公的年金は、他の社会保険と同様リスクに備える保険制度です。障害年金や遺族年金もありますが、特に老齢年金は終身年金であり一生涯支給されるので、本来ならばおめでたい「長生き」が、お金が足りなくなるような「リスク」にならないように備える保険といえます。

公的年金は、他の社会保険と同様リスクに備える保険制度です。障害年金や遺族年金もありますが、特に老齢年金は終身年金であり一生涯支給されるので、本来ならばおめでたい「長生き」が、お金が足りなくなるような「リスク」にならないように備える保険といえます。

平均寿命が延びる中、健康に気を配りながら、少しでも長い期間働き、その分公的年金は遅く受け取り始めることで、給付に厚みを持たせるという方法があります。

◆繰下げ制度とは? 年金の受け取り開始時期を選択して年金を増やすことができる
66歳以降に1カ月単位で受け取る時期を遅らせると年金額が増える
公的年金の受給開始時期は原則65歳からですが、本人の選択により、66歳以降に1カ月単位で受け取る時期を遅らせると年金額が増えます。この制度が「繰下げ」です。自分自身で働く期間などに合わせて年金の受け取り開始時期を選択し年金を増やすことができるのです。

◇(1)繰下げによる増額率
法律上、老齢年金の受給権が発生してから1年間は繰下げの申し出はできません。したがって、繰下げの申出は66歳以降に行い、年金額の増額は12カ月から60カ月の月単位で行われることになります。また、その増額率は一生変わりません。増額率は、1カ月あたり0.7%です。

増額率=(65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数)×0.7%

例えば、本来65歳から受給する老齢基礎年金を70歳で繰下げした場合は、増額率は0.7%×60月=42%、67歳で繰下げした場合は、増額率は、0.7%×24月=16.8%増になります。増額された年金額が一生涯支払われることになります。

◇(2)国民年金と厚生年金の繰下げ
会社員の場合、国民年金と厚生年金の両方に加入しています。老齢年金については、老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を受給できます。この場合、2つの年金を同時に繰り下げることもできますが、それぞれに繰下げ時期を選択することもできます。

なお、この制度は、本来の終身年金である65歳からの老齢厚生年金と老齢基礎年金が対象になります。

◇(3)繰下げの留意点
繰下げ制度を活用して受給開始時期を決める際には、65歳を基準に1年ずつ考えるとよいでしょう。年金額が142%に増額されるからといって、いきなり70歳までの繰下げ宣言をする必要はありません。自分の働き方やライフプランに合わせて、まずは1年ずつ年金を繰り下げるかどうか検討するとよいでしょう。

また、繰下げをするつもりでいても、状況の変化等により、繰下げ受給をせずにそれまでの分も含めて普通に年金を受給するという「方向転換」も可能です(詳しくは年金事務所等にご相談ください)。

さらに、65歳から70歳の間の収入も考慮しましょう。繰下げ待期の期間中は、当然ながら年金は支給されません。また加算される年金がある人はその年金も支給されませんので、この間に退職金などある程度の一時金を受けられるか、企業年金や個人年金を準備しているか、それらの額をこの間の生活費の一部に充てることができるかなども考慮するようにしましょう。もちろん、65歳から70歳までの間の就労収入を少しでも増やすことができればそれがよいでしょう。

◆繰下げ制度の今後
令和2年年金法改正により、2022年4月から、年金の繰下げ受給の選択肢の上限年齢が「70歳」から「75歳」へ拡大されることになっています。1カ月あたりの繰下げ増額率は0.7%と現行と同じです。

老後期間が長くなるこれからの時代、自分自身の働き方・働く期間などに合わせて、一生涯受給できる公的年金については、繰下げ制度を活用して少しでも年金額を増やすことも検討するとよいでしょう。

文:原 佳奈子(マネーガイド)

文=原 佳奈子(マネーガイド)