アクセルスペースとJX通信社は8月3日、次世代の衛星報道サービスの提供に向けた実証実験を実施することを決定し、その第1弾として、静岡県熱海市で発生した豪雨の影響による大規模な土砂崩落の衛星写真撮影結果の配信を開始したことを発表した。

現在、日本国内には、自社で開発した小型商用衛星を複数打上げてコンステレーション運用を行い、地球観測や防災などの衛星サービスを開始している、もしくは2機目以降を近日中に打上げ予定の企業が複数出てきており、徐々に小型衛星による本格的な商用サービスを利用できるようになってきた。

アクセルスペースはその先陣を切っている1社で、次世代型地球観測コンステレーション「AxelGlobe(アクセルグローブ)」事業として、6月10日から5機体制でサービスを開始(初号機は2018年12月27日に打ち上げ)。5機体制により、2~3日に1回という高い頻度で地球上の指定した場所の定期的な撮影を行えるようになったという。

最終的には数十機による本格的な衛星コンステレーションを2022年に実現させるという計画で、そうなれば、1日に1回、地球上の全陸域の約半分を撮影できるようになる。なお、AxelGlobe衛星が有するカメラの分解能は2.5mとしている。

そんなアクセルスペースが今回パートナーとしたJX通信社は、SNSをはじめとする各種ビッグデータから、報道価値の高いリスク情報をAIを用いて人手では大人数で当たらなければ不可能な速度で検知し、報道機関や官公庁、インフラ企業などに配信する「FASTALERT(ファストアラート)」などのプロダクトを提供している報道ベンチャー。テレビ局に関しては、在京キー局全社とNHKがFASTALERTを採用しており、ニュース番組での災害などの報道の際に利用されるようになってきた「視聴者提供」動画の大半がFASTALERT経由だという。

両社は、ビッグデータにより「今起きていること」を明らかにし、より安全な社会を創るというミッションのもと、FASTALERTで検知した災害などの発生現場を迅速にAxelGlobe衛星で撮影し、FASTALERTに顧客に対して画像を提供するサービスを試行提供することで、報道や災害復旧などに役立てることを目指すとしている。

なお、今回の取り組みはすでに7月から開始しており、2022年1月までを予定している(早期終了の場合もあるという)。期間中、両社は不定期にAxelGlobe衛星で撮影を行い、FASTALERT契約顧客に無償提供するほか、JX通信社が運営する一般ユーザー向けの無料速報ニュースアプリ「NewsDigest」でも、概要を独自の速報として提供する計画だという。

現在、その第1弾として、静岡県熱海市で7月3日に発生した豪雨の影響による大規模な土砂崩落の前後の様子を撮影した速報衛星写真を公開中だという(報道機関には無償公開)。熱海における土砂崩落は、その災害の激甚さから、発災当日はメディアはもとより政府・自治体も現地調査が困難な状況が続いていたが、JX通信社はFASTALERTで即時検知し、メディア各社に提供した住民によるSNS動画が長期間にわたり、その被害状況を知る手がかりとして報道に活用されることとなったという。

アクセルスペースは今後、同様に大規模災害が発生した際に、AxelGlobeで速報写真を撮影し、JX通信社へ提供することにより、より迅速に被害の全容を明らかにすることに貢献するとしている。

  • アクセルスペース

    公開中の第1弾画像。(左)発災より3か月前の2021年4月9日に撮影された静岡県熱海市の衛星画像。赤枠で囲まれたエリアが、大規模な土砂崩落が発生した箇所だが、この時点ではもちろん土砂崩落はない。(右)発災から1週間強が経過した2021年7月12日に撮影された熱海市。赤枠の中央に茶色の筋が見え、土砂崩落が発生しているのが見て取れる (出所:アクセルスペースWebサイト)