亀田誠治が語る松本隆トリビュートアルバム「全亀田を投入した」

日本の音楽の礎となったアーティストに毎月1組ずつスポットを当て、本人や当時の関係者から深く掘り下げた話を引き出していく。2021年7月は松本隆トリビュートアルバム特集。第2週は、7月14日リリースの松本隆トリビュートアルバム『風街に連れてって!』の収録曲後半をプロデューサーの亀田誠治とともに振り返る。

田家秀樹(以下、田家)こんばんは。FM COCOLO「J-POP LEGEND FORUM」案内人、田家秀樹です。今流れているのは、 GLIM SPANKYの「スローなブギにしてくれ(I want you)」。1981年に発売された南佳孝さんのシングルがオリジナルでした。7月14日発売になります、松本隆作詞活動50周年トリビュートアルバム『風街に連れてって!』からお聞きいただいております。今日の前テーマはこの曲です。

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今月2021年7月の特集は「松本隆トリビュートアルバム」。去年から今年にかけてが作詞家生活50周年ということで、7月14日にトリビュートアルバム『風街に連れてって!』が発売になります。トリビュートアルバムと銘打たれたアルバムは数ありますが、トリビュートアルバムとはなんなのか? という問いの答えのような傑作が誕生しました。今月は4週間に渡って、このアルバムをご紹介して、改めて作詞家・松本隆さんの功績について辿っていこうという1ヶ月です。先週と今週のゲストは、『風街に連れてって!』のプロデューサー・アレンジャーの亀田誠治さん。今週はアルバム後半の曲をについてお伺いしましょう。こんばんは。

亀田誠治(以下、亀田):こんばんは。よろしくお願いします。

田家:GLIM SPANKYも亀田さんが手掛けられてきたアーティストの中の1組。2007年結成、2014年デビュー。メンバーは1991年生まれの松尾レミさんと1990年生まれの亀本寛貴さん。驚いたんですが、彼らはデビュー前に亀田さんのウェブの亀田大学の亀田サークルというところにデモテープを送ってきていたと改めて知りました。

亀田:その時から僕は知っていて、これはすごいぞと思って子亀祭という僕が主催のライブイベントに彼らを呼んで。なので、デビュー前から僕はレミちゃんと亀ちゃんを知ってるんです。

田家:その当時から70年代に拘って音楽をやっている感じがありましたか?

亀田:はい。そのまんまですね。60、70年代のことしか知らんのかいというような。でも面白いのは、自分たちが表現するときは70年代の色に染めていくんですけど、意外と色々な音楽を聴いている面もあったりして。新しい世代ならではの、自分で自分の好きな音楽を追求していく、自分たちらしさが出せれば十分だという覚悟が今の20代のアーティストの強さですね

田家:彼らと一緒にはっぴいえんどの「はいからはくち」をやったことがあるんですよね?

亀田:大阪のフェスティバルホールかな? それこそFM COCOLOさん達と一緒にやった「森亀橋」というイベントがありまして、MANNISH BOYS(斉藤和義/中村達也)とGLIM SPANKYと一緒に「はいからはくち」をカバーして。「はいからはくち」をやりたいって言ったのは、レミちゃんなんですよ。

田家:うそ(笑)。

亀田:なんで知ってんの? っていう(笑)。「小さい時から家で聞いてましたし『はいからはくち』を斉藤和義さんとできたら最高に嬉しいです」という流れもあって。それで今回松本隆トリビュートアルバムに、リアルタイムじゃないにせよ、はっぴいえんどを原体験のように知っているGLIM SPANKYにぜひ参加してもらいたいなと思っていたんですよね。

田家:そのストーリーはほとんどどなたもご存知ないでしょうね。このアルバムを聴く人には、そのことも頭におきながら彼女達の演奏を聴いてほしいと思いました。松本隆トリビュートアルバム『風街に連れてって!』の7曲目、GLIM SPANKYで「スローなブギにしてくれ(I want you) 」。

田家:ボーカル・松尾レミ、ギター・亀本寛貴、ドラム・河村"カースケ"智康、ベース・亀田誠治、ピアノ・皆川真人の五人バンド。

亀田:めちゃくちゃシンプルな編成にしましたね。

田家:「スローなブギにしてくれ(I want you)」について、亀田さんの中の自分史としての記憶はおありですか。

亀田:僕が高校生か大学生の時に、片岡義男さん原作の映画で主題歌になりましたね。良い意味でのバブル期のエンタメ感みたいなものが満載で、その中で南佳孝さんがオールド・タイム・ブルースみたいな楽曲で古き良き時代を更に焼き直していったという記憶がありました。とはいえ、原曲だとドラムとかベースが打ち込みなんですよ。これが80sサウンドになっていったんですね。「スローなブギにしてくれ(I want you)」のリアルタイムな時代って、ドラムマシーンの打ち込みが出てきて、コンピューターも出てきて、YMOが出てきて。ある意味徹底的に古臭いものを排除していこうという時代だったと思うんですけど、僕はGLIM SPANKYというアーティストを通じて、もう一度音楽の温度感というものを今の人肌の温度感にフィットさせていく必要があるかなと思ったんです。彼らと一緒にこの曲をこのサウンドでやろうと。レミちゃんから(ビートルズの)「Oh!Darling」みたいにしたいってすぐに連絡が来て。でも、たぶん当時、南佳孝さんも"「Oh!Darling」を今っぽくやろうぜ"って言ってやったんだろうなと思ったんです。

田家:なるほどね。

亀田:そこから巡り巡って、今、GLIM SPANKYがやると、「Oh!Darling」に戻るんだというこの輪廻転生が僕的にめちゃくちゃツボで。これが音楽だ、行ったり来たり自由にできるんだ、と思ったんです。

田家:これが音楽だ、この曲もそう思いながら聴いてください。

田家:続いて、アルバム8曲目「キャンディ」。これを歌っているのは三浦大知さん。1977年、原田真二さんの作曲。三浦さんの生まれはこの曲の10年後、1987年ですね。これも改めて知ったことですが、亀田さんがプロデュースされたクインシー・ジョーンズの80歳記念のライブ・イン・ジャパンに三浦大知さんも出ているんですよね。その時も、亀田さんは手紙を書いて出演を依頼されたと伺いましたけど。

亀田:三浦大知さんは、ありとあらゆるエンターテインメントのツボというか、大事なものをちゃんと体に焼き付けてきて、それを自分の中に取り込んで三浦大知色として発信しているアーティストと僕は解釈していて。ずっと注目しているんです。でも、何よりも声が二枚目です。この二枚目の声と圧倒的なダンスパフォーマンスを待ち望んでいる人ってたくさんいるだろうなと思って、クインシー・ジョーンズの時もオファーしました。

田家:そういうことを手紙にお書きになったんですか?

亀田:要するにマイケル・ジャクソンですよ。クインシーといえばマイケルじゃないですか。日本のマイケルとして僕が推せるのは君しかいない、歌って踊れるということの本質、フォルダー5とジャクソン5の親和性だったり、とにかく世界に知ってもらいたいということで、クインシー・ジョーンズの前でマイケルメドレーという形で歌とダンスを三浦大知君が披露したんですよ。たしか「Smooth Criminal」、「Baby Be Mine」、「Billie Jean」をメドレーにして、ダンスもダンサー達と作ったものを披露したんですけど、クインシーが絶賛したんです。僕は何を伝えたかったかというと、三浦大知君のダンスと歌というものがマイケルへのトリビュート、ひいてはクインシーへの想いに繋がっていくんじゃないかなということを考えて頼んだんです。

田家:「キャンディ」は三浦さんの方から歌いたいと言ってきたんですか?

亀田:今回のトリビュートの中で、三浦大知君の歌声を使いたいという方向性があったんですよ。この話は曲の後にしましょうか。

田家:それではアルバム8曲目、三浦大知さんで「キャンディ」。

田家:こんなにジャジーで、メロディアスな曲なんだと再発見しましたね。

亀田:元の原田さんの「キャンディ」とは全く違うサウンドのアプローチで。今の洋楽の傾向として音数がすごく減ってきているんですよ。三浦大知君というと皆ダンスナンバーをイメージすると思うんですけど、ダンスナンバーではなくてグルーヴは歌で作ると。ドラムとかリズム楽器がない中で、三浦大知君の歌の魅力、そして「キャンディ」という曲の美しさを伝えたいと思いました。ここ2、3年くらいで、今までイケイケノリノリなダンスナンバーを歌っていたシンガー達が、薄いトラックの中でリズムや息遣いで音楽を表現していくことが増えてきていて、そういう歌の質感をこのアルバムにも入れたくて。それを表現できるのは三浦大知君しかいない。それは僕が彼の歌の実力を知っていたから。僕が今回大知君とコミュニケーションする中で「今回ドラム入ってないけどごめんね、でも大知の歌なら絶対イケるから」ということを何回か話して、「キャンディ」は仕上がっていった感じですね

田家:そういう意味では、この先も新たなスタイルでアーティストをプロデュースするというのは亀田さんの役割になりそうですね。

亀田:ありがとうございます。「今まではこうだったから」ということを変えていくのがこれから、特にコロナ禍のあとは大事だと思うんですよね。上手く言えないですけど、2匹目のどじょうを狙わないようなスタンスで僕は音楽に取り組んでいきたいと考えていますね。

田家:今作は、プロデュースワークとはどういうものか?という問いの一つのヒントや答えのようなアルバムにもなっております。8曲目は、三浦大知さんで「キャンディ」でした。

田家:続いてアルバムの9曲目「風の谷のナウシカ」。歌っているのはDaokoさん。1984年の安田成美さんの曲で、同名のアニメ映画の主題歌。作曲さんは細野晴臣さんでした。この曲を選んだのは?

亀田:これはDaokoさんに歌ってもらいたいというのが最初からありました。「風の谷のナウシカ」を収録したかったのは、J-POP史上こんなに美しい曲はないと思っていて。本当に僕が好きな曲なんです。そして多くのアーティストが口を揃えて名曲だと言う。細野さんの楽曲と松本先生の歌詞の、ベストマリアージュというか。これを今の時代に歌ってもらうなら誰かと思った時に、オリジナルの持つ浮遊感や既視感のようなものを表現できるDaokoさんがいいなと一発で思いました。何しろ僕はデビューの時からDaokoさんを知っているんです。シーンの中で常に自分のアイデンティティを追求している彼女を見ていると、やっぱり彼女の持っている思いを、アーティストがアーティストとしてどういうパフォーマンスで伝えていきたいかを考えているんだな、とひしひしと感じるところがあって。松本先生も当時そのような気概を持って活動されていたと思います。

田家:彼女もこの映画のファンだったそうですね。

亀田:このフレーズの時は映画のこのシーンを思い浮かべて、みたいなお手紙もいただいて。僕ももう一回ちゃんと見なきゃだめだと思ってDVDを買いました。

田家:今映画をご覧になってどうですか? 汚染物質と人間、感染症と人間みたいな置き換えもできますよね。

亀田:これが今のコロナ禍とシンクロしすぎちゃって。こんなシンクロが起きるんだと。それと僕が今回この楽曲を選んだのはまた別の理由なんですよ。曲の美しさで選んだだけなんですけど、このシンクロとDaokoさんというある意味透明感、巫女のような神聖さも彼女の歌に感じているので。なので、Daokoさんがコロナ禍でDaokoさんの声で歌ってくれたのが、本当に僕にとって意味のあることでしたね。Daokoさんじゃなきゃダメという感じでした。

田家:細野さんの原曲にはアンビエントっぽさもあったりしましたよね。それは意識されたんですか?

亀田:しましたね。彼女にどう聴こえるかというアップデートは必要だと思っていたのと、細野さんの原曲は弦楽の使い方のオーケストレーションが緻密にされていて。今のコロナ禍でこのサウンドを纏ってしまうと、ちょっと装飾過多になってしまうかなと僕は思って。もう少し隙間を作らないといけないかなと考えながらサウンドデザインしました。この曲はストリングスが生なんですけど、ヴィオラの菊地幹代さんがレコーディングの時に、僕のところにきて「お疲れ様でした」と言って泣いたんです。「この曲を自分の一生の中でレコーディングできる機会があるとは思いませんでした」と。それくらいいろいろな人の心の中に残っている曲なんだなと思って。自分がいつも呼んでいる身近な仲間が感動している作品は、お皿になったり電波になったりして届く中で、絶対この感動は色あせないだろうなと確信を持ちました。

田家:改めてお聴きいただきましょう。アルバム9曲目、Daokoさんで「風の谷のナウシカ」。

田家:先ほど仰った、この曲が細野さんと松本さんのコンビのベストソング的である理由をもう少し詳しく教えていただけますか?

亀田:細野さんのコードワークの美しさですよね。「ガラスの林檎」とかもそうですけど半音の進行とかをアカデミックに使っていく、この曲は細野さんの曲だってすぐわかるところも感じています。あとは、上手く言えないんですけど、細野さんの曲になると松本さんの歌詞がストーリーテラー的になるというか。もっと言うと乙女チックにもなるというか、細野さんの作るメロディとコードワークの美しさが、元々ある松本さんの言葉の品格や品性と掛け算になって届いてくるというか。こんなに美しい曲、僕も一生に一度書いてみたいですよ。でも、プロデュースとして関われるだけでも本当に幸せですけどね。

田家:今流れているのは、松本隆トリビュートアルバム『風街に連れてって!』から「ルビーの指環」。歌っているのは、横山剣さんです。1981年の寺尾聰さんの大ヒット曲で、作曲も寺尾さんでありました。この曲はイントロでおやっと思った人も多いでしょうね。

亀田:ハードルの高いカバーでして(笑)。当時のアレンジは井上鑑さんがなさっているんですけど、もはやイントロのフレーズが曲の一部になってるんですよ。これを省くわけにはいかないんですけど、そのままやると音楽の神様に「亀田君それいただきすぎじゃない? 反則!」って言われそうな気がして。僕がこの曲を紐解いていってダンディズムや洗練された都会性みたいなものを感じた中で、ダンディズムという文脈を活かすために今回のイントロを作りました。ヒントは、1977年のビリー・ジョエルの「ザ・ストレンジャー」というアルバムです。ニューヨークの持っている都会の洗練された感じ、そして摩天楼的なダンディーさみたいなものがこの曲と一緒になって歩んでくれるんじゃないかということで、ピアノだけのイントロ、ピアノだけの構想をつけて。なので、僕の中で今回の「ルビーの指環」は「ルビーの指環 meets ザ・ストレンジャー」という構築の仕方をして、両方の楽曲にリスペクトを込めてサウンドデザインしました。

田家:歌を横山剣さんにお願いしたというのも、思いがけない気がしますが。

亀田:ダンディズムというところで言えば、剣さんしかいないかなと。あと僕と剣さんがこれまで共演させていただいた流れもあって、剣さんの歌の旨味成分がどう響いてくるかというのもしっかり見えてました。この曲も迷わず一択で絶対やりたかったの。この曲がヒットしていた1981年の”街鳴り感”、10週連続1位とかそういう様々な伝説を打ち立てた、昭和史に残る名曲だなと思っていて。そのダンディズムを今伝えるには剣さんかなという気持ちでオファーしたら快諾いただきました。

田家:お聴きいただきましょう。アルバム10曲目「ルビーの指環」。

田家:原曲のイントロのフレーズはサビの後に出てきましたね(笑)。そういうトリビュートの時って、作り手が自分の色をどこまで出すか、そのバランスも考えないといけないわけでしょう。

亀田:そうですね。といいつつも、僕は常々アレンジっていうのは楽曲の一部だと思っていて。オリジナルで何が施されているかというのを特に大事にしたいんですよね。僕は50代になってからロサンゼルスで、現地のアーティストやプロデューサーと共作しているんです。それは武者修行も兼ねていてまだ数えるほどしか当選していないんですけど、それをやっていると、アレンジというよりもトラック自体が曲なんだという感覚で現地では曲が作られていて。その感覚にしっかり立ち返っていないとJ-POPと洋楽がどんどん乖離していくという危惧があります。そういう意味で、原曲からこんなに変わっちゃったということを喜ぶだけでなく、原曲のいいところをどれだけ伝えていくか、原曲が生まれた時代をどれだけ今の時代に翻訳して伝えていくかということを常に考えています。さっきの「キャンディ」もオケは変わってますけど、重要なフレーズは残してある。記憶の中にあるアレンジやメロディも楽曲の一部ということは常に意識してますね。

田家:なるほど。1981年がこういう風になりました。アルバムの10曲目、横山剣さんで「ルビーの指環 」でした。

田家:アルバム最後の曲、11曲目「風をあつめて」。作曲が細野晴臣さんで、1971年のはっぴいえんどの『風街ろまん』の中の曲。ブックレットではこれも一択だったと話されてました。

亀田:『風街ろまん』は大好きで、全曲が僕のDNAに入ってるんです。「風をあつめて」は秀逸なポップ感、時代を超えていく普遍性を持っている曲だと思っていて。この曲って星の数ほどカバーがあるので、そこに挑戦するのではなくて、この曲の良さをもう一度伝えたいという一心で。はっぴいえんどからは、この曲一択でした。

田家:『風街ろまん』がリリースされた時は、亀田さんはまだ小学生ですよね?

亀田:リアルタイムでは聞いてないですね。中高生、もっとあとかな? 僕は全米TOP40とか洋楽のヒットチャートを追いかけていたクチなので、はっぴいえんどにハマっていくのは成人してからですかね。

田家:それはどういうハマり方だったんですか?

亀田:それこそ松本隆さんですよ。松田聖子さんのこの曲の作詞をしている人、「ルビーの指環」の作詞をしている人って松本隆さんなの? YMOの細野さんってはっぴいえんどだったの? みたいな。鈴木茂さんは、六本木ピットインなどでやっていた村上”ポンタ”秀一さんとのセッションを観にいったりもしていたし、大滝さんは『A LONG VACATION』なども出されていましたし。その全員が集まってるのがはっぴいえんどかっていう。

田家:亀田さんは1964年生まれなわけですが、今回歌っているLittle Glee MonsterのMAYUさん、manakaさん、アサヒさんのうち、manakaさんは2000年生まれ。他の二人は1999年生まれということで、しかもmanakaさんは細野さんフリークだと。

亀田:一回ラジオでお話しした時にめちゃくちゃ詳しくて、2000年生まれって本当? っていうくらい、僕なんかより細野さんの作品とか思想に詳しくいらっしゃって面白いなと思って。今回は、僕はmanakaさんを中心にリトグリでやりたいという一択で決めてました。これも間に素晴らしい音楽があるからだと思うんですよね。音楽のバトンがしっかり渡されているんだなと感じましたね。

田家:はっぴいえんどはバンドで、彼女たちはボーカルグループで。その二組の重なり方がどの辺にあるのかというのも考えながらプロデュースされたんですか?

亀田:「風をあつめて」って1番から3番までスリーコーラスなんですよ。今回は、MAYUさん、manakaさん、アサヒさんの3人がメインを執るということで、3人にぴったりな楽曲としてのステージが提供できたというのは大きかったですね。

田家:それでは11曲目、Little Glee MonsterのMAYUさん、manakaさん、アサヒさんで「風をあつめて」。

田家:「起きぬけの路面電車」が見えたでしょうかね(笑)? でもこの方が言葉が立つ感じはありましたけど。

亀田:3人が素敵なハーモニーをつけてくれたのも良かったですよね。本当に風が吹いているような感じにしてくれて。トラックダウンの時もメンバーからリクエストがきて、後奏のコーラスは本当に風が吹いているようにしてくださいって言われて、これは音響的にリバーブやディレイを足すってことかなあとか言って楽しみながらやれました。

田家:「風の谷のナウシカ」のあとに「ルビーの指環」があって、曇りガラスの向こうは風の街なわけで、最後は風で終わっている流れですもんね。

亀田:松本先生の使う風という言葉が、本当に人間が生きていく中で大事なもの。愛とかそういういったことよりも、人の気持ちが優しくなれたり、淀んだ空気が澄みきっていったり、未来が見えてきたり、昔のことを感じるようにできたりとか。僕は松本先生の使う風という言葉が本当に好きで、風街という言葉にずっと拘られてるのも分かるんですよね。僕が勝手にそう感じてるんですけど。すみません(笑)。

田家:アルバムの1曲目は吉岡聖恵さんの「夏色のおもいで」。バンドの金字塔が『風街ろまん』で、「風をあつめて」はその中の曲で、作詞家としての最初のヒットが「夏色のおもいで」。1曲目と最後の曲が対になっていて、もう一回ここに帰ろうという流れにも思えますね。

亀田:はい。そういう意図でこの曲順になりました。何より風というキーワードは意識しましたね。タイトルには出てこないけど、「夏色のおもいで」の中でも風という言葉がすごく重要で。たかが50年、されど50年と言いますか、この色あせなさはすごくないですか?

田家:言葉ですからね。色々な時代に流行り言葉や死語もあったりしますが、時代によって左右されてくるにも関わらず、色あせず生き続けている。

亀田:よくはっぴいえんどは日本語ロックの創始者と言われますけど、そんなに簡単なことではないと僕は思っていて。常に言葉の美しさや響き、そして言葉が人に対してどういう気持ちでどういう感情を呼び起こさせるかということを非常にセンシティブに扱っていらっしゃるので、僕は松本先生は言葉の錬金術師だと思うんです。やたら人を煽るということもないし、事勿れ主義でもないですし。とにかく松本先生がすごいのは、言葉だけでそのアーティストカラーを引き出していく力があるということですね。

田家:それでは本日最後の曲です。アルバム1曲目、吉岡聖恵さんの「夏色のおもいで」。

田家:二週間ありがとうございました。亀田さんとこうやってきちんと一つの曲やアーティストとお話する機会はあまりないので、なるほどなあと思うことばかりでした。

亀田:僕もこのアルバムでこんなに丁寧にお話させていただいたのは初めてですね。トリビュートアルバムを作るというのはそこそこの覚悟が必要で、特に松本先生はまだご存命ですから(笑)。

田家:レコーディングにもいらっしゃるくらいですからね。

亀田:そういう方がいらっしゃる中でのトリビュートアルバムというのは、とてもハードルも高いしやり甲斐があるというか。でも僕はこのアルバムに今まで僕の人生で出会ってきたミュージシャン、曲、人、経験など全亀田を投入しました。一点の曇りもなく素晴らしい、自分の中でもいいものができたなという気持ちでいっぱいです。だからたくさんの方に聞いてもらいたいし、とにかく音楽の持っている、アーティストが伝えたいことや原曲に込められた松本さんの思いが色褪せていかないので。このアルバムを様々な形で聴いていただければ嬉しいなと思います。ありがとうございました。

田家:FM COCOLO「J-POP LEGEND FORUM」、松本隆トリビュートアルバムPart2

いやあ、勉強になりましたね。こういう番組や、音楽のことを書いたり喋ったりするのは、音源を聴いただけでは気がつかないことや違うものの見方、曲の発見を提供できればなと思いながらやってます。先週と今週の亀田さんの話は、今回のアルバムがどういうアルバムなのか、プロデューサーにとってどんな一枚なのか、ここまで詳しく丁寧に優しく、そして力を入れて語られるとは実は予想してなかったです。全亀田を投入したとまで仰っていましたからね。

こういうトリビュートアルバムの人選は、皆の目を引くようなものであれば、それなりに形にはなってしまうものだと思うんですね。でも今回のアルバムは、そういう奇をてらったところが全くなくて、原曲に依存するでもなく、過剰にいじるでもなく、その曲がどういう曲なのかリスペクトを込めながら、今の時代にどう蘇らせるか。すべての知識、技術、情熱を注ぎ込んだものなんだなということが伝わってきました。亀田さんがなぜこれほど色々な方に慕われて、プロデューサーとしてやっていらっしゃるのか、よく分かった気がしました。感心してばかりですけど、そういうアルバムなんです。所謂トリビュートアルバムと括ってはいけないほどの、質と物語と情熱がこもっているアルバムです。言葉が足りないなと思いながら喋っていますけど、いやあ、いいアルバムです。そして、素晴らしいプロデューサーでした。

田家秀樹

https://takehideki.exblog.jp

<リリース情報> 

発売日:2021年7月14日(水)

=収録曲=

トリビュートアルバム特設サイト:https://columbia.jp/matsumototakashi/