『機動戦士ガンダム』の音にリスペクトを捧げた『閃光のハサウェイ』

『機動戦士ガンダム』40周年作品として制作され、現在劇場公開中のガンダムシリーズ最新作『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』。
本作は、これまでのガンダム作品にはなかった没入感の高い演出がポイントとなっている。それを踏まえ、観客を『閃光のハサウェイ』の世界へと誘う重要なポジションを担った音響演出・笠松広司さんにインタビューを敢行、前編となる今回は『閃光のハサウェイ』の音響演出がこれまでのガンダム作品を踏まえ、どのように生まれたのかを語っていただいた。
▲音響演出を担当した笠松広司さん。

――笠松さんはスタジオジブリ作品の音響演出を数多く手掛けているという印象ですが、サンライズ作品は久しぶりの参加では?

笠松 そうですね。サンライズさんの作品は『∀ガンダム』で音響効果として参加させていただいたことがありますが、それ以来になります。

――『閃光のハサウェイ』はどのような経緯で参加されたのでしょうか?

笠松 村瀬(修功)さんからお誘いいただきました。以前、別の作品でも声をかけていただいたことがあったんですが、当時は他の作品にかかり切りだったのでお断りしてしまったことがありまして。それにも関わらず、またお声がけいただいたので、これはお引き受けしなければと思いました。その理由については聞いたことがないのですが、きっと僕のこれまでの仕事の中に、村瀬さんが望む何かがあったんだと思います。

――『閃光のハサウェイ』は、映像的にも音響的にも「没入感の高さ」が演出の大きなテーマであるように感じました。音響演出に関しても、最初から没入感を意識したオーダーなどがあったのでしょうか?

笠松 音響的に最初から言われていたのは「ペーネロペーの音にはこだわりたい」ということでしたが、その一方で、全体の音響的な要望に関して、事細かく言われるようなことは特になかったです。他の作品と同様、こちらの判断で音付けしたものを1回聞いていただいて、そこから演出意図に合わせて調整していくという感じで進めていきました。
▲村瀬監督はペーネロペーの音にこだわった。

――笠松さん自身は、これまでの『ガンダム』作品の音響について、どのような印象をお持ちだったのでしょうか。

笠松 特にガンダムシリーズの原点である『機動戦士ガンダム』ですが、大人になってこの仕事に就いて、改めて本編の音を聞いてみると天才的な音響だと感じました。既に作品そのものは高い評価を受けていますが、こと「音」だけを取ってもかなりクオリティが高いですね。

――それはどのような点が?

笠松 我々のような音を付ける仕事をしている人間はハリウッドの映画や海外音楽からの影響、またそれに対する憧れというのが大きくて、仕事をする中で「あんな風にしたいな」とつい引っ張られてしまうことが多いんですね、かく言う僕もそっち系のタイプなんですが(笑)。でも、『機動戦士ガンダム』の音には、そういう匂いが一切しない。あれこそがまさに日本特有のアニメーションの音ですし、あのスタッフたちでなければきっと出せない特別な音だと思うんです。現在のハリウッドのテクノロジーで音を付けても、おそらくああはならないし、ましてやあれを越えることはできないはずです。そういった面でも、『機動戦士ガンダム』はもっと評価されてもいいと思っています。

(C)創通・サンライズ



――具体的に、どういった部分がそれに当たりますか?

笠松 例えば、劇中に登場するモビルスーツに付けられた動作音です。巨大ロボットを「機械」と解釈するならば、工業製品的な音のようなリアルに寄ったものが正しいのかもしれません。おそらく、ハリウッドならそちらを選びます。しかし、実際のモビルスーツの音はそっちの方向ではなく、もっと独特な音になっている。そこがまだ我々が見たことのない「軍事転用されたロボット」という設定にリアリティを感じさせてくれるんです。もちろん音自体の時代感や質の面での古さは否めませんが、「音色」という意味では最高ですよ。

――笠松さんが感じたそれらのイメージは、本作でも引き継がれているのでしょうか。

笠松 そうですね。特報映像を作る時に村瀬さんと最初にお会いした時、「僕は可能であるなら最初の『ガンダム』の音を引きずりたい」と伝えまして、「それはそうですよね」と村瀬さんがお返事されていた記憶があります。

――『機動戦士ガンダム』のイメージを踏襲しつつ、現代のサウンドへと再構築していった?

笠松 はい、しかしその表現はとても難しくて、作業中にも「これは再構築なのか、それとも単に『機動戦士ガンダム』を模倣しているだけなのか?」と自問自答しつつ、ずっと考えながらやっていました。先ほど言いましたモビルスーツ周りの音に関しては、特に大きな命題でした。
▲モビルスーツの音に腐心した笠松さん。

――作業の中で特に意識された部分は?

笠松 「音を『ガンダム』にしなくてはいけない」というプライオリティが高い一方で、いわゆるドラマパート、平場の部分に関してもきっちり作品の世界観が見えるようにしたいと思っていました。これは村瀬さんから直接オーダーされたわけではないですが、僕に依頼してきたのはきっとそういう部分を求めたからではないか、と何となく思っています。映像がやはり村瀬ワールドという感じで、多分どのシーンを切っても村瀬さんの頭の中では確実に理論武装されているんだろうなと思いました。『閃光のハサウェイ』という世界線の中でのリアリティがあって突飛な部分はないので、音の演出に関してはあまり迷いがなかったです。もちろん、個々の音に関してはものすごく試行錯誤していますが。
▲村瀬監督の求めるリアルな世界観を音響で支える。

――村瀬監督の映像は実写的なので、その辺りも笠松さんとは相性が良かったのかもしれないですね。

笠松 ええ。村瀬さんとは話も早くて、例えば爆発の音の距離感について話をしていても「本当は音が届くまで3秒以上かかるんだけれど、そこまではいらないよね」というような感じで、全部説明しなくてもどんどん話を展開できましたから、そういう意味ではやりやすかったです。 笠松広司(かさまつ・こうじ)
音響効果会社「デジタルサーカス」代表。TV・映画・ラジオ・DVDなどの音響効果、さらには音楽プロデュース、バラエティ番組の効果など幅広く活躍。『ゲド戦記』(2006)、『崖の上のポニョ』(2008)、『風立ちぬ』(2013)、『海獣の子供』(2019)、『きみと、波に乗れたら』(2019)、『映画 えんとつ町のプぺル』(2020)など、話題の作品を多数手がけている。

>>>実写のリアルを追求した『閃光のハサウェイ』場面カットを見る(写真9点)

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