河村隆一が語る、音楽と機械式時計に共通する哲学

LUNA SEA、そしてソロアーティストとして走り続けている河村隆一。ここ最近でも、LUNA SEAとして東京ガーデンシアター3DAYSを完遂し、一方ソロでは1日に4ステージをおこなった”マラソンライブ”と、ヴォーカリストとして進化することを止めない河村。そんな彼の趣味の一つが、アナログ機械式時計である。河村の音楽と機械式時計の重なり合う哲学とは?

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―RSJには久しぶりの登場なので、まずは時系列でライブのお話を聞かせてください。去る3月27日、28日に開催された「LUNA SEA -RELOAD- さいたまスーパーアリーナ」はLUNA SEAとしては久しぶりの有観客ライブだったと思います。

久しぶりでしたね。確か13カ月ぶりだったと思います。

―改めて2日間を振り返って、いかがでしたか? 初日は、久しぶりのライブで手探りな感じもあったかと思います。

正直あったと思います。もちろん熱量が落ちないように、一生懸命メンバーみんなでやれることをやろうとはしているけど、やっぱり空回りしてた部分もあったかもしれないですし。ただ、それが逆に言うとライブの良さでもありますからね。

―声の調子はいかがでしたか?

初日で声が枯れてしまったんです。リハまでは絶好調だったのに、何でこんなに早く枯れるんだろう?と思って。「よっぽど叫んでいるのかな……」とか思いながら、2日目も叫び続けていましたね(笑)。

―逆にロック魂に火が付いた?

そうですね。良くも悪くも。

―「ノーマイク・ノースピーカーズコンサート」や、一夜で70曲を歌うライブを行ってきた隆一さんが1回のライブで声が枯れたのはショックだったのではないですか?

そうですね。コロナでライブから少し遠ざかってしまっていたので。それが全ての原因ではないにせよ、少し不安になりましたね。

―2日目、バンドとしてのグルーヴがすごくて心揺さぶられました。「LUNA SEA -RELOAD- さいたまスーパーアリーナ」の2日間で奇跡だったなと思う瞬間はありましたか?

あのライブは、感染防止対策のため、途中で換気のための休憩時間をもうけて二幕制にしたんです。休憩明け、第二幕の1曲目は『LOVELESS』だったんですけど、リリースした当時のことを思い出しながら歌っていて、過去を生きながら未来を見ているような、すごく不思議な感覚でした。

―そういう経験は今までには?

ないかもしれないですね。


結成33年目を迎えたLUNA SEA

―LUNA SEAの話を続けると、5月28日、29日、30日で「LUNA SEA 30th Anniversary CROSS THE UNIVERSE -THE DAWN-東京ガーデンシアター」が開催されましたが、3日間の公演を振り返っていかがでしたか?

初めての会場でしたが、3日間ライブをやってHOMEのように感じました。これからのこの会場で新しい夢を見れそうです。

―LUNA SEAは89年5月29日結成なので、結成33年目に突入したわけですが、改めてLUNA SEAへの想いとは?

一言で「奇跡のバンド」。

―LUNA SEAは延期になっていた全国ツアー「LUNA SEA 30th Anniversary Tour 2020 -CROSS THE UNIVERSE-」がようやく再開されますが、ツアーへの想いを聞かせてください。

何よりもファンのみんながずっと待ってくれいるツアーなので早く約束を果たしたい思いです。今まで以上に盛り上がること必須のライブにします。

―ソロでの活動はほぼノンストップで続いていますが、5月20日の隆一さんの51回目のバースデーには「Birthday Special Talk and Live 2021」が開催されました。51歳になって、改めて年齢を意識することはありますか?

自分の中では歳をとっている感じが全くないんですよ(笑)。若い頃みたいに、3日間徹夜しようとは思わないですし、疲れないように早く寝たりはしています。けど、速く走れなくなるとか、重いものを運べなくなるということもないですし、声帯が衰えてキーが低くなることもないので。どこで自分のリミッターを感じ始めるんだろう?と思うほどです。



―隆一さんの中で、まだ天井は見えていない?

そうですね。もちろん若い頃とは違うだろうけど、例えばミック・ジャガーを見ても、ステージはエネルギッシュじゃないですか。70歳を過ぎてもエネルギッシュな人と、完全に”おじいちゃんになったよね”っていう人と、歳のとり方ってわかれると思うんです。だから、ポジティブにエイジングしていくのが大事なんだろうなと今は思っています。

―「Birthday Special Talk and Live 2021」でも素晴らしいライブを披露していましたが、昼の部、夜の部の2回公演で、夜の部の休憩を挟んだ二幕で突然声が枯れてしまいましたが……。

自分でもびっくりしました。途中から声が枯れ出したので、対応に困りましたが、自分のキャリアの全てを出して歌いました。なんとか乗り切れたかと思います。

―が、そこからが凄かったです。完全にソウルシンガーでした!

ありがとうございます。

―そして、最後曲の前に長めのメンバー紹介を挟み、声が復活! 結果、奇跡の歌声で最後の曲を歌いました。あの長めのメンバー紹介で、喉を微調整したのですか?

特に微調整などはしなかったのですが、ラストの「Once again」では声が復活して自分でも驚きました。30年以上歌っていますが、まだまだ足りないことだらけで日々勉強です。


時計の魅力を教えてくれた大物歌手とは?

―改めて、ヴォーカリスト・河村隆一の凄さを実感しました。ところで、歳=時間で思い出しましたが、隆一さんは大の時計好きなんですよね。時計にハマったきっかけを教えてください。

西城秀樹さんにブライトリングの1940年代ぐらいのヴィンテージの時計をいただいたのがきっかけです。その時に「お前もある程度の年齢なんだから、大人の男性として良い時計を一本買わなきゃダメだよ」と言われて、時計を物色し始めました(笑)。当然一本で終わらず、たくさん欲しくなっていろんな時計を集めていって……それが27、28歳ぐらいですね。

―時計好きじゃない人からすると、時計は1本あれば十分だし、今だったらスマホを持っていれば時間はわかりますよね。時計の面白さはどのあたりにあるんですか?

時計だけじゃなくお酒もですが、自分の音楽に対するフィロソフィーと重なる部分があって好きなんです。

―哲学が重なる、とは?

人が情熱と、時間をどれだけ費やしたかが、しっかりとプライスになっていくのが、実は時計の世界なんです。音楽も同じで、例えばレコーディングの時、PCで作った音にカラオケを歌うように歌を入れれば、もしかしたらアルバム1枚数、十万円の製作費で作れるかもしれない。でも、各楽器の名プレイヤーを呼んで、エンジニアを立てると、当然、制作費は数百万円になっていきますよね。スタジオも大きな所を借れば、すぐに数千万円にもなるわけです。ただし、CDの場合は、売値が3000円前後という限られた金額です。ですが、時計はブランディングができて、ファンがたくさんついていれば、その時計を作る本数は極端に減りますが、”製作に時間も手間もかかってるから500万円です””これは300万円です”ということが成り立つんですよ。

―なるほど。

生産性は悪くても、作ったものに対してきちんと対価を払う。音楽で言うと、生の音で、アナログで録っている=価値になるということが、時計の世界では音楽の世界よりも先に起こっているんです。僕はどちらかと言うと、そういうことを音楽でもやっていきたいと思っているので、すごく共感したんです。時計のベルト一つをとっても、ステッチを人間が縫うのと機械で縫うのとだと、もちろん機械のほうが安いですよね。しかも人間が縫うと不揃いなものもでてくる。人間がやることにはいちいちお金がかかっていきますが、そこにちゃんとした対価を払うのが実は機械式時計の世界なんです。

―確かにそういう音作りに対価を払うシステムは、音楽業界にはないですね。

ヨーロッパの機械時計工場を3軒ぐらい見にいったんですよ。ドイツやスイスなど、いろいろなところへ行ったんですけど、どこの工場でも「この時計は一人の時計師が4カ月かかって完成させるので、年に12本しか生産できない」というような話を聞いたんです。そんな時計が世の中にたくさんあるんですよ。一方で、もう少し安価……と言っても価格は高いですが、例えば「この時計はラインで作っているので1日に100本生産できます」という工場も見てきました。それが良い悪いではなくて、生産性が悪くても職人が一本一本、本当に真心を込めて造っているものに僕は惹かれるんです。音楽だと、例えば「1968年のストラトキャスターじゃないと、この音は出ないんだよな」とか言ってほくそ笑んでるところに、マーケットのバリューが付くかっていうと、ちょっと微妙なところですよね(苦笑)。でも、僕は音楽家だから、本当に良いと思って音を追求するところに命もお金もかけたい。それを時計の世界の人たちはやっている。そこが一番時計に惹かれたところかもしれないですね。


サポーターやファンが決める「価値」の基準

―音にはとことんこだわり、ヴィンテージ楽器・機材を愛用している隆一さんの哲学に重なりますね。

そうですね。村上開新堂っていう有名なクッキー屋さんをご存じですか? もともとこのお店は、宮内庁から「日本で最初のクッキー屋さんをやりなさい」というお題を受けてできたらしいんです。老舗中の老舗で、僕は知り合いに紹介してもらってそこの会員になったんです。で、早速クッキーを注文したら、「来年の10月までいっぱいです」と言われたんです。今年の春に注文して、来年の10月ですよ? 「来年10月までもう完売しております」と言うんです。この話で、何が言いたいかと言うと、CDって売れたら売れただけ嬉しいから、たくさん生産してたくさん売ろうとするじゃないですか。そうじゃなく、限られた数だけで「ごめんなさい。1日に10枚しかできないんです」というようなことがあってもいいと僕は思うんです。

―はい。

ライブだとわかりやすいですよね。100人しか入れられないこの会場の音が気に入ってライヴをやる。そこで、「ごめんなさい。100人しか入れないんですよ」ということは成り立っています。でも、長蛇の列ができるし、キャパシティが小さいからといって、音を支えるPAさんのギャランティも下げたくないから、「5000円のチケットを、7000円にします」ということをやっているような感じなんです。そういうふうにブランディングができたら、ただ稼げばいいっていうことじゃなくて、熱の込もった良いものを、限られた数、それを本当に愛してくれる人に売ることがもし音楽業界でも可能になったら、これは幸せだろうなって思うんです。村上開進堂さんや機械式時計の有名な会社の姿を見ていると、既にそれが実現しています。もしかしたら、オペラ歌手とかもそうかもしれないですね。ポール・マッカートニーの武道館ライヴも同じことが言えるのかもしれないし。

―ポール・マッカートニーなら、東京ドームでやっても埋まりますからね。

例えば、音にこだわってブルーノートでポール・マッカートニーがやるとしたら、チケット代が100万円でも行きたい人はいると思うんです。あるいはローリング・ストーンズがブルーノートで、アンプラグド・ライヴをやるなら、僕はチケットが100万円でも買うと思います。もちろん、高いから良いという話をしたいのではなくて、ものの価値に対しての価格があって、ちゃんとサポーターやファンが支えているということが大事だと思うんです。

―その発想は、ポストコロナの音楽のあり方の新しい提案のヒントになるかもしれないですよね。日本はかつて人口が増えていたし、CDは飛ぶように売れていました。でも、今は人口が減ってきて、大量生産、大量消費の時代ではなくなっています。今の時代で言えば、信頼関係のある人たちに対してしっかり良いものを届けていく。それなりの価格設定をして、クオリティをキープし続ける方がベターなのかもしれませんね。

その話の流れでいうと、初期のLUNA SEAでレコードのプレスをやってくださっていたスタッフの方々が、一度は引退していたんですが、また現場に戻ってきているんです。ご存じの通り、今またアナログが復活していますよね。だから、あなただけのためにカッティングしたレコードを届ける、という発想もありえますよね。それに合わせてステレオもセットしましょう、という発想があっても面白いですし。何百万もするようなステレオじゃなくても、10万円、20万円くらいで本当に良い音が聴けるコンポーネントを組んで、”この環境でぜひ僕の音楽を聴いてください”というようなことも成立するかもしれない。

―デジタル化って、ある意味、同じ情報をどれだけみんなで共有できるか、みたいなところがありますけど、「あなただけの」というアナログな世界に価値があるのかもしれない。そこにみんなも気づきだしている気もしますし、そういう価値観を広めていくアンバサダー的な役割に、隆一さんはピッタリかもしれません。

そういう嬉しい役目は是非ともやりたいですね。僕は、僕が歴代聴いてきた音の中にある良い音のギター、良い音のベース、良い音のドラム……、そしてそれを録ってきたアンプやマイクや空間など、いろいろなものにこだわって自分でも制作してきました。でも、その音を再生するところまでは手が届いていなかったので、今度は再生する側のこともいろいろやるとしたら、もっともっと広がるし面白いでしょうね。


価値観、哲学を時計でも音楽でも伝えたい

―楽しみです。そして、そうした哲学を持つ隆一さんのオリジナルモデルの時計がヨーロッパの時計メーカー2社から発売されますね。

はい。音楽をモチーフにした所がいくつもあるデザインなんです。

―それと、「ボスフォラス・レザー」とのコラボしたオリジナルのウォッチケースとウォッチロールも販売になります。これは隆一さん書き下ろしオリジナル曲のオルゴールが付いてくるんですよね。

はい。ボスフォラス・レザーのウォッチケースかウォッチロールを買っていただいた方から抽選で1名の方に、僕がこのために書きおろした曲「Verse oClock」の本物のオルゴールを作ってプレゼントするんですよ。本物のオルゴールは1つだけですが、それ以外の方にはその曲のダウンロードコードが付きますので、「Verse oClock」はお聴き頂けます。将来的には、この曲をバンドバージョンとかにして、みんなにも聴いてもらえるようにするかもしれません。

―それも楽しみです。隆一さんこだわりの音楽と、職人が作る機械時計のコラボレーションは、哲学のクロスオーバーでもあるので素敵だなぁと思います。

当然、音楽も新しいものが生まれなければいけないんですけど、音楽の歴史という新陳代謝の中で残されていったものに惹かれて、ヴィンテージの楽器や機材を使っているので、それでいうと機械式時計って恐竜みたいな存在ですからね(笑)。iPhoneでもGalaxyでも時間なんてわかるのに、あえて機械式時計を腕につけることで、自分の人生の存在意義を高めているわけですから。そういう価値観、哲学を時計でも音楽でも伝えたいという想いはありますね。

―今だからこそ大切な価値観、哲学だと思います。

別にボーカロイドが悪いというわけではないけれど、ボーカロイドだったら完璧な音程も作れますし、それはそれでいいと思うんです。けど、人間が歌えば音程もテンポも絶対にジャストには歌えない。そこに何かの揺らぎが生まれて、それがまた音楽や芸術の美しさにもなる。機械式時計もそういうことだと思います。

―隆一さんの音楽は、今後そういう”揺らぎ”を大切にしていくものにどんどんなっていくのでしょうか?

そうですね。ただ、僕は最先端のこともやっていきたいと思っているし、たぶんLUNA SEAのメンバーもそういうことにはビビットに反応しながら、上手く自分たちの音楽に取り込んでいっていると思うんです。それは演出にせよ、音色にせよ、それからジャンル的なものにせよ。一方で、LUNA SEAは音をすごく大事にしているバンドなので、「アナログで録って、アナログでミックスしちゃう?」みたいな先祖還りも全然ありだし、いろんなチャレンジがあると思うんです。だから、素直にいろいろとやっていきたいと思っているので、ここ先も楽しい音楽の旅になるんじゃないかと思っています。

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