【エンタメから社会課題解決まで】DX時代、DeNA新社長・岡村信悟氏が目指す社会的役割

「CEOは各事業を俯瞰して見ながら、DeNAという1つの船の中長期的な展望を導いていけるようにする」。創業20余年のベンチャーとして、事業撤退や世の中からの批判も受けながら、エンタメだけでなく、街づくりや社会システムに関わる事業も手掛ける企業になったDeNA。新社長・岡村信悟氏は同社をどうカジ取りしていくのか──。
本誌・北川 文子 Text by Kitagawa Ayako



CEOの役割も変化

「エンタメから社会課題解決まで。その両軸でユニークな特性を活かして事業をしていきたい」

 こう語るのは、今年4月ディー・エヌ・エー社長兼CEOに就任した岡村信悟氏。創業者で現会長の南場智子氏、前社長の守安功氏に続く、3代目の社長となる。DeNAは1999年「PC向けのネットオークション」で創業。2002年には「ショッピングモール」事業を開始。だが、PC向けではヤフーを超えられないと判断し、04年、いち早く携帯向けサービスに進出。「モバイルオークション」や「モバイル広告」事業を始めて軌道に乗せると、06年には「モバイルSNSのアバター」をヒットさせ、09年「ソーシャルゲーム」で急成長。12年度には売上高2025億円の企業になった。

 だが、携帯電話が〝ガラケー〟から〝スマートフォン〟になると事業は縮小。ガラケーでは「携帯ゲームのプラットフォーマー」だったDeNAだが、プラットフォーマーはアップルとグーグルに取って変わり、DeNAは一アプリ開発会社になったからだ。 

 19年度には、2010年に海外進出を図って買収した米ベンチャーの減損で、上場以来、初の通期赤字に転落。だが、翌20年度は、海外向けゲーム事業や新規事業のライブ配信サービス『Pococha(ポコチャ)』が好調で、売上高1369億円(前年比12・8%増)、営業利益225億円に復活した。

 前社長の守安氏は黒字転換と新規事業『Pococha』の海外展開の道筋を付けて社長を退任。後任社長として岡村氏が就任した。

 DeNAは、岡村氏の社長就任と同時にミッション、ビジョン、バリューを刷新。

 新たなミッションは「一人ひとりに想像を超えるDelightを」だ。

 このミッションは創業20年を迎えた19年、これまでの歴史を振り返り、社会にどんな価値を提供する企業でありたいかを見つめ直して導き出したものだ。

 Delightは2013年から打ち出しているキーワード。浮き沈みの激しいゲーム業界にあって「ゲームに次ぐ〝柱〟づくり」を図り、新規事業育成を加速させる中、世の中に〝Delight〟を提供する企業として事業の多角化を進めてきた。

 そして現在、「ゲーム」「スポーツ」「ライブストリーミング」「ヘルスケア」の4つの事業とECなどを含む新規事業を展開。今もゲーム事業の比重は大きいが、AI関連から街づくりまで幅広い領域の事業を手掛けている。

 特に、近年増えているのが他社との協業。

 任天堂とのグローバル市場に向けたゲームアプリの共同開発、東京農業大学やクボタと食農産業領域における包括連携協定、またセコム、AGC、NTTドコモとAIを活用した〝バーチャル警備システム〟などがある。

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岡村氏が考える
DeNAの強さと弱さ

 その中で、岡村氏はDeNAの強さと弱みを次のように分析。

「ピラミッド型ではなく、フラットで風通しの良い組織のため個の力が発揮されやすい」一方、「規模が大きくなり、事業領域も広がる中でパートナー企業との協業が大事になっている。社内外での連携をもっと強くしていく必要がある」という認識だ。

 過去20年は〝永久ベンチャー〟として必要な知識やスキルを個人が習得し、事業を成長させてきた。だが、「個の力に頼る組織形態」にもなっていた。そこで「成熟した会社として、個をつなげて組織の強み出していく」。

 経営のカジ取りもこれまではCEO自らが先頭に立って事業を伸ばしてきたが、これからは「CEOは各事業のリーダーを俯瞰して見ながら、DeNAという1つの船の中長期的な展望を導いていけるようにする」と語る。

 岡村氏だけでなく、6月の株主総会を経て、新たに取締役兼執行役員最高財務責任者(CFO)兼経営企画本部本部長に自治省(現総務省)出身で、13年に入社した大井潤氏が就任。また、全薬工業を経て、02年DeNAに入社した渡辺圭吾氏が取締役兼執行役員最高事業開発責任者(CBO)兼渉外統括本部本部長に就任する。

「渡辺は任天堂やクボタ、セコムとの協業を主導している人物。そのCBOの渡辺とCFOの大井の3人体制」で経営をカジ取りするという。

 4事業に新規事業とやるべきことが明確な中、CEOは事業から少し離れた視点を持ち「次のリーダー育成」も進めていく。

 連携という観点では、岡村氏の官僚としての経験が生きてくる。総務省では郵政事業から官邸、地方自治体関連まで幅広い領域で仕事をしてきた。

 岡村氏は自らの役割について「自分の専門性よりも、専門性を持った方の力を引き出すことのほうが大事。専門性は各事業のリーダーが持っている。わたしは、より俯瞰的に中長期的な視点を持ちながら会社の進むべき方向を見定めていく」と語る。



テクノロジーを活かした
〝公共の地場〟づくり

 岡村氏は16年4月の入社以降、主にスポーツ事業に携わり、横浜DeNAベイスターズや横浜スタジアム社長を務めてきた。その中で、岡村氏が打ち出したのが『横浜スポーツタウン構想』。

 スポーツをきっかけにエンタメ、観光、ビジネス、移住など、複合的機能を備えた都市空間づくりを目指すという構想だ。

 例えば、かつて関東財務局横浜財務事務所だった横浜市所有の赤レンガ造りの建物をベイスターズが賃貸し、野球をテーマにした飲食店やライフスタイルショップ、体験型スタジオ、シェアオフィスなどを運営。新たな価値創造に取り組んできた。

 また、スタジアムも野球の試合がない日にも人が集う開かれた場所に進化させてきた。

 その延長線として、現在、DeNAは『横浜市市庁舎跡地活用事業』に参画。三井不動産、東急、京浜急行電鉄と協業し、横浜市から約5000坪の土地を借り、高さ約170mのタワー棟、市庁舎建物を保存再生したホテル棟、多彩な商業施設が入る低層棟、そして駅前広場を整備する。完成は25年の予定。

 DeNAは「横浜を世界に誇るスポーツタウン」にすべく、ベンチャーと関内周辺エリアの地域課題を解決し、賑いを創出する事業の創出・推進役を担い、すでに3つのベンチャーを選定し、協業を開始している。

 また、DeNAは今年夏をめどに本社を『渋谷ヒカリエ』から『WeWork渋谷スクランブルスクエア』に移転。新たに横浜にも拠点を設ける。

「渋谷でいろいろなサービスが生まれているのと同じように、横浜でネット×リアルの新しいサービスをたくさん創出していく。それが横浜らしいスマートタウンになると思う」と岡村氏。

 総務省時代から「公共の地場をつくる」こと、世の中に必要とされる仕事をすることを重視してきた岡村氏。それは、活動の場が官界から民間に変わっても変わらない。

 岡村氏にとって、新規事業育成、働きやすい職場づくり、他社との協業、活気ある街づくり、これらすべて「公共の地場」づくりだ。

 会長の南場氏は経団連副会長に就任。変化が求められる中、日本を代表するベンチャーとして日本の競争力強化、世界における地位向上など、DeNAに期待されるものは大きい。

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