バトルから見える漫画家と編集者のリアル!「少年ジャンプ+」の注目企画「MILLION TAG」

集英社のマンガ誌アプリ「少年ジャンプ+(プラス)」が現在、漫画家を発掘する番組「MILLION TAG(ミリオンタッグ)」をYouTube「ジャンプチャンネル」で配信している。

番組は、課題に挑む新人漫画家と編集者の様子がドキュメンタリータッチで映し出されるという内容で、新人漫画家にとって大きなチャンスであると同時に、漫画ファンにとっても興味深い内容となっている。

現在、番組は第5話までが配信されており、8月6日(金)公開の第6話では第3課題「読切ネーム+キャラ絵」の制作に密着、そして第3課題の結果発表までが行われる。

【漫画家と編集者の多様な関係性】

——「MILLION TAG(ミリオンタッグ)」というユニークな試みは、そもそもどんな意図からスタートしたのでしょうか。

細野 最初は今のような形の番組として配信するといったことは、まったく考えていませんでした。きっかけは、「少年ジャンプ+」のブランド価値を高めるような企画ができるといいよね、という考えからでした。そこで、ジャンプ+の一番の売りはなにかと考えたときに、やはり編集者・編集力かなということで、それを伝えるためには、漫画家さんとの打ち合わせ風景を見せるのがいいのではないかということになりました。でも、ただ打ち合わせ風景を映しているだけでは、多くの方に興味を持っていただけるものにならないし……と、話していくうちに「バトル形式のオーディションをドキュメンタリー風に構成する」という、今の企画の形になっていきました。

——実際に企画が実現して、今のところの手応えはいかがですか。

細野 やってみてよかったなと思っています。ひとつは、見てくださった視聴者の方からのいい反応をいただけていることですね。「こんな風に編集者さんはアドバイスをしてくれるんだ」、「こんな風に打ち合わせができるのか」など、まさに僕らが意図していたような反応が返ってきているので、そこは本当によかったですね。あとは、自分自身が出演していない部分を見て思ったのが、番組としても客観的に非常にいい形になった、と。そして、これをきっかけに漫画家さんたちに「ジャンプ+っていい編集部だな」と思っていただけて、投稿してくれる方がさらに増えてくると、なおいいなと思っています。

林 僕は企画の立ち上げから関わって、いろいろアイデア出しもしていたので、ちゃんと形になってよかったな、という感じです。思った以上に大変な労力がかかってしまったというのはありますが(笑)。それから、「若い編集者たちはこういう風に作家さんとコミュニケーションをとっているのか」とか、他の人(編集者)の仕事が見られるのも面白いです。各人、全然スタイルが違いますから。視聴者や漫画家志望者にも、そこを観ていただけるとありがたいですね。特に漫画家志望者の方が「自分と噛み合いそうな人がいる」と思って、うちの編集部に持ち込んでくれる人が増えたらいいなと思っています。

細野 確かに、編集者それぞれで仕事のスタイルは全然違いますからね。漫画家さんにとって自分と合う編集者がいるかどうかってことは、すごく大事なことだと思うので。とにかく、いろいろなタイプがいることがわかってもらえればいいですね。

——おっしゃるように、作家さんはもちろんですが、編集者にもそれぞれ個性がある。それが見られるのも今回の番組の楽しいところです。やはり、いろいろな編集者の方がいるんですね。

林 むしろ、いろいろいたほうがいい、が正解じゃないでしょうか。同じ色に染まっていくと出てくる作品も同じになってしまうので。僕が編集部に入ったときには、キャラ立ちしない編集者はダメだ、みたいな空気がありましたよ。

細野 そんなのあった?(笑)

林 いやいや、絶対ありましたよ(笑)。先輩編集者から「お前はどんなキャラなんだ?」っていう圧迫感がヤバかった。まあ、それは昔の話で。今はもう、それほど強制される空気はないですけどね。

——漫画家さんや編集者さんとの関係性も、やはり昔から変わってきたところはあるんでしょうか。

林 時代では括れないですよね。そこもやはり、個々人です。昔も今も、すごくドライなコンビだけどうまくいっているケースもあったし、本当に家族みたいに濃密なお付き合いでうまくいっているコンビもいます。

細野 編集者による個人差もあるし、相手の漫画家さんによっても変わります。同じ編集者でも、ある漫画家さんとはビジネスライクに付き合って、別の漫画家さんとは家族ぐるみで、みたいに使い分けたりもします。むしろ、どういうスタンスが相手の作家さんにとって心地いいのかを、気にしている人が多いと思います。

林 作家さんによって好みがわかれますからね。ベタベタするのは嫌だっていう人もいるので。

——今回の企画の特徴のひとつは、「優勝作品のアニメ化」が副賞として設定されていることだと思います。

細野 作家さんにとってのハードルが高い企画ではあるので、それに報いるにはしっかりとした大きな賞品じゃないといけないと思いました。賞金はもちろん、「連載確約」を賞にするというのも、これまであったので。さらに超えるものというとメディア化、アニメ化がわかりやすいかなという考え方ですね。

——アニメ化となるとやはり、漫画家さんにも力が入るものでしょうか。

林 そこは人にもよりますが。ただ、アニメ化となると日本を飛び出るというか、全世界の人に作品が届くことが多いので、それをひとつの目標に設定にしてらっしゃる方もいらっしゃいますね。そういう意味でも、賞品としては正しいかもしれないですね。「漫画賞でアニメ化確定」というのもあまり見たことがないからいいんじゃないかと企画段階で話していた記憶がありますが……でも今から思うと、ちょっと無茶があるというか(笑)。どんな作品がくるのかわからないですし。

細野 そうそう(笑)。

林 優勝作品がアニメ化に向いていない可能性もあります。でも、それも込みで面白いと思います。「こんなのアニメ化できるの?」という作品が優勝しても、それはそれでいいのかなって。

——普段、編集部に持ち込まれる作家さんたちと比較して、今回の企画で集まった漫画家さんたちの雰囲気や特徴などの違いはありましたか。

細野 「普段と比べて」ということではないですが、やはりレベルは高かったかもしれないです。毎月募集している漫画賞と違い、今回の企画はお金をかけて宣伝もして、情報の露出が多かったです。また、賞金が高くてアニメにもなるということで、普段の漫画賞よりも(企画自体に)少し山っ気があるというか(笑)。その分、「連載をとるぞ!」「アニメにするぞ!」という心意気を持っている応募者が多めな印象でした。

林 確かに、もうデビュー済みだったり、他で受賞経験があったりする応募者が、結構いらっしゃいましたね。ただ、幸いなことに「ジャンプ+」は最近、普段から持ち込んでくださる作家さんのレベルが高くなっていると感じるし、何か賞をやるたびにキラリと光る方がきてくれています。

細野 賞を新設するたびに、全然違う応募者がきたりするので、今回だけの特徴っていうのは、あまりない気がしますね。

——林さんはタッグを組んでバトルに参加なさっていますが、細野さんから見て、カメラに映る林さんはいつも通りのお仕事ぶりですか?

細野 そうですね、よそいきではないなとは思います。ちゃんといつものままだなって。

——林さんも、そこは意識せずにいつもどおりで。

林 意識すると嘘が生じるし、視聴者も嘘は嫌がると思うので。だから、漫画家さんと打ち合わせをしてできるだけいいものを作るという部分では、普段とやっていることはほとんど変わらないです。ただ、カメラが入っていることと、バトル形式のオーデョションということで、締切の精度が高いんです(笑)。普通だと、限られたスケジュールの中ではあるけれど「少しゆっくりしようか」と間がとれたりもするのですが、今回はその間がとれない。編集者側のスタンスとして、僕はそれがすごくいいなと思っています。やはり「描かざるを得ない」という状況に立つことで、(漫画家が)成長するんです。仮にカメラに映らないとしても「描かないといけない」と熱中できる時間って、宝物だなと僕は思っているので。たとえば週刊連載をすると、どんなにスケジュール管理が苦手な人でも死にものぐるいで間に合わせることで、時間の密度が濃くなって成長するんです。それを多分、今回の参加者さんは経験している。すごくいいチャンスだなと、僕は思っています。

細野 僕も、林と同じことを考えています。締切があり、しかもその後に3位までですが、順位がつくので、ある種のプレッシャーもありますし、頑張ろうというモチベーションもあがる。だから、作家さんも成長しているなと思います。また編集者の側としても、タッグを組んでから3ヵ月間、集中して同じ作家さんを見続けるというのは、普段はなかなかできない経験なので。この仕組も番組とは別に、応用できそうだなと思いました。

【最終課題の行方に注目!】

——この記事が公開されるのは、最終話まで残り2週間となる第6話の配信前です。

林 連載候補作家のみなさんは、きっと受験直前みたいな気持ちでいるんじゃないでしょうか。「やっと終われる」という安堵感と、「合格したい!」「勝利を勝ちとりたい!」という気持ちが入り混じっているような。それに、作家さん同士の横のつながりも自然と生まれているようなので、楽しい卒業式みたいな空気もなっていそうだし……もちろん、残念ながら優勝できなかった人たちには「悔しい」という気持ちも生まれるだろうし。悔しいと楽しいが入り混じった空気になっているんじゃないかなと、想像しています。

——林さんご自身は、候補者のひとり藤田直樹さんとタッグを組んでいらっしゃいますが、現時点で優勝の自信は?

林 今はまだ最終課題を提出する前なので、本当にわからないですね。自分たち自身が面白いと思うものにたどり着きたいなとは思っていますが、そこから先は読む人の好みもありますし……お好きにどうぞくらいの感覚というか(笑)。これは藤田さんにも言っていますが、「優勝するために描いているわけじゃない、面白いものを描くためにやりましょう」と。僕はそういうスタンスです。だから目の前のネームで面白いものを描ききれたら、それでいいのかな、と。もちろん、番組的には「負けません!」とか「絶対に勝ちます!」と言うほうが面白いのは知っていますが(笑)、僕自身、そういうタイプでもないので。やれることをやれるだけやって、ダメだったらネクストトライもあるだろうし。上手くいっても、それはそれできっと他の苦労も生じるでしょうから。あまり考えずに、目の前のネームを全力でやりましょう、というだけですね。漫画家さんの人生は、そこから先のほうが長いですから。

細野 実際、毎回どの漫画家さんも課題をクリアするごとに成長・変化があるので、審査している自分もまったく先が読めないです。結局、誰が優勝してもおかしくない混戦状態だと思いますよ。

——では最後に、この企画をやってみて感じたことをお願いします。

林 そうだなぁ……実際にカメラに映っているよりも、編集者たちは作家さんのお役にたっていると思います。尺の関係で映せなかった、彼・彼女たちの作家さんに対する気遣いが大量にあります。これを見て漫画を描いてみようとか、集英社に自分の作品を持っていってみようと思った人には、多分お役に立てるメンバーが揃っていますのでよろしくお願いします。そして読者のみなさんには、面白いことを企んでいる作家や編集者がたくさんいるということを知っていただいて、じゃあ次はどんな美味しいものが出てくるんだと期待していただけたらと思います。作り手側も楽しんで作っているので、読者のみなさんにも楽しんで読んでいただけたらうれしいな、という感じですね。

細野 番組が配信されてから、社内でも「あれ見たよ」とか「面白いですね」と、声をかけられることが多いんです。確かに同じ社内でも編集部署以外だと、編集者がどういう風に作家と打ち合わせをしているのかは知らないし、編集者同士でも「あいつはあんな打ち合わせをしているんだな」とか、面白いようなので。そういう風に楽しめる番組として仕上がったのは、僕らとしてもよかったなと思います。その面白さを、多くの人が楽しんでくれるといいなと思っています。