コロナ禍を経て、コミュニケーションのあり方が大きく変わろうとしている。さまざまなソリューションが登場する中、これらをどのように使い、どういったマインドで運用すべきなのか。IT全盛の時代に求められるコミュニケーションについて、有識者に伺っていきたい。

今回は、2018年よりSlack Japanの日本法人代表として活躍している佐々木聖治氏に話を伺った。デジタルコミュニケーションツールの"今"を作り上げている同氏は、どのようにコミュニケーションを取り、これからどのようなスキルが求められると考えているのだろうか。

  • Slack Japan 日本法人代表 佐々木聖治 氏

■前編はこちら:コミュニケーション不足が組織に与える問題とは

コロナ禍を受けたナレッジワーカーの意識変化

コロナ禍によってビジネスパーソンの働き方は大きく変化した。朝から夜までリモートワークを行っている方も多いことだろう。だが、リモートワークは自身の仕事に集中できるという観点で優れている一方、仕事と生活のスイッチを切り替えるタイミングがなかなか掴めない、仲間とのコラボレーションが図りにくいといった差異も見えてきている。

佐々木氏は、Slackが立ち上げたコンソーシアム「Future Forum」の調査データをもとに、コロナ禍を受けたナレッジワーカーの意識の変化についてこう語る。

「働き方やコミュニケーションをいかに柔軟にしていくかということが重要だと思い知らされていますね。統計では、ナレッジワーカーの93%が柔軟なスケジュールを、76%が働く場所の柔軟性を求めています。また、80%以上が同僚や顧客との連携を重視した、新たなデジタルオフィスを利用したいと答えています」

Slackはこのような働き方の変革を見据え、さまざまな試みを行っている。その結果、2020年3月の時点で同時接続ユーザー数が1250万人を超え、2021年には全世界におけるアクティブな累計使用時間はなんと10億時間以上となった。日本においてもその影響は大きく、Slack Japanは2020年度に売上高76%アップ、有料ユーザーも79%アップを達成。カスタムアプリケーションも69%増加したという。

「コロナ禍を経て、Slackが仕事のコミュニケーションの中核になっていくことを多くの方が実感しています。『Slackがあって良かった。会社で何が起こっているのか、しっかりとわかる』という声もいただきました。また、こういった環境の中で失われつつある、会社への帰属意識や企業カルチャーの醸成に役立っているとも聞きます」

「重要な部分は変わらない」佐々木氏がコミュニケーションで心がけること

コロナ禍は働き方のみならず、人々のコミュニケーションの在り方をも変化させている。Slackなどのデジタルコミュニケーションツールは、まさにこれからのコミュニケーションを形作っていく存在といえるだろう。その日本法人の代表を務める佐々木氏は、日頃どのようなマインドでコミュニケーションを行っているのだろうか。

「Slackなどを使うことで、これまでよりもテキスト中心のコミュニケーションが多くなります。さらに、Eメールで行っているような挨拶を省略したチャット的なコミュニケーションも増えました。ですが、重要な部分は変わりません。例えば、朝一番のメッセージは『おはようございます』という挨拶から始める。これは人間のコミュニケーションに必ず必要なことだと思います」

昨今は絵文字を使う機会も増えている。これも意思疎通を素早く行うのに適しているが、それでも「文字にしてこそ重要なこともある」と佐々木氏は言う。それが挨拶や感謝の言葉だ。急いでいる時は後から付け足す形でもかまわないので、しっかりと言葉にすることが大事だという。

「送るメッセージは、長文過ぎても短文過ぎてもダメだと思います。要件をしっかりと明確に伝えることが大事です。そのためには必要に応じて太字にするのも有効ですし、絵文字を追加して気持ちを表すのも良いと思います。情報はどんどん流れていきますから、メッセージを見て考えたこと、感じたことは積極的に表現するべきです」

  • 自身のコミュニケーションを振り返りつつマインドを語る佐々木氏

ポストコロナ時代に向け、Slackには新機能も

「これからは相手の環境を尊重したコミュニケーションの取り方が重要かなと思っています。Web会議が多用される中でビデオ会議疲れもあると思うので、Slackとしてはやはりそれを補完するようなものも必要かと考えました」

佐々木氏はこう話し、コミュニケーションを補完するSlackの新機能を3つ挙げた。ひとつ目に当記事の前編でも紹介された「Slackハドルミーティング」。Slack上で社内での立ち話のようなコミュニケーションが行えるため、仕事と直接関係の無い雑談なども行いやすく、心理的安全性の確保にも繋がるという。

  • 「Slackハドルミーティング」のイメージ。「立ち話」のように気軽な音声コミュニケーションができる

ふたつ目は、Slack内での録画機能。ショートビデオをテキストメッセージの代わりに使い、新しいコミュニケーションを取ることができる。

みっつ目はメッセージ等の予約送信機能。他のサービスでも導入されているものだが、例えば日曜日にメッセージを書き、月曜日の朝に送信するような設定が可能。週末のプライベートな時間に上司からメッセージが届くと、それが通知だけであっても心が安まらないものだが、そのようなストレスを回避できそうだ。

これからのビジネスパーソンに求められるスキルとは

ポストコロナ時代においては、ビジネスパーソンに求められるコミュニケーションスキルも変化していくだろう。これからの時代を生き抜くために身につけたいスキルについて、佐々木氏は自身の考えをこう語る。

「ビジネスパーソンにとっては、『オープンかつ透明性の高いコミュニケーションを実践していくこと』『当事者意識を持って積極的に自ら動いていくこと』の2点が大事なのではないでしょうか。情報を共有することで多くの方から様々な意見をもらうことができ、仕事のブラッシュアップにつながります。そのような場を作り、そしてそのような環境の中で積極的にコミュニケーションをしていく心構えが求められると思います」

仕事をするうえでコミュニケーションが変われば、それに合わせてマネジメントスキルも変化していくだろう。

「マネジメントで求められるのは、『意見を受け入れながら、メンバーの主体性を促して支援していくこと』だと思います。高いカリスマ性を持つ人であれば、自らの意見でメンバーを引っ張っていくリーダー像もあると思いますが、多様化が進む現代社会では、多様な方々からの意見を傾聴し、主体性を促し、サポートする姿勢が必要と考えます。そしてアラインメントを取っていく上で『あの人は正しいことを言っている』と思われるよう、適切で一貫性のあるコミュニケーションを行うことは重要な観点でしょう」

そして、キャリアアップを考える方に向け、基本的なコミュニケーションの重要性を改めて説いた。

「自己の成長を勝ち取っていく人、活躍する人は、やはりコミュニケーションの質にこだわっています。5W1Hや起承転結のような一般的なことをしっかりと押さえ、相手への配慮や共感、思いやりを欠かさないこと。基本ではありますが、やはりそういった基本をおろそかにしないことが、自己の成長を促すのだと思います」

当事者意識を持った挑戦が明日を作っていく

コロナ禍を経て新しいコミュニケーションが求められている昨今。Slackのユーザーはこれからも増加し、そしてビジネスコミュニケーションの柱として活用されていくだろう。佐々木氏は最後に、若手と年長者の双方に向けてこうメッセージを送る。

「若手のビジネスパーソンは、当然デジタルコミュニケーションに慣れているでしょう。デジタルトランスフォーメーション(DX)は、年長者ができていないから言われているわけです。若い方はそういう人たちを巻き込んでいって欲しいと思います。そうすれば会社の中の環境作り・雰囲気作りにも貢献できます。そして、年配世代は傍観せずに、しっかりと若い世代に対峙しましょう。やはり大切なのは、当事者意識を持った挑戦なのです。チャレンジすることが、自分の明日を作っていく。仕事における成長とは結局そういうものだと私は考えます」

■前編はこちら:コミュニケーション不足が組織に与える問題とは