【『映画大好きポンポさん』SP】富澤祐介が語る平尾隆之監督と『ポンポさん』

現在、絶賛公開中の『映画大好きポンポさん』を手掛けた平尾隆之監督について、縁の人に語ってもらうインタビュー企画。
今回登場するのは、ゲーム『GOD EATER』シリーズを手掛けたバンダイナムコエンターテインメントのプロデューサー・富澤祐介だ。
『映画大好きポンポさん』を平尾監督が手掛けるにあたり、きっかけとなった彼に、『GOD EATER』を通して経験した平尾監督との濃密な仕事を振り返ってもらった。

>>【画像】『映画大好きポンポさん』の場面カット(写真10点)
【富澤祐介プロフィール】
バンダイナムコエンターテインメント所属。ゲーム『GOD EATER』シリーズや『テイルズ オブ』シリーズ等のプロデューサーを務めている。

ポンポさんと平尾監督の出会いを演出

——『映画大好きポンポさん』の映画化を平尾監督に推薦したのは、富澤さんだそうですね。

富澤 そうですね、平尾監督の前作であるTVシリーズ『GOD EATER』を踏まえて、また平尾監督と何か作りたいという思いが、まず我々の中でありました。そこで、たまたま『ポンポさん』の原作との出会いがあり、平尾さんに最初にけしかけた張本人が僕です。

——どんな理由で、平尾監督に『ポンポさん』の映画化を持ちかけたのでしょうか?

富澤 平尾さんともう1回、ある意味 ”大復活” を遂げる企画をやろうぜっていう話は、お互いにしていたところがあって。そこから、平尾さんはどういうものを作りたいのか、どういう作品が平尾さんに合っているのかということを、自分なりに悩みながら答えを探していたんです。そんな時期に、たまたまTwitter上で『ポンポさん』を知り、読んでみたら作品の中に ”平尾さん” がいた。何なら、”僕自身” もいるような気がした。そのくらい、我々に刺さる作品が突然天から降ってきたような感覚を受けました。だから読んで即日、平尾さんに「これ、読んで欲しい」と伝えました。その時点で「これを平尾さんが90分の映画にする」という考えも僕の中では浮かんでいたので、「読んでみて、返事をくれないか」と、半ば強引に話を振った感じです。

——具体的に『ポンポさん』という作品のどこに魅力を感じ、どこが平尾監督に合うと思えたのでしょうか。

富澤 原作には本当にいろいろな魅力がありますが、まず、実は自分自身が元々学生時代に映画を作ったりしていたんです。今はゲームのプロデューサーという立場ではありますが、当時は自分でも手を動かして、8ミリを回していた時代もあったので、作中で扱われているモチーフや、そこで語られている真実味のあるセリフに、まずはいち読者として惹かれました。また、ジーン君が抱えているルサンチマンや、”クリエイティブに関わらないなら死ぬしかない” という強烈な思いも、クリエイターやそれを目指す人からすると強く共感できる視点だな、と。そして、ジーン君のそんな心持ちは、平尾さんが常に言っている「マイノリティがマジョリティに一矢報いる」というテーマにもぴったりハマるだろうと、読んだ瞬間に思いました。そういう意味ではリンク度が高かった、というと単純すぎますが……自分と平尾さんの中で、この作品で圧倒的にいいものを作れるという直感がひらめいたところはありましたね。また、原作はいい意味でシンプルだし、はっきりしたヒール(悪役)もいない、幸せな語りの構造ももっていて。実は、平尾さんはそういう作りのシナリオが好きなようだったので、それもハマりがいいかな……と、すべてピースがはまってきて。この作品を平尾さんが、また誰も見たことがない演出で、90分で映像化したら、それは脳が痺れるよなーーそんな思いからご提案しました。

(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会

演出家・平尾隆之の特徴

——そんな平尾監督と富澤さんの出会いは、富澤さんが手掛けたゲーム『GOD EATER』ですが、どんな経緯で平尾監督とお仕事をすることになったのでしょう。

富澤 『GOD EATER』を2010年にオリジナルのゲームとして立ち上げるにあたって、何かしらアニメ的なフィーチャーをぜひしたいという話が出まして。その際に、うち(バンダイナムコゲームス/現・バンダイナムコエンターテインメント)のプロデューサーにufotableさんを紹介してもらい、当時ufotable所属だった平尾さんと出会いました。ゲーム発売前ですから、おそらく2008年頃だったと思います。ちょうど『劇場版「空の境界」第五章 矛盾螺旋』公開直後だったと記憶していますが、『GOD EATER』について説明をしたとき「こういう厨ニ的なものは、もう世の中に必要ないと思うんです」的なことを、淡々と言われたのを覚えています(笑)。ですから第一印象としては、その頃の平尾さんはナイフのように尖っていた気がしますね。両儀式(『空の境界』の主人公)と向き合ってきたせいかもしれませんが(笑)。とはいえ、作品に興味は持っていただけて、まずはゲーム内のOPアニメーションと、配信専用の12分ほどのPRショートアニメーションをお願いすることになりました。自分自身がアニメーション制作に関わるのがはじめてだったこともあり、平尾さんやufotableの近藤光プロデューサーに交互に叱られながら(笑)、一連の制作フローを体験する機会をいただいて。最初から平尾さんと、かなり濃密な時間を過ごさせていただきました。

*『GOD EATER』シリーズ=人類が衰退した地球を舞台に、特殊な武器〈神機〉を使ってモンスター〈アラガミ〉と戦うアクションゲーム。椎名は本シリーズの音楽を担当し、平尾監督はPVやOP&EDアニメーション等を制作している。後述のアニメ『GOD EATER』は本作の世界感をベースにしたオリジナルストーリーを描く、平尾監督のTVシリーズ。

——実際にお仕事をご一緒した経験も含めて、平尾さんの人となりや、アニメクリエイターとしての特徴などについては、どう感じていらっしゃいますか。

富澤 お会いする前から『劇場版「空の境界」』シリーズは公開済みのものはすべて観ていましたが、やはり中でも公開されたばかりの、平尾さんが担当した第五章は印象的でした。言葉では表現しにくい ”こだわり” というか、他とは異質なものを感じたので。そして『GOD EATER』でご一緒した後に『桜の温度』というショートフィルムを観たときは、自分では「厨ニ的なものはもう必要ない」と言っていたわりに、そのど真ん中にいる人じゃないかな、と思いました(笑)。『桜の温度』は平尾さんの私小説のような作品ではないかと、僕は勝手に思っています。どこか青臭い精神性と詩情みたいなものを隠し持っている人かもしれないと思って、僕自身、そこにシンパシーを感じました。その上で、演出手法の面では、既存のアニメーション演出にとどまらず、アニメーション外の映像表現や、何か新しい方法論に、つねにチャレンジしたいと考えている人だと思います。『GOD EATER』でも、ゲームの新作を作るたびにOPなどのムービーを作っていただきましたが、そのたびに我々を驚かすような実験的な画作りを提案してくれて。とにかく自分たちが持ち合わせていないセンスを、ゲームの入り口であるOPムービーに盛り込んでもらえるのが毎回、楽しみでした。「今回、平尾さんは何をやってくるんだろう」と。また、短いOPに膨大なの情報量を入れ込んであるので、平尾さんが演出した映像は何度観ても発見や驚きがあるんです。ゲームOPはファンに何度も観てもらって、いろいろ想像していただくことをひとつの目的にしていたので、それもありがたかったなと思います。

*劇場版「空の境界」シリーズ=奈須きのこ作の長編伝奇小説を劇場版アニメ化したシリーズ。平尾監督はその第5章「矛盾螺旋」を監督、独特の映像世界を展開して注目を集めた。

*桜の温度=2011年に公開された、平尾監督の短編映画。平尾監督の故郷でもある香川県の田舎町を舞台に、高校生の男女3人の複雑な感情のドラマを、独特の詩情あふれる映像で描く。現在、徳島市のufotable CINEMAで毎朝1回、上映されている。

——おっしゃるとおり平尾監督の作品はどれも、他の作品とはどこか違う映像の雰囲気を感じさせるところが特徴ですね。

富澤 そうですね、僕もいまだにそれを言葉で説明するのは難しいですが……。やはりアニメ以外の映像の方法論をアニメに持ち込むことによる化学反応みたいなものが、つねにあると思うんですよ。実写的な発想も、実写をそのまま真似するのではなくアニメに1回落とし込んで、新しい表現としてチャレンジする。結果、観たことのない映像になる。平尾さんご自身が、それをどのくらい計算されているのかはわからないですが、提案される我々としては、平尾さんの毎度のアイデアにはいい意味でのらざるを得ない。間違いなく新しいものになるという確信を持ちつつ、ワクワクしながらご一緒しているようなところがありますね。

(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会

TVシリーズ『GOD EATER』秘話

——TVシリーズ『GOD EATER』での、平尾さんとのお仕事はいかがでしたか。

富澤 TVシリーズに関しては、僕も原作ゲームのプロデューサーという立場だけでなく、スーパーバイザー的な立ち位置で最終的にはクリエイティブなところにもがっつり踏み込んで、一緒にやらせてもらいました。ゲームがおかげさまでシリーズを重ねて、5周年を記念してのTVシリーズでしたし、平尾さんとしてもTVシリーズの監督は初だったと思うので、お互いにとってそもそもハードルの高い企画になっていたのかなと、振り返ると感じます。シナリオから画作りまで、平尾さんがすべてのコントロールを担当し、作品をどういう方向にもっていくか、プリプロ段階のやりとりはかなり長い時間をかけてやっていたのを覚えています。その最たるものが、たとえば独特の ”影つけ”。平尾さんとしては、通常のアニメのフラットな画では原作ゲームのイメージを伝えきれないという感覚があったそうですが。

——影を表現する色調の段階を通常のTVアニメ以上に増やすことで、情報量が多くなり、独特の質感を持ったキャラクターになっていますね。

富澤 実は、かなりギリギリまでどんな画作りになるのか、見えてこなくて。プリプロの絵が上がってきた段階では、もうこの映像でいくという前提で作業を開始せざるを得ない時期でした。こちらとしては、確かに素晴らしいクオリティの映像で、これでやってもらえるなら何も言うことはないと思いましたが、はたしてこのクオリティを維持したままTVシリーズが作れるのだろうか……とにかく、このどこにもない映像で1クール走り切るのだという、平尾さんの強い意志を信じて、突っ走ることにしよう、と。「本当に大丈夫ですか」と僕らからは聞けなかったという面も、正直、ありました……結果、あまり大丈夫じゃなかった(苦笑)。

——予定されていた放送期間では第9話までしか放送されず、約半年後に終盤の第10〜13話が放送されることになりました。

富澤 本来ならもう少し早い段階で画作りについて検討、検証ができていれば、少しは苦労も変わっていたのかもしれませんが……。けれどやはり、シナリオも絵コンテも監督も音響監督も、あらゆるパートを平尾さんが担っていたので、スケジュールは尋常ではなかったです。もとより、難しいところがあったのかなとも思います。ただ、心意気というか志は非常に高く制作していただいたので、普通の座組ではとても実現しない作品に、最終的にはなったなと思っています。

——いろいろ ”大変なこと” になりながらも、それでももう一度仕事をしたいと思える何かを、平尾監督から感じたということでしょうか。

富澤 平尾さんのこだわり方は、寝技に近いというか(笑)。多分、ご自身の中でも答えが見えている部分と、作りながら探っていく部分と、両方持ちながら全体をコントロールしていくと思うんです。そこにダイナミズムがあるので、一緒に仕事をしている人も引っ張られていくところがあるのかもしれないです……とはいえ、大変なのは確かでした。結果的に大変な状況は生まれたので、原作プロデューサーの立場からも各方面に対するケアもしなければならなかったので、正直、すぐ次にまた平尾さんと作品を……という方向には動けない面は、実際にありました。けれど、個人的にはそれはそれとして、TVシリーズに関しては「大変な目に遭った」ではなく、「平尾さんを、大変な目に遭わせてしまった」という気持ちも、間違いなくあったんですよ。原作側として「お任せします」と投げるのではなく、「一緒にやりましょう」というパートナーシップで臨んでいましたし、最後のシナリオも何度も話合いながら一緒に作っていって、絆が深まった部分も多大にありました。そして自分的にも、その経験をきっかけに「もう一度ちゃんと成功するアニメを作りたい」という目標が何となく見えてきました。ただ、自分は基本的にゲーム屋なので。アニメに関しては次にどんなチャンスが訪れるのか、しかも平尾さんと一緒に作れるチャンスがあるのかという部分は、かなり不透明で……そんなこんなで、平尾さんとふたりで酒を飲みながら「何かいいチャンスがないかな」という話をうだうだとしていた時期もありましたね(笑)。

(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会

辿り着いた『ポンポさん』

——そんな時期に出会ったのが『ポンポさん』だった……ということでインタビュー冒頭に戻るわけですね。無事に完成し公開された映画、ご自身ではどんな感想を抱きましたか。

富澤 今まで話してきたような経緯もありますし、『ポンポさん』ではプロットやシナリオの段階でも意見交換し、本編を90分にまとめるにあたってもアイデアを出し合ったりと、実際の制作にも関わらせていただいています。そのステップのすべてまでが、自分の中ではメタな ”作品” と一体になってしまっているので、冷静には観られない面が、若干あります。でも、それは抜きにして、原作ファンも含めてどんな観客に対しても、本当に完璧に近い仕上がりになっていると、自信を持って言える作品だと思います。原作をベースにしつつ、オリジナル要素もまったく違和感なく、ひとつの映画としてまとめきっているバランスで、本当に感動的だな、と。特にそのオリジナル要素があることで、実際にクリエイティブに関わっていない方でも『ポンポさん』の物語や世界により入り込み易くなっていて、そこは平尾さんの狙い通りかなと思います。

——オリジナルキャラクターのアランを絡めることで、もの作りに直接関わってる人はもちろん、その周辺で働く人、あるいはもの作りに直接は縁がない人でも、広い層が楽しめる内容になっているますよね。

富澤 そこは本当に、宣伝的にも強調したいところですね(笑)。作中のアラン君もそうですが「自分には何もない」と言いながら、本当は「自分にも何かできるはず」「何かがしたい」という気持ちは、誰もが持っていると思うんです。そういう気持ちを応援してくれる映画ですし、一方である意味、その裏に ”狂気の世界” の入り口を描いていて、観る人によってはどこまでも深みにハマれる映画でもある。本作のターゲットについてはずっと議論もあったのですが、制作後半で音楽の松隈ケンタさんや神椿さんに参加してもらえたことで、若い世代の方々にも楽しんでもらえる映画にもなったとも感じています。とにかく多くの方とご縁がつながることで、僕が平尾さんにお話をしたときに想像していたものの何100倍もの輝きを放つ、宝石のような映画になった。そういう意味では多分、僕が一番嬉しいのですが(笑)。この映画で、ひとりでも多くの未来のクリエイターを応援したいーーという思いが僕にもあったし、平尾さんにもきっとあったんじゃないかと思います。ここまでストレートな応援歌を、作品として形にできる機会はこの後、あるかどうかもわからない。だからこそ多くの人に観てほしいですね。今、劇場公開中ですが、極端に言うなら、出会うのはいつでもいい。この『映画大好きポンポさん』という作品が、自身の夢に対して迷いや悩みを抱いた人が、いつでも触れられる一作として残り続けてほしいというのが僕の願いですーーでもせっかく上映中ですから、ぜひ劇場に行って観てください!

(C)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会