国際宇宙ステーション(ISS)に新しい太陽電池を設置する作業が、2021年6月16日から28日にかけて行われた。

従来の太陽電池が老朽化したためで、新型の太陽電池は半分の大きさで2倍の電力を生成できる。2人の宇宙飛行士の船外活動によって、最初の2基の設置が完了。今後2年の間に、さらに4基を設置する。

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    iROSAを設置するため船外活動するNASAのシェーン・キンブロー宇宙飛行士とESAのトマ・ペスケ宇宙飛行士 (C) NASA

ISSの太陽電池アレイ

国際宇宙ステーション(ISS)は、高度約400kmの地球低軌道を回る宇宙ステーションで、米国やロシア、欧州、日本、カナダなどの協力で運用されている。建設は1998年11月に始まり、2011年をもってひととおり完成。これまでに19か国から244人が訪れ、108の国と地域の研究者による約3000件の研究が行われてきた。

現在も日本の星出彰彦宇宙飛行士をコマンダー(船長)とし、7人の宇宙飛行士が滞在し、運用や各種実験などが行われている。

このISSで使われている生命維持システムや実験装置などを動かすための電力は、すべて太陽電池でまかなわれている。ステーションの両端にあたる部分に、2枚の展開式の太陽電池をペアにして1組にしたアレイが計4組設置されており、最初の1組目は2000年12月に打ち上げられ、2006年9月、2007年6月、そして2009年3月にも打ち上げられて設置、現在のかたちとなった。

しかし、これらの太陽電池は15年の耐用年数を想定して造られていることから、最初の1組目はすでに超過。2組目も今年中に超過する。現時点で発電量は十分ではあるものの、徐々に性能の劣化が見られ始めている。

米国などは現在、ISSを2030年ごろまで運用することを検討しており、また将来的に、有人月探査計画「アルテミス」のためのさまざまな技術実証や、民間に運用を移管して商業化する計画もある。そこで、新しい太陽電池を設置し、発電力を増強することが決定された。

iROSA (ISS Roll-Out Solar Array)

新しい太陽電池アレイは「iROSA (ISS Roll-Out Solar Array)」と呼ばれ、現在のアレイ(長さ約34.1m、幅約12m)から、長さ19m、幅6mと、約半分のサイズにまで小型化。一方で効率が上がったことで、発電能力は2倍に向上している。

名前の「Roll-Out」にも現れているように、打ち上げ時にはロール状に巻き取られてコンパクトになっており、設置後はモーターを使わずに自然に展開することができるようになっている。この技術は2017年6月にISSで実証試験が行われた。

また、現在の太陽電池の上にかぶせるように設置することで、太陽の追尾機構や配電システムなどを流用する。

製造は、大手航空宇宙メーカーのボーイングの子会社スペクトラボ(Spectrolab)が担当。ディプロイアブル・スペース・システムズ(Deployable Space Systems)というメーカーがキャニスター、フレーム、ブランケットを供給している。同じ設計の太陽電池アレイは、月周回有人拠点「ゲートウェイ」にも使われる予定となっている。

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    ディプロイアブル・スペース・システムズで製造中の新しい太陽電池アレイ (C) Deployable Space Systems/NASA

最初の2基のアレイは、今年6月4日に、スペースXの「カーゴ・ドラゴン」補給船に搭載されて打ち上げられ、ISSに到着。10日には、ISSのロボット・アームを使い、補給船のトランク部から取り出された。

そして6月16日、20日、25日と3回に分けて、NASAのシェーン・キンブロー宇宙飛行士と欧州宇宙機関(ESA)のトマ・ペスケ宇宙飛行士の2人による船外活動によって、設置作業が行われた。

設置後、それぞれの太陽電池アレイは約10分かけて無事に展開。どちらのアレイも順調に発電しているという。

なお、これによりキンブロー氏にとっては9回目、ペスケ氏にとっては5回目の船外活動となり、そして2人が一緒に船外活動を行ったのは5回目となった。また、キンブロー氏の通算での船外活動時間は計59時間28分、ペスケ氏は計33時間ちょうどとなった。

今後2年間で、さらに4基のアレイが打ち上げられ、設置される予定となっている。また、既存の太陽電池も、劣化したり、iROSAの影になったりしつつも、引き続き発電に使われるため、最終的には新旧の太陽電池あわせて215kW、現在の120%から130%の電力を生成できるようになる。

ISSではこれまでにも、通信システムやバッテリー、科学機器ラックなど、システムのほとんどが改修、交換されている。NASAやボーイングでは、こうした改修や太陽電池の増設により「ISSは2030年以降も安全に運用し続けることができるだろう」としている。

その一方で、最初期に打ち上げられたロシア製のモジュールで空気漏れがたびたび発生するなど、個々のシステムや部品の改修、取り替えだけでは対処しきれないような問題も起きつつある。また、ロシアが2024年でISS計画から離脱するという噂もあり、ISSの今後がどうなるかはまだ不透明である。

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    新しい太陽電池アレイを設置したISSの想像図。既存のアレイの上に覆いかぶせるように設置する (C) Boeing

参考文献

Spacewalkers Complete Second Roll Out Solar Array Installation - Space Station
MediaRoom - News Releases/Statements
New Solar Arrays to Power NASA’s International Space Station Research | NASA