睡眠中の子供の歯ぎしりが、睡眠周期の特定の時期に集中して発生することが実験で分かり、脳の活動を受けて起きることを突き止めた、と大阪大学の研究グループが発表した。歯やあごに悪影響を与える歯ぎしりの仕組みの詳しい解明や、診断法の開発などにつながると期待される。

睡眠中の歯ぎしりは、あごの運動に異常があり、上下の歯を擦り合わせたり噛みしめたりする疾患。6歳頃がピークで30%近くに起こり、9~12歳で20%、20代で10%ほどと加齢とともに減少する。症状の程度により歯が擦り減ったり、あごが痛んだりする。かつては噛み合わせが原因と信じられたが、大脳や自律神経系の特有の働きが関わることが大人では分かっている。

ただ詳しい仕組みは不明で診断法や治療法もなく、対症療法や経過観察しかできていない。特に多発している子供では、夜間の実験への協力を求めにくいことや実施体制などの事情で、研究が遅れていた。そこで研究グループは体制を整え、睡眠に明らかな病気がなく、発達に問題のない6~15歳の44人の協力を得て、睡眠中の脳や心臓、呼吸、あごの筋肉の活動を記録した。

その結果、27.3%にあたる15人が歯ぎしりをした。この15人と、歯ぎしりしない29人とで、脳波や心拍の変動、寝返りの動きを詳しく調べた。するとまず、睡眠のうち脳の働きが活発な「レム睡眠」と、脳が休息しているとされる「ノンレム睡眠」の時間分布、寝返り時の脳の活性化などには差がなかった。

一方、歯ぎしりする子ではノンレム睡眠の特定の段階で、歯ぎしりが特に多発した。睡眠中は4段階のノンレム睡眠を経てレム睡眠に移るが、このうちレム睡眠の前の浅いノンレム睡眠の段階で、最も多かった。ノンレム睡眠~レム睡眠の周期を1晩に4~5回繰り返すが、それぞれでこの現象が起きていた。

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    実験結果。レム睡眠の前の浅いノンレム睡眠の段階で、歯ぎしりがピークに達していた(大阪大学提供)

歯ぎしりをする子では脳波のうち、寝返りの数や脳の覚醒の指標となる「ベータ波」の値が大きく、また約90%の歯ぎしりが寝返りや短い覚醒とともに起きていた。ベータ波が歯ぎしりの直接の引き金かは分からないが、ベータ波があると脳の覚醒が起こりやすくなっているという。

こうした結果から、健康な子供の歯ぎしりは、睡眠の周期に伴う脳の活動の変化に対し、あごの神経機構が過剰に反応して起こることを突き止めた。大人でも過去の研究で、今回の実験と似た結果が出たという。

今回の成果は診断や治療に向けた研究の進展や、さらに詳しい仕組み、さまざまなタイプの歯ぎしりの仕組みの解明につながると期待される。研究グループの大阪大学大学院歯学研究科の加藤隆史教授(口腔生理学)は「今後はベータ波と歯ぎしりの関係性や、あごで歯ぎしりのスイッチが入る仕組みを解明したい。今回は歯ぎしりの割合のピークである6歳からを対象としたが、4~5歳児の協力もいただき解明を進めたい。親や子供たちの協力に大変感謝している」と述べている。

成果は米国の睡眠研究の専門誌「スリープ」に6月30日に掲載され、大阪大学が7月5日に発表した。研究は科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」、日本学術振興会科学研究費補助金研究の一環で行われた。

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