退職して実感するのは、社会保険料の負担の重さです。定年退職後の公的医療保険の加入には4つの選択肢がありますが、有利な公的医療保険は、退職時の給与やその後の収入、健康状態などによって異なります。

◆退職後の健康保険、選択肢は4つ

1. 国民健康保険の被保険者

退職前の健康保険加入期間や給与水準、勤続年数、家族構成などによってどの方法がお得かは異なります。そのため、それぞれの加入条件や保険料等を比較する必要があります。4つの制度の仕組みについて、順に解説しましょう。

◆1. 前年の所得が算出基準「国民健康保険」

・40歳未満の人……(1)+(2)

なお、75歳(寝たきりの場合は65歳)以上は後期高齢者医療制度に加入して、個人単位で保険料を支払います。

(1)(2)(3)は、それぞれ地方自治体が定めた料率や金額を用いて、所得割=「前年の1~12月の所得×料率」、資産割=「固定資産税額×料率」、均等割=「世帯の加入者数」、平等割=「世帯単位」、の4項目について計算します。計算対象となる項目は、賦課方式によって次のように異なります。

・4方式:所得割、資産割、均等割、平等割

保険料には最高上限額があります。国が定める上限額(医療保険分63万円、後期高齢者支援金分19万円、介護保険分17万円)以下に収まるように地方自治体が決めています。

・4方式:T市26万8900円、I市23万8900円

*試算は各地方自治体のホームページの情報をもとに行った

国民健康保険には、所得が一定以下の世帯に対して保険料を7割・5割・2割軽減する制度があります。軽減されるのは均等割額と平等割額です。収入が年金(年金額:夫200万円、妻78万円)のみの世帯の令和3年度保険料を前出の6地方自治体で試算すると、5割軽減により7万~10万円程度になります。

◆2. 厳しい条件あり「家族の健康保険の被扶養者」

しかし、簡単に健康保険の被扶養者にはなれません。健康保険の被扶養者として認定されるには、次の加入条件を満たさなければならないのです。

・年収が130万円未満(対象者が60歳以上、またはおおむね障害厚生年金を受給する程度の障害者の場合は、180万円未満)

より厳しい加入条件を設定している健康保険もありますので、被扶養者になる予定の健康保険に「被扶養者の条件」について事前に確認しておきましょう。手続きは、退職の翌日から5日以内に、被保険者の勤務先で行ってもらいます。

◆3. 継続手続きは退職後20日以内!「任意継続被保険者」

任意継続被保険者になる条件は、以下のように比較的緩やかです。

・健康保険の被保険者期間が継続して2カ月以上あること

問題は負担する保険料です。会社員時代は、保険料負担は会社と本人の折半(労使折半)でしたが、任意継続被保険者は100%自己負担します。

それでは払えないかも、と不安を感じるかもしれませんが、ご安心ください。組合健保の保険料は、「退職時」と「健康保険組合の全被保険者の平均標準報酬月額」のどちらか低いほうの額に保険料率をかけて算定されます。

例えば、R健康保険組合の平均標準報酬月額は32万円、令和3年度の保険料は月額2万5600円(介護保険料含まず)です。前出のA氏は平均標準報酬月額28万円ですので、保険料は月額2万2400円になります。

協会けんぽ(=全国健康保険協会)の任継続被保険者の保険料は、都道府県によって異なります。協会けんぽの任継続被保険者の標準報酬月額の上限は30万円です。保険料は原則2年間同じで、前納する場合には割引があります。参考までに、令和3年4月以降の標準報酬月額28万円の人の保険料月額(介護保険料含まず)をいくつかご紹介します。

・北海道:2万9260円

※協会けんぽ 令和3年度保険料額表(令和3年4月分から)より抜粋

保険料は1年前納、半年前納、毎月払いから選択できる健康保険が多いようです。毎月納付の場合は、期日までに保険料を納付しなければ、資格を喪失します。復活させることはできませんので注意しましょう。

任意継続被保険者は、保険料が抑えめなだけでなく、他にもメリットが少なくありません。例えば、協会けんぽにはありませんが、「人間ドック受診無料」「常備薬を無料配布」「1カ月の医療費負担上限額を低額に設定」のように、健康保険組合が独自に行っているさまざまなサービスを受けることができます。こちらのメリットのほうが実は大きいのかもしれません。

◆4. 制度があればラッキー?「特例退職被保険者制度」

この制度を設けているのは、パナソニック、富士フイルムグループ、東芝、慶應義塾、東京ガス、日立、キリンビール、ホンダ、民間放送、全日本空輸などがあります。巷ではこの制度を利用できる退職者はラッキー、と言われています。

加入手続きは退職後3カ月以内に行います。年金証書が手元に届いていない人は、国民健康保険や任意継続被保険者などにいったん加入し、年金証書が届いた翌日から3カ月以内に手続きをします。いったん加入すると、次の3つの理由以外での脱退はできませんので、注意が必要です。

・本人が死亡

保険料は本人の年収や扶養者の有無に関係なく、現役の被保険者の収入によって決まり毎年見直されますので、徐々に上がる可能性があります。ただ、任意継続被保険者と同じように、健康保険組合が独自に行っているさまざまなサービス、例えば「1カ月の医療費負担上限額を低額に設定」「保養所の利用」など、を受けることができます。

では、いくつかの会社の毎月払いの保険料をご紹介します。

・パナソニック:2万5200円

ある企業のホームページに、「特例退職被保険者制度の保険料と任意継続被保険者制度の保険料とを比較し負担額の少ないほうの制度を選択すること。特例退職被保険者制度の加入要件を満たしている人は、任意継続被保険者制度2年満了後、期限内に手続きを行えば特例退職被保険者制度への加入可能。それぞれの案内等を自宅に送付する」とありました。

必ずしも「特例退職被保険者制度はお得」と言えないようです。

◆定年退職後の健康保険、保険料のシミュレーションで決める

前出のA氏の保険料は、下記のように国民健康保険に加入するのが最も安くなりました。

*国民健康保険は横須賀市ホームページの情報をもとに計算した

文:大沼 恵美子(マネーガイド)

文=大沼 恵美子(マネーガイド)