江新司招へい准教授、同・フィオナ・ルイス特任助教(常勤)、弘前大大学院 医学研究科の下田浩教授、日本ハム 中央研究所の西山泰孝研究員、キリンホールディングス キリン中央研究所の野澤元主任研究員、同・柿谷誠研究員、リコー・リコーフューチャーズ BUバイオメディカル事業部の高木大輔研究員、リコージャパン PP事業部の笠大治郎グループリーダー、大工大 工学部生命工学科の長森英二准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

人口増加に伴う食糧問題の解決は世界的な課題となっているが、その解決策の1つとして期待されているのが、動物から取り出した少量の細胞を培養して人工的に増やすことで得られる培養肉である。2013年ころから研究が本格化し、現在では大学や研究機関などによる基礎研究だけでなく、実用化に向けて世界中で数多くのベンチャー企業も設立されているという。

しかし、これまでのところ報告されている培養肉のほとんどは、筋線維のみで構成されるミンチ様の肉でしかなく、肉の複雑な組織構造、例えば和牛の“サシ”などを再現することは難しかったという。

こうしたこともあり、今回、研究チームでは、筋・脂肪・血管という異なる線維組織を3Dプリンターで作製し、それを金太郎飴のように統合して肉の複雑な構造を再現する「3Dプリント金太郎飴技術」の開発に至ったという。

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    3Dプリント金太郎飴技術による和牛培養ステーキ肉の作製の様子 (出所:共同プレスリリースPDF)

これにより、肉の複雑な組織構造をテーラーメイドで構築できるようになったほか、和牛の美しい“サシ”など複雑な肉の構造を再現できたり、脂肪や筋成分の微妙な調節ができるようになることも考えられるとしている。

共同研究チームを率いた阪大の松崎教授は今回開発された技術について、「日本が世界に誇る和牛の複雑かつ美しい“サシ”構造を再現することを目的に開発しました。3Dプリント技術を用いて筋や脂肪、血管の線維組織を安定して作製するためには、分化誘導の際に起こる収縮を抑えることが重要でした。そこで我々は、体内では“腱”が筋肉を支えていることに着目し、腱の主成分であるI型コラーゲンで“人工腱組織”を作製、そこに各線維組織を結合させることで、線維組織が安定して作製できるようしました。和牛培養ステーキ肉が日本の新たな産業になることを期待しています」とコメントしている。

なお、今回開発された技術は、牛の成長と比較すると短時間で培養肉が得られるため、より効率的な生産が可能となる点も優れた点だという。今後、3Dプリンター以外の細胞培養プロセスも含めた自動化装置が開発されれば、場所を問わず、より持続可能な培養肉の作製が可能となることが期待されるという。