「モノになるか分からなくてもニーズがあればやる!」透析装置トップ・日機装のものづくり進化論

工業用特殊ポンプから始まり、今では透析装置や航空機のエンジン部品でトップを走る日機装。コロナ禍で医療機関から様々なニーズが出てくる中、同社は感染対策の声に応える深紫外線LEDの実用化に漕ぎ出す。社長の甲斐敏彦氏は「ニーズがあればやるのが当社のものづくりの姿勢」と強調する。ポンプ、医療機器、航空機部品へと事業を多角化してきた日機装。新たに感染対策に挑む戦略とは?

深紫外線LEDを感染対策で活用

「コロナ以前より医療関係者から感染症に対する院内感染予防の相談を受けていた。その中で菌やウイルスを増殖できなくする深紫外線に着目し、研究を始めてきた」──。こう語るのは日機装社長の甲斐敏彦氏だ。

 日機装といえば、腎臓に代わる「人工腎臓」や「人工透析装置」といった医療器具を手がけ、透析装置では5割以上のシェアを誇る。もともと1960年代初頭に血液透析が始まったことを受けて、米国の製品を日本に持ち込む輸入販売を手掛けてきたが、69年に国産第1号の人工腎臓装置を自社開発。その後、シェアを拡げて「透析医療のパイオニア」(取締役メディカル事業本部長の木下良彦氏)になるまでになった。

 そんな医療機器メーカーの同社がヘルスケア事業に参入。「治療に至る前の未病・予防の領域に対応した感染対策のソリューションを提供する」(同)。その具体策の一つとして、同社は深紫外線LEDを活用する。この「深紫外線」とは波長の短い紫外線のことで、照射すると空気中の細菌やウイルスの遺伝子を破壊するという特徴を持つ。

 この深紫外線をLEDという照明に変換させた空気清浄機「エアロピュア」を開発し、ドラッグストアのウエルシア薬局とスギ薬局で販売を始めた。甲斐氏は「家電ではなく、医療用製品として広めるため、より多くの一般の方々の目に触れるドラッグストアでの販売を始めた」と語る。6月には中国で販売を始め、10月には北米や欧州でも販売を広げていく考えだ。

 製品化までには段階を経てきた。まず深紫外線で水を殺菌する製品を開発し、医療機関はもちろん、食品工場や養殖場などに導入。その後、家庭のウォーターサーバーや給湯器などと合わせて使われている。そしてその次に取り組んだものが深紫外線による空気の殺菌だった。

 水と違って空気は拡散するという難点があったが、「空気を装置内に取り込み、光触媒で菌やウイルスを留めて深紫外線を照射し、除菌するというアイデアの転換を図った」と木下氏。

 この特許済みの独自技術の用途は広がりそうだ。例えば、戸建て住宅の空調だ。同社は三菱地所ホームと提携し、空調に深紫外線LEDを搭載した住宅を発売。「予定数を上回る受注を得ている」とヘルスケア事業推進部部長の中摩貴浩氏は語る。オフィスビルや病院などでの導入も見据えて、前田建設工業との協業も始めている。

 他にも医療機関で使う紙の診察券や問診票などを殺菌する装置をはじめ、鉄道・バス・飛行機といった公共交通機関の座席の背面から送風して空気のバリアをつくるエアバリアシート、学校やビル、病院の床を除菌する自走式のロボットなど様々なケースでの活用が予定される。

 実は、日機装がこの深紫外線LEDに着目したきっかけはコロナではなかった。それ以前の06年、深紫外線LEDの存在を知り、同社の血液透析事業において「血液の分析に使えるのではないかと感じた」ことが契機。

 その頃から水の殺菌などの観点で「日機装で何とかできないか? 」という医療機関からの依頼を受けていたという。そこで同社がノーベル物理学賞の受賞者・天野浩氏に共同研究を打診してスタート。照明の光の出力や人体への影響などのハードルをクリアし、15年に世界で初の量産化に成功。そして今回のコロナの感染拡大が広がったことを受けて感染対策という切り口での商品化へとつながった。

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航空機用の「カスケード」で世界シェアトップになった背景

 甲斐氏は「当社には他が手掛けにくい領域に挑む風土・歴史がある。モノになるかどうか分からなくても、お客様からのニーズがあればやる」と日機装が持つものづくりの思想を語る。

 事例で言えば、同社が世界で9割以上のシェアを占める「カスケード」がある。航空機のジェットエンジンに使う逆噴射装置用の補助ブレーキの役割を担うものだ。カスケードはもともと金属製だったが、これを世界で先駆けて炭素繊維での製品化に成功したのが日機装だった。

 米ボーイングの中型機「ボーイング787」が登場して以降、急速に炭素繊維の需要が伸び、炭素繊維を使ったカスケードを求める航空機メーカーなどの声が高まったことが背景にある。

 前出の透析装置も1953年のポンプ製造から培ってきた「(流体の静止・運動状態などを研究する)流体力学を応用させた技術になる」(同)。技術を持っていた日機装に東京大学医学部の教授から人工心臓の試作を依頼されたことが始まりだ。

 そして、透析装置を含む医療部門は今では同社の稼ぎ頭になっている。2021年12月期の売上高は1840億円、営業利益105億円と増収増益を見込んでおり、医療部門の売上高は約845億円と前年同期比26・2%増。営業利益は107億円と工業部門の落ち込みを補う。

 日機装はものづくりの舞台をポンプ、医療機器、航空機部品へと多角化し、新たに感染対策という分野に踏み込む。甲斐氏は深紫外線LEDの安定供給体制に課題があるという認識を示しつつも、「万が一が許されない商品が多いため、これまで培ってきた安全・安心を強みにしていく」と強調する。

 コロナで感染対策が新たなキーワードとなる中、持てる資産の活用で次なる成長を図るという日機装のものづくりビジネスと言える。

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